第4話 天国と地獄

 時刻は昼、何故か崖の上に集められた私たち。下を覗くと、かなりの人数がずらりと並んでいる。

「はい!せーのっ!」

 いちに!いちに!いちに!いちに!

 その様子を見て、目の前に立つゴズさんは嬉しそうに話し始めた。

「これこそが、ここの名物!地獄の行進マーチだ!どうだい?地獄小隊さんから見て、こいつらの行進はどう見える?」

 ゴズさんはまるでツアーのガイドさんのように、旗を片手に持って、柔らかい声音で話す。

 ……言葉遣いのせいで全部台無しだけどね。

「ここの人たちほとんどが一般人ですよね?ならかなり凄いんじゃないのこれ」

 地獄小隊員の1人、マツダ・ゲイヴンの一声に隊員は共感し合う。私も正直頷いてしまった。

 確かに行進マーチの動きはかなり揃っていて、普通にかっこいい。

 それでも私は納得が出来なかった。

「いえ、でも……」

 私が口を開くとキリエが、こうなることを予想してたと言わんばかりに笑いだした。それでも気にせずぶちまける。

「動きがかなり揃っているとは思いますが、それでも『完璧』ではありません!それに、必要ですかこの掛け声!!!掛け声が無いと合わせられないのですか!?地獄の訓練がその程度でいいはずがありません!」


「そこ!動きが0.3秒遅れてる!」

「はい!」

「そこ!地面を踏む音が小さすぎる!」

「は……はいぃぃ……」

 あぁ……なぜ私は今現在、彼らの行進の指導をしているのだろうか?この時間を自分のトレーニングに充てることも出来るというのに……

 私は不完全な要素があると、どうしても排除したくてたまらなくなる。私の悪い癖だ……。

 キリエの昔言ってたことがよく分かる。「ミトモ、あんたも隊長みたいに、こだわる所とこだわらない所の取捨選択しないといつか壊れるぞー」


「ミトモ〜、勘弁してくださいよ〜。あいつらは生前悪行を積んできたとはいえ、それでも普通の人間で、体力のないやつもいるんですよ〜」

 何故か昼のあれ以来から敬語を使うようになったゴズ。怖がっているのだろうが……

「別に敬語を使う必要もないですよ。私も少しは反省しているのですから」

「あ、そう?なら普通にこれで話すよ」

 それはそれでなんか腹立つ。

「あぁでもあんた、人に物教えるの中々に上手いじゃねえかよ!今度こっちの軍隊に戦争のノウハウ教えろよ!」

 ゴズは大きな身振り手振りを使って、いつも通りの様子で聞いてくる。

「えぇ、それは別にいいですけど……何かあるんですか?」

「いやなに、近々天国と地獄で戦争が起こりそうなんだよ、突如として天国の元首になったやつが戦争に意欲的なようでさ」

 天国との戦争……?そんなのする意味を見出せない。それに、天国に勝算が見つからない。

「ま、そんな訳であんたに教師になって欲しいんだが、どうよ?」

 疑問は数あれど、それでも戦争に関われるというのは幸せなことには変わりない。

「ええ、良いですよ。その代わり、『完璧』に鍛え上げても良いんですよね?」

 その質問に、ゴズは待ってましたと言わんばかりに「あぁ」と頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る