第9話 小隊から離れて

 地獄の軍隊はどよめいていた。

「おい!?あの化け物少女、俺たちじゃ流石にどうしようも出来ねぇよ!」

「早く!早く援軍を寄越せ!!!」

「まずいぞ、こっちにくる!!!落ち着くんだ自分!俺がこいつを殺……」

 

 ドンッ!辺り一面に響く鈍い音。

 死後の世界では、熱中症で死ぬことは無い。餓死することもない。

 しかし、物理攻撃で体の一部が正常に機能しなくなった時。そのときはじめて、死後の世界の人は死ぬ。

 

「ありゃま、あの傷じゃあ間違いなく即死だな」

 横でマツダがそう言う。

 普段かけている眼鏡を外して、代わりにコンタクトを付けているらしい。そっちの方が危ないんじゃ……なんて言うのはやめておいた、人それぞれあるんだろう。そんなことよりも……だ。

「そうならないために、私とマツダが来たんですよ」

「悪い悪い、でも不思議だよな。死後の世界でも死ぬかもなんて。ここで死んだらどこに行くんだろうな?」

「不吉なことを言うのはやめてください。行きますよ」

「そうだな。まずは雑魚から潰すぞ」

「イエス、オーケー」

 その一言と共に、私とマツダは戦場へ駆け出した。

 地獄小隊の行進のように揃った足音……なんかでは無い。思い思いに自分の心のままに走る音。

『地獄小隊として行くんじゃない!軍人:マツダ・ゲイヴンとミトモ・ヨリシロとして戦いに行け!』

 ミカエルのその一言の心強さ。なんでもないかのように、口笛なんて吹きながら言うからこその説得力がある。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ。

 天国軍人の頭部を狙って打ち込んでゆく。少し走りながら最小限の動きで最大限の成果を出す。

 相手の銃口と相手の目線、そして相手の爪先。これらを見るだけで次の行動は予想できる。

「く、来るなぁぁぁ!!!!」

 例えばこいつ。銃口も目線も爪先も私に対して真っ直ぐ向けられている。だったら、右斜め下に滑り込めば安全圏だ。

「よいしょっと」ドンッ


 マツダも雑魚を蹴散らしていく。天国みたいな場所で甘やかされてきた軍人に負けるほど、我々地獄小隊……違う。私たちは、弱くなど無い。

 しかし、それはあいつの方も同じなようだ……。

「こんにちは、スナイパーのお嬢さん」

 マツダがそう話しかけた直後に、少女は私に向かって一撃をくれた。

「うぉっと、危なっ」身構えていなければ死んでいた。

「あなた達と会話をする気はありません。死んでください」

 そう言った白い髪の少女は、自分の身長よりも長いスナイパーライフルを振り回す。まるで如意棒のように。

「地獄小隊なんて、所詮そんなものなのですね。聞いた伝承とは全く違う」

 そう言いながら放たれる銃撃の数々。

 打撃に気を取られては銃撃にやられ、銃撃に気をつけようとすれば打撃でやられる。

 普通に戦えば、普通だったら、勝てるかどうか怪しい強敵……。


「でも!地獄小隊隊員の意地見せてやりますよ!マツダ!頼みました!」

「あいよ!」

 合図をすると、マツダは振りかざされたライフルを全身で受け止めた。そして、そのまま持ち上げると……

「うおおおおおお!!!!ぶっ飛べぇぇえええ!!!」

 眼鏡、真面目。なのにこんな馬鹿力なんて、普通は思わないよ、私だって最近知った。

「ナイスマツダ!後は……任せろ!」

 天に向かって、狙いを定めて、私は銃を撃ち込んだ。ドンッ。

 その銃弾は、白い髪を貫いた。

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