ACT07.片想いメロディーライン

26.オンエア前

―碧生―

先生が事故に遭ってから、一ヶ月が過ぎた。

結局、あの時の怪我をきっかけに先生の語学の授業は無くなってしまった。

野外フェスやファンイベントの準備に追われてスケジュールが合わず、最後の挨拶も出来ないまま。

あんなに言葉が思い浮かばなくて悩んだ作詞は、何とか締め切りに間に合いレコーディングも終了した。来週から配信が開始される予定になっている。

そうやって、忙しい日々に身を任せて忘れたつもりでいるけれど、ふとした瞬間に思い出してしまう。

―あの夜の、衝動を。


***

「ぼーっとしてる」

「え?」

我に返って声のする方を向いたら、思った以上に近い距離に奏多の顔があって仰け反った。

「何だよ、近いな」

「熱でもあるんか?」

伸びてきた手を大袈裟な身振りで振り払う。

「やめろよ、何でもないって」

「考え事してて大丈夫?」

近くで台本をめくっていた大知くんがこちらを見る。

「今から、ラジオの生放送なのに」

「ごめん、大丈夫」

誤魔化すように台本を手に取って開く。でも、全然内容が頭に入ってこない。

―昨日、先生から着信があった。

仕事中で出られなくて、家に帰ってから気がついたけれど、日付が変わって日が暮れた今になってもまだ掛け直していない。

忙しいから仕方ないと自分に言い聞かせているけれど、本当のところは掛け直すのが怖いだけだ。

一体、何を言うつもりで―。

「ほら、もう行くぞ」

急かすように奏多に肩を叩かれ、控室の椅子から立ち上がった。

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