第37話 笑顔の交差
間違えて
傷ついて
報われなくて
瑠妃は『イケメンが優遇されない世界に行きたい』と願い、
太一は『イケメンになりたい』と願い、
世李は『本当の妹になりたい』と願った。
あまりにも不憫だった魂の祈りを叶える存在がいたのだろうか。
全員の願いが叶った。
ルディアと、レノフォードと、シェリアータ。
けれど、思いはすれ違い、絡まってしまっていた。
なつかしくて
せつなくて
もどかしくて
それでも愛しいものを諦めなかった私たちは
ついに、手を取り合う。
***
アートデュエル会場に、ドラムロールが響く。
「今回の優勝者は……」
シンと静まり返る中、優勝チームの名が宣言された。
「ルディア・リチェラー公爵令嬢の、マソパリスター!」
リュカリオは息をついて仰向いた。
「やっぱりそうなるか」
「強いね~」
レノフォードもため息をつきながら拍手している。
ルディアがマソパリスターを伴ってステージに立ち、歓声に応えた。
「皆様、ありがとうございます」
少し改まった様子で、一歩前に出る。
「マソパリスターは今回でアートデュエル十連勝となりました。大変ありがたいことですが、王もそろそろ他の芸術を楽しみたいと
ざわついた会場を制し、ルディアは先を続ける。
「つきましては、二位のチームとのコラボレーションをお届けしたいと考えています。異論はございませんでしょうか」
会場は拍手に包まれた。
「今回、二位のチームは……」
***
シェリアータは、うとうとと
遠くで歓声のようなものが聞こえる。
目を開けると、覗き込んでいたロシュオルが微笑んだ。
「聞いてた?」
「何を?」
大勢の人々がざわめいている。
ここはアートデュエル会場に近い部屋だろうか。
長椅子に腰かけたロシュオルの膝の上で、シェリアータは横たわっていた。
「あ、結果……」
シェリアータはがばっと起き上がった。
「大丈夫そうなら、会場に戻ろうか」
立ち上がったロシュオルが手を差し伸べた。
シェリアータは、その顔をまじまじと眺めた。
「何?」
「見た目に左右されないルディア様にも憧れるけど。私はやっぱり、イケメンが大好きだなぁ!」
「なんだそれ……」
シェリアータはロシュオルの手を取り、立ち上がって笑った。
***
王宮の謁見の間。
プリスキラ王は、応援札を手に戸惑っていた。
「何を書けば良いのかわからぬな」
シェリアータは、傍らに
「応援札よりもっとお気軽な、 色つき棒もございます」
透き通った色つきガラス製のスティックだ。
表面に細くカットが入っており、振ると光が反射してキラキラと輝く。
「おお、ガラスか! 美しいな」
プリスキラ王は気に入ったようだ。
今日は、アートデュエル勝者のコラボレーションパフォーマンスが披露される日である。
王族の他、国の重臣や王宮に仕える者たちが集っていた。
いつものマソパリスターに加え、新しいパフォーマンスが見られるとあって、謁見の間は期待に包まれている。
出演者は、柱を隔てた隅に待機している。
ルディアは、妖精の扮装をしたレノフォードに寄り添っていた。
「レノ……サービスもいいけど、ほどほどにしてね」
少し心配そうに、もじもじとシュクレの衣装をいじる。
レノフォードは、ルディアの頬に手を当てて優しく撫でた。
「シュクレとしてサービスするけど、レノフォードとして応えるのは、ルディだけだよ」
ルディアはふわりと頬を染め、とろけるように微笑んだ。
すっかりラブラブな二人にリュカリオは羨望の眼差しを注いでいた。
「あー、いいなー、オレも女にモテ……」
言いかけて、リュカリオは自分の傍らにくっついている二人を見た。
「一応、モテてるけど」
右にユフィ姫、6歳。
左にリロ姫、7歳。
「ずっとお城にいて、姫のお婿さんになる?」
「ずるいわ! 姫のお婿さんよ!」
なぜか幼い王女たちに気に入られてしまった。
最初は女の子だと思われていたが、男だという証拠を見せろと言われて二人同時に肩に担いでみせたら、何か刺さってしまったらしい。
王女で幼女なんて、将来性こそ豊かだが、手を出す余地がないではないか!
「あー、レノみたいにイチャイチャルンルンしてぇ……」
打ちひしがれながらリュカリオが目を上げると、ロシュオルとシェリアータがなにやらもだもだしていた。
「ごめん、触るつもりじゃ」
「ううん、肩くらい別に……」
シェリアータは、肩を露出したドレスを身につけている。その素肌に触れたのだろうが、それで真っ赤になる心理がリュカリオにはわからない。
騎士隊長のところでやらかしたのも、てっきり口だと思っていたら、おでこだと言うではないか。
「お前らさぁ……いつまでそんな感じなの?」
お子様かよ!
お互いガバッと行ける歳だろうがよ!
しかし、レノとルディアとは違って身分の差があるため、簡単にガバッと行くには問題があるというのもわかる。
しばらくは、手がかかりそうだ。
やがてコラボパフォーマンスの準備が整い、ルディアが開演を宣言した。
「皆様、マソパリスターとエルフサーガミュージカルの芸術のコラボレーションをお楽しみください!」
太鼓が二つ据えられた舞台にマソパリスターが現れた。
フッキンが太鼓を叩いて担ぐ。
ケブカイが太鼓を叩いて担ぐ。
担いだ太鼓をお互いに叩き、一際強く叩いて左右に離れると、間を掻き分けるようにウフが歌いながら現れた。
フッキンが放ったバチをシュクレが受け取り、ケブカイが放ったバチをファリヌが受け取り、シュクレはケブカイの、ファリヌはフッキンの担いだ太鼓を叩く。
フッキン、ケブカイが太鼓を下ろし、返されたバチをキャッチしてくるくる回す。
シュクレが横転し、ファリヌがバク転する。
激しい太鼓に合わせ、妖精たちはダンスのステップを踏みながら歌う。
ウフがフッキンの体を駆け上り、担ぎ上げられ肩に座る。ケブカイがシュクレの腰を持ってリフトし、回転する。ファリヌが横転からバク転、バク宙の連続技を決める。
妖精たちのコーラスにマソパリスターのボイスパーカッションが加わる。
次から次に繰り広げられる目新しいパフォーマンスに観客は興奮し、たくさんの色つき棒が振られた。
大きなステンドグラスから注ぐ光がガラスに反射し、幻想的な陰影を作る。
二人の王女は競って応援札を書いて振り、ウフのファンサービスを求める。
プリスキラ王も笑顔で色つき棒を振っていた。
フトメンとイケメンと観客の笑顔が交差する空間は、幸せな高揚で包まれていた。
これだ。
この光景が見たかったのだ、とシェリアータは胸を震わせた。
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