第6話 こんなはずでは

「この世界の想像者『創造神・グリス』様は考えた。死後の世界を作ったら面白いんじゃないかと」

 聞いてもいないのにゴズがなんか話し始めた。まぁ私も気になっていたし、黙って聞いておこう。

「グリス様は妻の『創造神・カズエ』様と話を重ね、グリス様が地獄、カズエ様が天国を管理するという話で落ち着きました。生前辛い経験をしたものは、せめて死後は幸せであるべきだという考え方から天国が生まれたのです」

 どこか信憑性にかけるように感じる……。そもそももう少し効率的な管理の方法があったはずだ。

「しかし、突然グリス様とカズエ様は破局。死後の世界は全てグリス様が管理することになってしまったのです。2つの世界の管理を面倒に思ったグリス様。なら、ひとつに絞ってしまいたい、そうお考えになった結果、この戦争を要請したのです」

 話が飛んだな。

「話が飛んだなって思っただろ?」

 本を閉じてゴズが目を合わせてくる。表紙には、『天地創造神話』と書かれている。やはり嘘くさい……それよりも、私の思考が読まれていたことの方が衝撃だった。まさか、ゴズさんにそんな知能があったなんて……

「天国にも地獄にも人が大量にいる。大量の人を別の世界に移動させるのはすこぶる面倒くさい、だから、一旦どちらかの世界の人間を殲滅してもらおう。というわけ」

「なんかあれですね……グリス様って大雑把なんですね……あとゴズさん、なんで聞いてもないのに話し始めたんですか?」

「ありがたがれよ!!!ミトモの顔にハテナマークが浮かんでたから教えてやったんだよ」

「ふっ、ありがた迷惑ってやつですね」

「お前いっかいぶん殴るぞ!!!」


 ♢


 地獄側には現在、地獄小隊が潜んでいる。そのことを獄王は必死に隠しているようだけれど……。

 隠そうとするということ、それはつまり大切な情報だということ。おそらく獄王は小隊を導入し、この戦争を短期決戦に持ち込むつもりだ。

 だから私はそこを突く。天国の軍隊は小隊特攻の編成で攻めに行く。

 それに……いい感じの刺客も出てきたし……

「そうだよね、クローレ・シン」

 私は目の前の少女にほほ笑みかける。白髪のロングで目は青く、普段は大きなフードを被っている。私の前のときだけは不敬になるから、とフードを脱いでいる。

「はい、生前、彼らは私が殺りました。心臓なら狙えます」

 とても大きなスナイパーライフルを片手に、小さな声でそう語るクローレ。

「期待してるわよ。なんてったって、あの地獄小隊を殲滅させてくれた人なんだから」

「はい、女王様の期待に応えられるよう、精進いたします」

 そう言ってクローレは逃げるようにしてこの間を離れた。小隊を壊滅させるなら簡単、小隊を壊滅させた化け物をぶつけちゃえばいいのだ。

 化け物と呼ぶには可愛すぎるけれど。




 緊急事態。地獄の奴らが攻めてきた。そこまではまだ想定内。

 何よあの編成!?!?知らない雑魚ばっかり!!

 地獄小隊の奴らは???それに地獄で著名な人とかも全く居ない。本当に雑魚!クソザコ!!!

 それが今の天国軍にとっては致命的。

 完全にクローレ任せの軍だから軍の人数も多すぎる訳ではないし、クローレ自身は狙いを定めるのは上手いけど、その分狙うまでにめちゃくちゃ時間がかかる。だから、こういう大量の軍を狙うのが苦手。

 天国の軍隊とかいう鍛えてない雑魚ばっかの集まりがこいつらに勝てるわけない。でも、地獄も似たようなもんだから負けるかも分からない。

 長期戦に持ち込むための戦略ってことだ……。

「そうだ!ハンドサイン!!!」

 慌てて私は双眼鏡を取り出した。クローレの意志をハンドサインで確かめられるようにしていたのだ。

 どれどれ…………

『ごめんなさい、負けかもしれません、自害します』

 こんなはずでは……こんなはずでは……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る