第11話 地獄

 地獄の3月。地獄は、今まで以上の地獄絵図となっていた。

 急なヘブンズ・ボムの起動。それに伴う地獄の壊滅。戦争に出兵していた者以外は、おそらく全滅。


 文字にしてみれば、たったこれだけの出来事。

 これだけの出来事に……私たち地獄軍は絶望なんて言葉じゃ表しきれない感情を抱き始めていた。

 雨の夜、軍隊は地獄に帰還していた。

 まさか、ヘブンズ・ボムを攻撃に利用することがあるだなんて、想像できただろうか?相手に壊滅的なダメージが与えられるとはいえ、永遠京に行くというデメリットの影響は計り知れない。

 それに住人からすれば、「負けた側がヘブンズ・ボムを起動して、自分の地を破壊する」というのは常識だった。疑う余地もないほどの、ごく自然な事だった…….。


「なぁ……ミトモ……俺ら、負けたのか?」

 マツダが呆然とした表情で問いかける。

「わからない……です……」

 ただ確実なことは、負けに向かって1歩前進したことだ。

「ねぇ……マツダ。小隊は……死んだの?」

 ダメだ。さすがにこれは堪えた。

「わからない……なんて言いつつもこの惨状を見れば、絶望的なのはわかるだろ?」

「ミカエルは……キリエは……死んだ……?」

「あの……クソ天国野郎!!!」

 マツダは、何か壁にでもあたろうとして……そして、何も無いことに気づく。

 建物があった形跡は、散らばった建物の欠片のみに留まっていた。

「なぁ……俺らはどうするべきなんだ?」

 マツダが聞く。それは、私たち地獄軍隊の一番の疑問だ。これは私たちの負けなのか?

 極王は死んだ。しかし、天国王女も永遠京へ送られた。

「でも、マツダ。私はもう疲れました……負けなら負けで、もういいじゃないですか?」

 戦争のために生きてきた私がそんなことを言うなんて……数日前の自分には、想像すらできなかった。

「俺も……そう思う」

 それは、マツダも同じだった。


 私たちは、示し合わせたわけでもなく、ふたりでヘブンズ・ボムの元へ向かっていた。

「せっかくなら、起動させた方がいいんじゃね?」

 マツダのその一言が、冗談であることは2人も分かっていた。

 そして、それが冗談じゃなくなるのも、分かった。

「使い方わかんないんだけど、これで合ってるよねー?」

 私が起動すると、話で決まった。しかし……肝心の使い方がわからない。何か……使い方を記した書類など無いものか……

 と、ボムをいじっていると、ふとボム内部の電光掲示板が光った。暗闇に、使い方マニュアルがピカりと光ったのだ。

「おぉ!これで使えるじゃん!」

 ボムのマニュアルは内容ごとにまとめられている。それを念の為、上から読んでいく。

「やっぱり、使いやすい仕組みにはなってるんだな」

 そして、使い方を最後まで読み切ると、本当に無駄なシステムがなく、使いやすく、そして威力の高い凶悪な代物なのか理解させられた。

「よし、マツダ!終わっ……」

 その時、使い方マニュアルの最後の一コマが目に止まった。きっと……更新日時はつい最近だ……。

『ミトモ!マツダ!いきr』

 短いこの文章を読んだ時、私は思い出した。

 キリエは、武具などの整備をしている……。


「マツダ……やっぱり、まだ戦おう」気づけば言葉が出ていた。

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