第13話 忍び寄る魔の手
「そなたが見たのは、炎を操る銀髪の娘、で間違いないな?」
「はっ」
兵士が跪き、大臣の問いに答える。
二人のやりとりを、階段の上に置かれた豪華絢爛な椅子から、老人が見ていた。
この老人こそ、この国の王、ジエロ・アマスである。
この世のあらゆる魔法を扱うといい、いくつもの戦争を指先一つで終わらせた伝説をもつ。
「陛下、銀髪の女、記憶にございますか」
大臣がうやうやしく、言葉少なく聞く。
「両手じゃ足らぬ」
アマス王が右手で、側に控える銀髪の従者の髪を撫でる。
ほれ、と言うと、従者は王の衣服をめくり、奉仕を始めた。
この色狂いめ、大臣は心の中で毒づくが、表情には出さない。
アマス王のひどい女癖のせいで、王族特有の強力な魔法を扱う子供が時々でてくる。
その者が反乱を起こす可能性があるということで、見つけ次第順次殺害することになっている。
国家に協力的な者も、後継問題に発展するのを恐れ、死地たる戦線を転々とさせ、死ぬまで戦わせたり、不慮の事故として殺害している。
これまで国のために葬ってきた王の落し物は、百ではきかない。
やれやれ、大臣は舌で歯茎を押す。
兵士へ問いただす。
「なぜ、規則通り殺さなかった」
「はっ、A級冒険者の玉ねぎの根が、落し物の側を離れず、手が出せませんでした」
冒険者か。忌々しい。
国への感謝もなく、我が物顔で国が作った道路を歩き、橋を渡る。
実に無礼で不誠実なものどもだ。
しかも困ったことに、彼らは戦術兵器なみの戦闘力があるので迂闊に手が出せないときた。
「落とし物の名は」
「スノゥ、と申しておりました。今は南の、海岸沿いにおります」
苗字もなければ調べるのは困難を極める。
だが、居場所がわかっているならやることは一つだ。
「よい。下がれ」
王を見る。やれやれ、また子を増やすつもりか。
両手に女を侍らせ、弄り、お楽しみだ。
この状態の王に声をかけると、重力魔法で拳ほどの大きさに押し潰されてしまう。
たとえ大臣でも、、、
7代前の大臣が死んだのは、あの扉の前。
4代前の大臣が死んだのは、あの階段の二段目。
さてさて、どう対処するか。
王の落とし物も、ピンキリだ。
国家転覆の脅威となる強力な魔法使いから、冒険者となっても活躍できずに死に絶えるものまで。
今回のは、やや脅威だ。
なんせ、デーモンをやすやすと葬るのだ。
「ぶつけるか」
大臣は王の間を去り、地下牢へ向かった。
階段をおり、元A級冒険者が塞ぐ扉を開き、カツカツと歩るく。
牢屋だ。
10人以上いる。
皆両手を鎖に繋がれ、ガリガリに痩せ細っている。
王の落とし物たちだ。
「この中で火を扱う魔法使いを殺したいものはいるか。殺したら褒美をやろう」
沈黙が響く。
やれやれ、毎度毎度痛い目に合わないと返事も出来ないらしい。
立て掛けたムチを手に取る。
「や、やらせてください」
一人の女が蚊のような声を出した。
「お前はステューシアと言ったか。氷を扱う、だったか?氷で炎を倒せるか」
「暗殺なら、私の魔法は向いています」
「なにを望む」
ステューシアは俯き、地面を見つめる。
「スープを。温かいスープが飲みたいです。ここにいる全員で」
大臣は舌打ちをする。
「そんなものか。気味が悪い。自由とか金とか言っておれば可愛げがあるものの…ふん。まあ良い。影を付ける。裏切り者には死を。裏切り者の仲間には拷問を」
スティーリアがブルブル震える。
両目から涙がとめどなく流れている。
部屋中からシクシクと抑えて泣く声が漏れ聞こえる。
「裏切りません」
「わかった。スープを用意する。出発前に飲んでいけ。帰ってきたらチキンでも用意してやろう。では、準備をしろ」
顎で兵に指示し、ステューシアの鍵を外す。
ゆらゆらと部屋からでるステューシアは、疲労と絶望を感じさせる暗い顔をしている。
だが、長い足と引き締まったウエスト、割と大きめな臀部に大臣は唾を呑み込む。
「その前に、湯を浴びたらワシの部屋に来るように」
「…はい」
うっ、、、しくしく、、、
牢屋の中から押し殺すように泣く声が、部屋にじっとりと響いた。
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