28.すき

―碧生―

ゆったりとしたテンポのイントロが流れ始める。

俺の向かい側で、ヘッドフォンを外す音がした。

「……あお」

奏多が呼びかけてくるが、伏せた顔を上げられない。

「見んなよ……っ」

手のひらで挟んだ頬が、燃えるように熱い。

「俺、今絶対やばい顔してる……っ」

そっと肩に手が触れた。奏多にしては指が長いから、大知くんの手だと分かる。

碧生、と大知くんも俺の名前を呼んできた。

「先生と仲良くなってから、すごく表情が柔らかくなったよね。そんなに仲良いんかなって、ずっと不思議に思ってたんだけど」

「良くない」

思わず言い返した語気が強くなる。

「年の差あるし、仕事はお堅いし。頭の出来は全然違うし。聞いてる音楽の趣味も合わないし。気が合うとこなんか何もないっ……」

「でも好きなんやろ?」

静かな口調で奏多が言う。

途端に、息が詰まりそうなくらい鼓動が早まった。

「違……っ、そんなんじゃ……」

否定しようとする声が震える。

「そんなんじゃ、ない……」

消えていく語尾に、隠しきれない本心が滲み出す。

―滅多に笑わないクールな横顔、何が起きても淡々としたままの口調。

なのに、不意に優しく笑うから。

心が掻き乱されて、今まで知らなかった気持ちが溢れて止まらなくなる。

―……すき。

ああ、そうだ。そうなんだ。

きっと、この気持ちが……。

流れていた曲が止む。

奏多は再びヘッドフォンを付けると、マイクに口を寄せた。

「はい。聞いて頂きましたが、いかがでしたか大知くん」

仕事用の声に戻り、大知くんに話を振る。

振られた大知くんも何事もなかったかのように、いつも通りの口調で感想を口にする。

俺は気持ちを切り替えられないまま、呆然と二人の様子を見ているしかなかった。

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