第2話 天使の提案
今、私の目の前にいるのは紛うことなき天使だ。頭に天使の輪を付けているのだから。
黒い髪を短く切り、目元に小さなほくろ。そして、茶色い目。どこからどう見ても普通の少女に見えるからこそ、天使の輪が一際異彩を放っている。
いやまて、そんなことより
「天国に行くか地獄に行くか……ということは、私は死んだのか!?!?」
「そうだよ!聞いてなかったのかよ……説明して損したー」
いやいや、寝てる人に説明しても聞いてないに決まっているだろ。と、愚痴を零すと死後の世界で更に殺される危険が生まれるため、口を何とか閉ざした。
目の前の天使は気だるげに上を見上げ、ため息をこぼしながら、仕方ない、と呟いた。そして話し始める……
「もっかい説明するから、よーく耳かっぽじって聞いとけ!!!
あんたは生前、悪行らしい悪行は全くしていないようだ。あんた、というかあんたらだな」
そう言って天使が後ろを指さすと、呆然としながら辺りを見回す顔なじみの姿があった。
「お前たち!!!」地獄小隊の隊員たちだ。
「なぁ、ここってつまり……」
「それに、あれ天使じゃね?」
「てことは、俺ら死んだってこと?」
私よりも状況把握能力が高いらしい隊員たちは、徐々に自分たちの置かれた立場を理解していく。それに合わせて、ざわめきも増えていく。
「私語は慎め!!!
私の説明を邪魔しおって!再開していいか!?」
あなたがこっちに意識を向けたくせに……
どうぞどうぞ、と隊員が腰を曲げてペコペコするのを見て、冷静を繕う天使だが、顔からは愉悦が零れている。コホン、とひとつ咳払いをしてから天使は話を再開した。
「お察しの通り、地獄小隊はあるたった1人の優秀なスナイパーによって全滅した。で、あんたらはここに来た。
『善行を積めば天国に、悪行を積めば地獄に』とはよく聞く話だが少し違うところがあるんだ。
悪行を積めば地獄に行くのは間違ってないが、善行を積んだ場合、その人の希望で天国に行くか地獄に行くかが決まるのさ。
普通なら当たり前に天国に行かせるんだけど……あんたらはあの過酷な訓練でお馴染みの地獄小隊様だ。地獄を所望する可能性も捨てきれずに、こうやって選ばせてやってるって訳だ。分かったら、さっさとどっちの世界に行くか選べ!!!」
地獄小隊には、ハヤト隊長がいる。話し合いはハヤト隊長を中心にして、行われた。
「私は、地獄に行きたいと考えている。日頃から地獄のように訓練を重ね、鍛え上げた我々には、天国は生ぬるいに違いない!だから、地獄で更に鍛えることこそ、我々にとって1番幸せなのではないかと思うのだが……どうかね?」
ハヤト隊長は「どうかね?」という言葉に合わせて、少し細い首を傾げる。
その考えに激しく賛同する私は思わず「もちろんです!!!」と返してしまった。
周りの冷ややかな目線を一身に浴びつつも、空気は地獄行きに傾いていった。
「よし、じゃあ地獄で全員集合ってことで、みんなOK?」と、地獄小隊では屈指のおちゃらけ者、タナカ・ミカエルの提案に、全員頷く。
「そんじゃ、そういうことで天使さんよろしくー」
しかし、天使は自分の爪をほじくりながら、「おっけー、じゃあ地獄行きたいって念じといてー」と、かるーく答えた。
私が、地獄でお願いします!!!と強く念じた瞬間、視界がぐわんぐわんと揺れだした。本当に転移するのか……本当に私は死んでしまったのか……
生前の思い出の中を揺蕩っていた最中、そんなことを全てかき消すような一言が聞こえてきた。
「あ、転移先の座標はランダムだから合流するのちょっと難しいかもー」
………………先に言ってくれよぉ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます