13.おばあちゃん子
―亮―
会議室の扉は開いたままになっていた。
まだ誰も来ていない部屋へ入り、鞄を置いて椅子に腰かける。教卓代わりにしている長机の上に、朝陽から借りた雑誌を置いて広げた。
ちょうど真ん中あたりのページに、ここ最近ですっかり顔なじみになった六人のグラビアが載っている。
ラフな衣装に身を包み、リラックスした表情で撮られたソログラビアに続いて、メンバー二人ずつの対話形式によるインタビュー記事が載せられていた。
―『お互いの第一印象は?』
奏多『最初は大人しそうな感じでしたね。今はめっちゃ喋りますけど』
碧生『まさにアイドル。見た目もそうだけど、オーラが違う』
―『お互いの尊敬しているところを教えてください』
奏多『未経験からダンスを頑張っているところ』
碧生『特徴的なハスキーボイスが羨ましいです。聴いている人の印象に残る声だと思う』
そうだろうか、とページをめくりながら疑問に思う。
確かに内海さんの声は特徴的だけれど、僕は最初に聞いた時から牧野さんの声の方がいいと思っていた。むしろ、牧野さんの声しか印象に残っていなかったくらいだ。
それは個人の好みによると言えば、そうなのかも知れないが。
―『歌手を目指したきっかけは何ですか』
奏多『小さい頃から人前で歌うのが好きでした。なかなかチャンスが掴めず諦めかけた時もあったんですが、今こうして夢を叶えられて幸せです』
碧生『自分が唯一、自信を持てる事が歌だったので。両親には反対されましたが、おばあちゃんが背中を押してくれました。今でも一番応援してくれています』
どうやら牧野さんは、おばあちゃん子らしい。
僕が作ったお粥を食べながら、おばあちゃんの味に似てると言って懐かしそうにしていた事を思い出す。
次のページをめくると、今度は一問一答形式になっていた。
朝のルーティン、鞄に必ず入れている物、好きな香りの種類、とマニアックな質問が続く。
最後の質問と答えに目を通した。
―『理想のデートコースは』
奏多『夏なので、海に行って花火がしたい!』
碧生『ご飯食べて映画観る。終わり』
「あっ、先生!お疲れ様です」
張りのあるハスキーボイスに顔を上げると、今まさに雑誌で見ていた本人が目の前にいた。
「お疲れ様です、内海さん。早いですね」
「え、そうかな。もう時間ですよ」
言われ、壁の時計を見るともう授業開始五分前だった。雑誌を読んでいたらあっという間に時間が過ぎていたらしい。
お疲れ様でーす、と口にしながら、続々と残りのメンバー達も会議室内へ入ってくる。他のスケジュールを終えた後だったのか、皆一様に疲れた表情をしていた。あくびを噛み殺している人もいる。
席に着いた面々を見渡し、一人足りない事に気が付いた。
「牧野さんは、どうしました?」
最前列に座る内海さんに問いかける。
すると、会議室内の空気が強張ったのを感じた。
「どうか、したんですか」
まさか牧野さんに何かあったのかと思ったら、内海さんから返ってきたのは予想外の答えだった。
「実は、碧生のおばあちゃんが亡くなったらしくて……」
「……え?」
「昼頃に連絡があったみたいです。撮影が終わってから、急いで実家に帰りました」
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