第7話 スノゥがほとんど大佐な件について
西部戦線に向け、街を出て歩き始めた。
徒歩で四日はかかるだろうか。
長旅に備え、ある程度の荷物を背負って歩く。
「スノゥは火の魔法の他に何が使えるんだ?俺は錬金術師でよく知らないが、魔法はいくつか属性があると聞いたことがある」
道すがら、スノゥに質問した。
「わたしは火だけ。施設にいた他の子は、水と土とか、火と雷とか、いくつか使える子もいたけど。タックの土を操るやつは魔法じゃないの?」
「ああ、皆がイメージする錬金術ではないけど、あれも錬金術なんだよ」
この世界には、魔法と錬金術がある。
錬金術は一般的に、薬を調合したり、素材を組み合わせて新しい素材をつくるものだ。
つまり、無から有は作れない。
あるものを消費し、他のものに作り変えるイメージだ。
だから、構造とか組成とか、現世でいう物理化学、地学、薬学等、膨大な知識が必要なのだ。
魔法は違う。
神の恵として、魔力を賜り、魔力を消費して火や水、土や雷を出す。そこに理屈はない。
俺は魔力もそこそこあるし、学校で習ったので火と水は少量だが出せる。
スノゥの火の魔法は、俺の認識から大きくズレていた。
大きな扉の形を留めた炎を出す時点で凄まじく、同時に別の場所にトカゲを摸した火を操っていた。
戦線でも同時発動というのは見たことがなかった。
「スノゥは火の魔法を同時に何ヶ所にも発生させられるのかい?」
ん。と頷くと、我々の後ろに人を模した炎を12人出して見せた。
「これしか遊ぶものがなかったから」
12人の炎は、6対6に分かれ、戦い始める。
「何人出せるの?」
「わからない、、、100とか?やったことないから」
「うっぷす」
驚き変な声が出た。
凄すぎる。もはや戦術兵器だ。
何故このような人財が埋もれてしまっているのだこのダメ国家は。
こういう人がまだまだ市井に埋もれているかもしれない。
見つけ次第、弊社にスカウトしなければ。
「スノゥ、俺が今まで出会ったどの魔術師よりも、君のほうが凄い。戦い方次第では、一人で戦局を変えうる存在だ。わかるかい?君は修羅になれば、国の宝になれる」
少し、間をおく。
スノゥは口を挟まず、俺の言葉を待つ。
「だが俺は、君には兵器としてではなく、一人の人間として幸せに生きていって欲しい。弊社職員の幸せな日常こそ、社長の俺の幸せなんだ。その力、磨きはしても使い方には気をつけて欲しい」
「わかった。わたしの火は、人を殺したり、獣を殺すより、誰かを幸せにするために使う。温めたり、照らしたり、そういう人になりたい」
ありがとう。
想いが伝わった。
この選択が正しいかはわからない。
乱世においては圧倒的な暴力が正義になることもあるだろう。
だが俺は、昨日美味そうに飯を食べていた彼女の笑顔を守りたい。
そう思ったのだ。
「タックは、いまいくつなの」
「25歳。ピチピチの働き盛りさ。スノゥは?」
「18」
「本当は?」
はぁ?という顔で睨まれる。ああ、そういえばこの世界には18禁という概念はなかった。
「え、本当に18歳なの?」
コクリ、と頷かれる。
正直15歳くらいだと思っていた。
余程栄養状態が悪かったのだろう。
背も低く、幼い。何がとは言わないが、幼い。たくさん食べてもらわねばなるまい。
◯
日が落ちてきたので、岩場の上に今夜のキャンプ地を設営することにした。
岩場は俺の独壇場だ。ここなら地面から千の槍を突き立てることもできるし、岩壁で敵を押し倒すこともできる。
早速岩の組成を確認し、錬金術を発動した。
ゴゴゴゴゴゴゴ
岩の形がみるみる変わり、岩製の小屋の出来上がりだ。ラーメン構造を取り入れた。丁寧に基礎を仕上げ、柱も梁も施したので、台風だろうが地震だろうが壊れはしない。
仮住まいであろうと、建築物は真面目に創りたいのだ。
「凄い。お城より頑丈なんじゃないの?」
「頑丈さ。好きなんだ、こういうのが」
小屋の壁をバシバシ叩く。
「橋とか、トンネルとか、ダムとか。そういうのが好きってだけさ」
「ダム?」
「ああ、巨大な貯水池みたいなものかな。ダムがあれば水不足はかなり防げる」
「ダムいいな。なんでこの辺にはないんだろう」
そういえばスノゥは水に恵まれていなかったな。
「山間に作るものだからね。こんな平地じゃ、水を溜められない。会社を作ったら、ダムを作ろう。いつでも好きなだけ水が飲める」
「天国…」
スノゥはうっとりとした顔をしている。
持ってきた食材でシチューを作り、二人で食べる。誰かと食べると、いつもより美味しい。
「うまいか?」
「ん」
返事は短いが目尻が下がっている。
どうやらお口に合ったようだ。良かった。
◯
旅を始めて三日目の夜。
この男はおかしい。
おそらく陰茎が機能していないのだろう。
わたしはちゃんと寝る時は、脱がしやすい服を選んで着て、奴が起きてる時間に「おやすみ」と言い寝たふりをしている。
それにも関わらず奴は指一本触れてこない。
こんなに長い時間一緒に居るのに、身体に触れてこない男は見たことがない。
確かにわたしの身体は魅力的ではないかもしれないが、三日もムラムラしない男など存在するのか?
いや待て、世の中には男が好きな男もいると聞く。
奴は男が好きな男か、陰茎が機能不全なのだろうと思うことにした。
そうでなければ辻褄が合わない。
だが、わたしは奴の作る飯が好きだ。
いちいち美味いか聞いてくるが、美味いに決まっている。不安になる意味がわからない。
この飯が食べられるだけでも、幸せだと感じる。
たとえ身体を求めてもらえなくとも、わたしは奴と食事を共にする時間が好きだ。
今は、それでいい。
⬛︎⬛︎⬛︎
おばんです!作者の相楽 快です。
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ありがとうございます。
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