27.吐露
―碧生―
生放送が始まった。
普段はメンバー二人ずつで、事前収録したものが放送されている。今回は新譜リリースの特集のため、二週に分けて三人ずつで生放送される。
普段通り、まずはリスナーからのお便りコーナー、今年も参加が決まった野外フェスの宣伝や練習中のエピソードトークと続き、話題は俺が作詞に参加した収録曲の内容へと移っていった。
「めっちゃ悩んで書いてたよね」
大知くんが話を振ってくる。すかさず奏多が、恋愛経験無いもんな、と茶化してきた。
「一生懸命、想像膨らましたんやろ?」
「そうだよ、ほんとに」
憮然として腕組みしてみせる。
「勉強の為に少女漫画まで読みましたから」
すげえ、と大知くんが笑う。
「何か、モデルにした作品とかあるの?」
「え?いや……」
咄嗟に出てこない。
確かに、歌詞を書き始めた最初の頃は、漫画好きの千隼に借りて少女漫画を何冊か読んだりしたのだけれど。
「まあ結局は、俺の感性の賜物かな!」
強引に話をまとめる。さすがやな、と奏多が笑った。
「あんなに煮詰まってたのにな。もう書けへんて言うかと思ってたわ」
「ああ……まあね。そうなんだけど」
頑張ったんだよ、と濁しながら、顔が思い浮かんでしまう。
「先生が」
無意識に口に出してから、しまったと思った。
奏多と大知くんが顔を見合わせる。
「あ、いや。その」
「先生って、俺らの中国語の先生の事やんな?」
奏多が助け舟を出してくれる。
「俺たち、週に二回くらい語学のレッスンもあって」
「そうそう。英語とか韓国語もね、色々」
大知くんも話を合わせてくれる。
「で、えっと中国語の先生だっけ。碧生の作詞を手伝ってくれたの?」
「ん……まあね」
結局そこへ話が戻ってしまうので、続けるしかない。
「歌詞書けなくて困ってたら、じゃあデートしてみようよって、連れ出してくれてさ」
「まじで?」
大知くんが驚く。
「男二人でデートしてきたんや」
奏多が冗談ぽく付け加える。たぶん、ファンに向けて配慮してくれたんだろう。
「で、デートって何したん?」
「……ご飯食べて、水族館行って」
「うわ。王道やな」
「あとは、観覧車乗った。夜景見ながら」
「ロマンチックだねえ」
大知くんも乗ってくれる。
「二人でどんな話するの?」
「色んな話したよ」
会話の内容を思い出そうとして最初に頭に浮かんだのは、観覧車の高さに慌てる先生の表情だった。
「……色んな表情も、見せてくれた」
思い出すと、微かに胸が苦しくなる。
「あの人、いつも仏頂面のくせに高い所怖がってさ」
初めて見る先生の様子が可笑しくて、思わず思い切り笑ってしまった。
笑うと目立つ八重歯がコンプレックスだったのに、そんな事を気にする余裕もなくて。
「俺が笑ったら、釣られて先生も笑ってくれて……」
あんな表情をする人だと思っていなかった。
印象が、一気に変わった。
「笑ってるところ、初めて見たんだよね。この人、こんな優しい顔して笑うんだって、ちょっとびっくりして」
帰りはすごく疲れてたはずなのに、段々と車外の風景が見覚えのあるものになるにつれて、何故か、どんどん寂しい気持ちになっていって。
「……もっと知りたい。もっと一緒に居たいって……こういう気持ちが、恋なのかなって……思っ、て」
ふと我にかえる。
そういえば、さっきからずっと俺一人で話しているような。
知らないうちに伏せ気味にしていた瞼を持ち上げると、何とも言えない表情で見てくる二人と交互に目が合った。
顔から、火が出そうになる。
「……っ!」
「先生のお陰で、恋する気持ちを知ったんだね」
大知くんが、そっとフォローしてくれる。
「じゃあそんな感じで、碧生が想像力の限界に挑んだ曲を聞いてもらいましょうか!」
奏多が上手くまとめて、曲紹介に持ち込んでくれた。
「それでは、来週から先行配信される新曲です。『star.b』で、"innocent noise"」
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