第5話 はじまる
「おい、ここの新しい国王、史上初の王女様らしいぞ」
「それに、戦争を始める手筈を既に踏んでるらしいわ」
「そんなの勘弁だよ!俺らはここで甘やかされながら育ってきたんだから、地獄の連中に勝てるわけないよ……」
「それが、あの人は勝算があると思ってるらしいの……」
はっきり言おう、戦争において最も重要な要素は戦略だ。正直、戦闘員の能力など二の次、策略が綺麗にビシッと決まれば戦争には勝てる。
「では、始めましょう……天国と地獄……訓練を重ねに重ねた地獄側が負ける姿を……見てみたくはないですか?」
私の演説を聞き届けた民衆は手を叩き、歓声を上げ、旗を振った。みなが一人一人、アピールを行い、存在感を高めている今でさえここで一番輝いているのは私だった。
「「「王女様!王女様!」」」
「あぁ……これより宣戦布告を行う!!!」
♢
「は!?私たちを戦争に出さない!?」
2月、今現在合流できている地獄小隊のメンバーで集い、獄王様へ戦争に参加したい旨の交渉をしに来た……のだが……。
結果は上の通り。
「あぁ。いいか、天国側はどこか様子がおかしいと感じるんだ。だから、ここで1歩踏みとどまって様子を見る必要がある」
極王様は威厳を保ったまま、低い声でそう告げた。
そんな様子に私の中の炎は爆発しそうなほどに燃え盛り、抑えきれなくなった熱は私から勝手に放たれてしまった。
「で、ですが……!!!私たちがいれば天国軍なんて敵では無いのですよ!?なのに何故……!」
「ミトモ、これ以上言っても、多分何も変わんないよ」
キリエの静止でなんとか落ち着きを取り戻す。
「そういうことだ……残念かもしれないが、でもミトモ・ヨリシロよ、お前には訓練の指導という重要な任務があるだろう……」
「それはそう……ですけど……」
「それだけじゃあない。キリエ・シヴァは手先が器用で目も良いから軍事製品の管理や動作確認、マツダ・ゲイヴンは持ち前の知識もあるから医療従事を、ヨシダ・ミカエルは……」
あ、言葉に詰まった。チラリと横を見ると今にも吹き出しそうなキリエと、真顔を貫くマツダ、そしてミカエルはキラキラとした目を輝かせていた。自分がどの仕事に就くことになるのか期待しているようだ……可哀想。
「ともかくだ、お前たちの戦争にかける熱意は汲んでやる。だから、戦線には、まだ出さない」
こう締めくくられ、私たちは半強制的に退場させられた。ミカエルは「俺は!?俺は!?」と叫んでいた。
「どしたんミトモさん、顔暗いよ」
「いや……なんでもないさ」嘘だ。
「顔暗いだけじゃないですよ……訓練もいつもより雑な感じがしますし……疲れですか?」
あぁ、やはり地獄とはいえどここで戦争への武力を蓄える志を持った者の心は清いものなのだろう。
「ありがとう……気にかけてくれて」
対する私……。いやダメだ、この子達はここまで真剣に訓練に励み、そして教師を務める私に対して心遣いまでしてくれる……。
「よーし!先生頑張っちゃうぞ!」
心配そうな目で見つめる未来の戦闘員の目を見つめながら1つ伸びをする。
「あ、本気出されるとキツイので別に頑張らないでください」
前言撤回。こいつらやっぱ心清くない。
「宣戦布告の通知が来た。これより、戦争を開始する!」
昼間の休憩時、大きなスピーカーから響いた極王様の声は、私たちの興奮を高めるには十分すぎる代物だった。
ついに、はじまる。
あれ、ところでなんで戦争するんだったか聞いてなかった。
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