第6話 スノゥふたたび

スノゥはあっさりと帰っていった。

俺の誘い方がめちゃくちゃだったのも良くなかった。

まあでも、全く懐かれなかったし、仕方ない。


街を歩くと、前以上に物乞いが目につくようになった。

腕を失ったもの。目を失ったもの。

痩せた子供。飢えた老人。

そんなものたちが道の両端にゴロゴロいる。

今の予算では、とてもとても力になれない。

だが、目に入ったコップや水瓶に次々と魔法で水を注いでいく。

4区画も歩くと、魔力切れでクタクタになってしまった。


肩で息をしていると、前から役人が馬に乗ってやってきた。

朱色の上等な絹製の衣服に、肩から装飾が豪華な刀剣を差している。

「おいお前、通行税だ。金を払え」

ゴミムシを見るような独特な目。おそらく貴族の三男坊あたりに違いない。

「手持ちが少なくて申し訳ございません」

丁重な口調を心掛け、懐から5000ギルを差し出す。

「フンっ、酒の足しにもならんわ。まあ良い。殊勝な態度に免じて通行を許可する」


「感謝いたします」

頭を下げ、逃げるように通り抜ける。

腐れ貴族が。なにが許可するだ。通行税を払うのは関所のみである。

あれは完全に私服を肥やすためだけの違法行為だ。

いろいろ言いたいことはあるが、この世は貴族に非ずんば人にあらずな平安末期のようなな世界だ。

郷にいっては郷に従え、という教えにのっとりやりすごす。


はあ、早く田舎に拠点を作って、こういう嫌な気持ちにならずに済む生活がしたい。


金だ。金が必要だ。


そろそろマスタード大尉の元へ行き、ひと稼ぎしに行くのもいいかもしれない。



しばらく歩くと、先程見た通行税とイチャモンをつけ、金をむしり取る役人を見つけた。なにやら物乞に絡んでいるらしい。


「だから!お前を一晩抱いてやると言っているんだ!早く立ちなさい」


「やだ」


「乞食風情が口答えするな!早く立て」


役人が物乞いの腕を掴み、引っ張り上げた。

物乞いはスノゥだった。


あちゃー、どうしようかな。

貴族だし、大金貰えるチャンスかもしれないし、勝手に割って入るのも悪いかな。


「やだ。生理なの」


「それでも構わん!いいから来い」


いやいや、お前が構うかどうかは知ったこっちゃないのよ。


「お役人さん。その娘、いくらで買うんですか?」


俺は怒りをかわないギリギリの口調で聞いてみた。


「貴族の私が、抱いてやると言っているんだ!その事実が、報酬だ!」


言葉はわかるのに、何を言っているのかわからない。

いや、わかるんだけど、わからない。わかりたくない。


「あ、タック。助けて。このロリペド変態に犯されちゃう」


頭を抱える。

おいおいおいおい、切り捨てられちゃうよ、君も俺も。


貴族の顔はみるみる赤くなっていく。

拳がわなわな震えている。

「タックと言ったか。この娘に、私に抱かれる素晴らしさを教えてやれ」

すぐに手が出ないだけ、まだまともな貴族かもな。


「お役人様。その者無知故にご無礼致しました。ですが、本日は体調が優れぬようです。お役人様であれば、いくらでも慕う女性がおりますでしょう。今日のところは、ご勘弁を」


丁重に、スノゥは勘弁してくださいと伝える。


「まあな。よくわかっておるではないか。だが、今日はこの物乞いと決めたのだ!さあ、説得する相手を間違うでないぞ」


駄目だな。


「スノゥ、走れるか?」


ん。と短く返事すると、貴族の腕を振り解き、こちらへ走り寄ってくる。


「じゃあな!ロリペド変態貴族!おイタが過ぎないように気をつけろよ!」


捨て台詞と共に、役人たちの足場を一旦ぬかるませ、固めた。


「ぐっ、なんだこれは!おい!貴様!死罪に処すぞ!おい待て!おい!」


ガニ股で役人が怒っているが、殺すと言われて待つやつがいるか。



温泉宿に戻り、すぐに荷物をまとめた。

「スノゥ、俺はこれから西部の魔獣戦線に参戦しひと稼ぎする。お前も来るか?」


「タックは会社を作ると言っていた。わたしを雇うなら、ついていく。食事付き」

スノゥにしては珍しく、口角が上がっていた。


「わかった。社食もつけてやる。よろしく頼むぞ」


⬛︎⬛︎⬛︎

おばんです!作者の相楽 快です。

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