第8話 ミカエルの主張

「なんだ!?この化け物!!!」

 地獄軍に少しずつどよめきが伝わる。たった一人についての話題だけで……

「あの小娘、スナイパーライフルであんな近くに!?」

「反動とか凄いだろうに」

「とか悠長なこと言ってられるか!!!当たったら即死だぞ!」

「やられるぐらいなら逃げろ!!!」


「ねぇねぇゴズちゃーん?天国にヤバいやついるらしいね」

「だな……てかちゃん付けやめろ!」

 ゴズ君は面白い。僕のボケを全部拾ってくれる。地獄小隊なんていうお堅いところにいたせいで、そんなちょっとしたことだけで好感度はぐっと上がるもんだ。

 

 僕の父、クロダ・ミカエルは戦争が始まる前、ジャポネ州の絶頂期に芸能人として活躍していた。モデルとして十分にやっていけそうな程に整った顔立ちとスタイルから放たれる怒涛の下ネタ。「ギャップが凄い!」なんて売り出し方をされ、一躍、時の人となった。

 そんな父に憧れて、僕も芸人になる夢を抱き、そして……

 父の脱税が発覚、そこから芋づる式にパワハラ・やらせの告発、事務所の失態もマスコミの報道によって、父の仕業かのように広まった。

 そして最終的には母とも離婚。数日後、クロダ・ミカエルの自殺が報道された。

 母も新しい男を作り、用無しとなった僕は、気づいた頃には地獄小隊に入隊した。

 3食ついて、寝床もある。入隊理由としては十分だ。

 だから、キリエと同じく地獄小隊に特別な愛着はない。なんならあの凝り固まった頭をグニャングニャンにマッサージしてやりたいほどだ。


「なんかその化け物とやらって、俺たち殺したやつらしいよね」

「らしいな、本当かは知らんが」

 ゴズちゃんは大袈裟なジェスチャーをしながらそういう。太く浮き上がった血管からは血が吹き出しそうになっている。

「ねぇ、これほんとに俺ら行かなくていいの?」

「あ?行かなきゃ行けないからミトモが呼び出されたんだろ?」

「なるほどね……じゃあそろそろ帰ってくる頃?」

 と、その丁度のタイミングでドアが開いた。

 マグマによってねっせられた空気と共に、ミトモとマツダが帰ってくる。

「どうだった?」

 僕が即刻2人に聞く。すると、顔を尖らせながら、ミトモがこういった。

「私とマツダだけ行けって言われた……だから断ってきた……」

「「は?」」あ、ゴズ君と被った。

「ただ、正直俺も同意見だ」

 マツダも少し声のトーンを落としながらそう言う。

「いや、おかしいおかしい!なんで断るのさ!?」

 しまった、仲間内での対立は嫌いなのに……。

「だって!地獄小隊は隊員揃って初めて小隊じゃん!?」

 ミトモが珍しく敬語を外して歯向かってくる。

 あーあ、苦手だけど、流石にここは喧嘩するべきだな。

「じゃあ言うけど、まだ小隊全員揃ってないんだよ!?全員で10人くらいいるのに、今揃ってるの4人だけなんだよ!?それで地獄小隊って言える?」

 ぐっ……と言いながら引き下がるミトモ。

「わかったよミトモ、マツダ。お前らが戦わないなら、俺も戦わない」

 ゴズ君が「何に?」と聞いてくる。待ってたよその質問。

「良いか!?お前らが戦いに行ったら!俺はあの大っ嫌いで大好きな父さんに会いに行く!!!ここら辺にいるのはゴズ君から聞いてるから!」

 は?という空気が流れる。んな事知るか!もっと自分語りさせろ!

「そんで言ってやるよ!『なんで死んだんだよ馬鹿野郎!』って!

 だから、お前らも戦え!あの化け物少女をぶっ倒してやれ!」

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