第7話 戦線

「点検完了!問題なく動作します!」

「ほいよ!キリエ君は手際がいいねー。ヘブンズ・ボムの点検がここまで早い人、ベテランでもなかなかいないよ」

 点検業務は楽だ。そもそも俺は、地獄小隊に入りたくて入ったわけじゃない。自分の生きる場所がそこしか無かっただけだったんだ。

 だから、こういう風に何も考えない単純作業は好きだ。


「先輩、ヘブンズ・ボムってなんかやたらと設定が複雑なんですけど、一体なんなんですかこれ?」

 それでも小隊時代の癖で、作業するにあたっての疑問点を見つけると是が非でもそれを解消したくなってしまう。こういうところはミトモと似ている気がする。あまり認めたくは無いけれど……。

「あぁキリエ君、『天地創造神話』読んだことないだろ?神話曰く、この爆弾を起動した人間は永遠京って所にぶち込まれるらしいんだよ。永遠京っていうのは、永遠に広がる無の空間らしい。そこから抜け出す方法はないんだとか……」

「なるほど、それがこの爆弾の複雑さと関係するんですか?」

 話が長くなりそうなので切り上げようと本題へ無理やり戻した。先輩は、軽く顎に手を当ててからこう言った。


「まぁ、だから起動準備をめんどくさくすることで、誤作動を起こしたり、そのでいで生き地獄に行ってしまう人を少なくするため。って話」


 ♢


 まずいまずいまずいまずい!

 クローレの射撃の実力は流石だ。辺り一面に広がる荒れ地では、狙いが外れたり隠れられたりする心配はそこまで無い。スナイパー向けの戦場……だけど!だけど!圧倒的にスピードが足りない!

 地獄のやつら、1丁前に硬い装備なんかしちゃって!1発当たっただけじゃ死なない奴らがほとんど!

 あぁまずいまずいまずいまずい!

 天国軍も雑魚だし、戦線は全く動かず……こんなのどうすればいいのさ!?

 おっと、クローレからのハンドサインだ。

『正直、狙撃するよりも直接戦いに行った方が楽です。なので私、行ってきます』

 ん?つまりそれは?

 動揺で落としてしまった望遠鏡を再度覗き込む。クローレは自分の身長以上の長さを持つスナイパーライフルを片手に、敵陣へ乗り込みに向かった。

 重くて反動が大きくて小回りが利かないスナイパーライフルで近距離戦!?そんなの無理だろ!でも、もし出来たら……

 めっっっっっちゃかっこいいじゃん!!!


 ♢


「ということで、天国側にはやっぱり差し金が居たようだ。そんな訳で、ミトモ・ヨリシロ、マツダ・ゲイヴン。君たちに戦争への出陣を要請する」

 獄王様は私たちにそう言い放った。

「お言葉ですが獄王様」

 先に口を開いたのはマツダだった。

「なぜ、私とミトモなのですか?キリエとミカエルはなぜ出陣させないのですか?」

「あの二人にはまだまだやってもらうべき仕事が残っている。それに、全員を戦場に送り込んだがために全滅、なんて笑い事じゃ済まされないだろ?」

 獄王様は、珍しく怒りを顕にしているマツダに対してとても軽く、吐き捨てるようにそう言った。

 しかし、さっきの発言には矛盾がある。

「獄王様、ミカエルには現在仕事があるのですか?前回呼ばれた際には、ミカエルにだけ仕事が与えられなかったようですが、いかがでしょう?」

 私も軽く怒りを表しこう告げた。

「それに私たちは、隊員全員で初めて地獄小隊なのです。まだ全員は揃っていませんが、それでも今いる彼らと共に戦いたいのです」

 私が言葉を言い終わると、マツダは唖然とした表情で私の口元を見ていた。しかしすぐに平静を装い、私に対して強い目線を向けた。あとはお前に任せた、とでも言わんばかりに。ならびその要望には応えるしかない!

 

「この条件を受け入れて下さらなければ、私たちは出陣を拒否します!処刑されても構いません!」

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