第10話 もう3月
「もう3月か!早いなぁ!」
「父さん、再会の一言がそれは無いでしょ……もうちょい喜んでよ……」
ミトモとマツダと、ついでにゴズちゃんの前であんなにイキった手前、約束を果たさない訳にはいかずに今この状況である。
「いやまぁ、親父の照れ隠しだとでも思ってくれや。ヨシダ、元気してたか?」
ヨシダ呼び、懐かしいな……。いっつもミカエルって呼ばれるんだから……。あいつら他の隊員は名前呼びするくせに、僕だけ苗字で呼ぶんだよ……なんなの……?
「元気だよ。この年でこっち来ちゃったけど」
「ほんとだよ!」
父さんは笑いながらそう言った。そして、
「お前はこっち来ると思ってたんだよ!あ、褒め言葉だからな」
なんて言いのけてやった。何この楽観的すぎる親……芸人ってこんなもんなの?
「というか、なんで息子がこの年で死んでるのに、それより前に父さんが死んでるんだよ」
怒りと呆れと失望と、そして悲しみの全てがこもった質問が、気づいたときには、口から零れていた。
「はっは、自分でも不思議なんだよな。どうしても死にたかったから死んだわけじゃないんだ。なんか、ふと思いたって、軽く遊ぶ感覚で……」
その父さんの言葉は途中で途切れた。僕が気づいた頃には、手が出ていたから。
「おっほっほ、まさかビンタされるなんてねぇ。成長した証拠だな!」
「死んで欲しくなかった!そう言ったら迷惑だった!?」
「いや、むしろありがたかったかな。自分の存在を認めてくれる奴が欲しかっただけだったのかもしれねぇ」
「じゃあなんで父さんは、母さんと離婚したんだよ!?」
「あいつか……俺は、自分のやらかしたことへの責任を母さんにまで背負わせたくなかったんだよ」
僕が叫ぶように伝えた言葉に、父さんが素っ気なく答える。どこか息が詰まりそうなこの空間。
父さんに対する怒りだけが募り、体が火照り出すのを感じる。
「おい、ヨシダ、目が怖いぞぉ。ちょっと深呼吸。酒は飲めるか?」
「は?」
あまりに突拍子のない言葉に対して、反射的にこう返してしまった。
「……飲めるけど、それがどうしたの?」
「いやぁ、夢だったんだよ!息子と……ヨシダと酒かわすのが。日本酒取ってくるわ〜」
父さんはいつもこうだ。喧嘩がヒートアップすると、どうにかして押さえ込もうとする。それが嫌いだった。
でも、今だけ。今日だけは、
それがどこか楽しみだった。
「おらよぉっと」
父さんは酒瓶をめいっぱい高くから注ぐ。零れた数滴は、ジュワっという音を立てて直ぐに消えてしまった。
「父さん、息子の前だからってカッコつけないの」
「あ?いいだろ、親父の威厳だよ、威厳!」
「今の父さんに威厳とか微塵も感じられないから……」
そう言いながら、無言でお互いの手に取った盃をぶつける。
1口含むと、澄んだ匂いが鼻いっぱいに広がり、スッキリとした風味が感じられた。
美味い。この酒、めっちゃ美味い。
「うめぇだろ!?お気に入りのやつなんだよ。気に入ってくれてよかったぁ……」
「父さん、ほんとに酒選ぶの上手いね!小隊時代、昔父さんが飲んでた気がしたビール飲んだんだけど、あれも絶品だった」
あの頃を思い出しながら、つい、早口になりすぎてしまった。
「へっ、楽しそうに話すじゃねえかよ。それでいいんだ、それで。クズは俺だけで充分なんだ」
そんなことない……
言おうと思った。でも……それは父さんの言葉の衝撃にかき消された。
「んあ?なんだぁあれ?まるでアレみたいだな、あのぉ、えっと……ヘブンズ……」
「ヘブンズ・ボム!?」
空を見上げると、大きな物体が、確かにこちらへ向かって突き進んでいた。
見た目は……どう見てもヘブンズ・ボム。
無理だ!助からない!
まだ、父さんと!話したいのに!!!
「父さん!今まで育ててくれてありが
地獄の軍隊は騒然としていた。
地獄にヘブンズ・ボムが投下されたらしい。
地獄にいた人々はほとんど全滅。目も当てられない惨状に……残された人々は、この日を、この事件をこう呼んだ。
『じごくの
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