第10話 街中の出会い
何故、フランロゼの令嬢がここにいるのだろう。
頬を染め、目をキラキラ潤ませるシェリアータの前で、ルディアはどんな顔を作っていいかわからずにいた。
「何これ、夢? 新衣装? 清楚可愛くて最高ですが?」
ルディアが
「神の恵みかな……?」
相変わらず変なことを言っている。
「シェリ、どうしたの?」
令嬢の後ろから銀髪の美青年が現れ、ルディアはビクッと身をすくませた。
「あっ」
青年もルディアに気づいて動きを止める。
この世界では、ついぞ目にしなかった王子系のイケメンだ。……ルディアが一番、苦手なタイプの。
「ルディア様、こんにちは。 奇遇ですね、お買い物ですか?」
空気が読めていないのか何なのか、フランロゼの令嬢はテンション高く話しかけてくる。
「ええ。あなたは、フランロゼの……」
「シェリアータです」
シェリアータは微笑み、傍らの美青年の腕を取った。
「こちらは、兄のレノフォードです」
「は、はじめまして。 レノフォード・フランロゼです」
フランロゼのご子息か。
並んで見れば、確かによく似ている。
「随分と仲がよろしいのね」
シェリアータは大きくうなずいた。
「はい。自慢の兄です!」
自慢の?
この世界で、美しい男を誇らしいと称するとは。
「ふぅん……シェリアータ嬢は、独特の感性をお持ちなのね」
シェリアータの表情が食いしばるように歪んだ。
……嫌味だったかしら。
と、心配した次の瞬間、シェリアータの笑顔が弾ける。
「はぁんっ☆」
街中で妙な声を出さないで欲しい。
「名前を……私めの名前を初めて呼んでくださった……!」
そんなことでここまで様子がおかしくなるのか。
「あの、私も、いずれアートデュエルに参加したいと思っているんです」
フスフスと音が聞こえるほど息が荒い。
「またルディア様とお会いできる日を夢見て頑張ります!」
「そう、頑張ってね」
背を向けて逃げ出したくなる気持ちを抑え、ルディアは優雅に身を屈めた。
「では、私はこれで」
顔を上げると、シェリアータの兄と目が合った。
美しい眼差しにゾッとして目を反らす。
「行きましょう、フッキン、ケブカイ」
「はい、ルディア様」
フッキンとケブカイはルディアに続きながら、人懐こい笑顔をシェリアータたちに向けた。
「シェリアータ殿、またお会いしましょう!」
フッキンは二の腕に力を込め、筋肉をピクピクと動かした。
ケブカイは太鼓腹をパーンと叩いて震わせる。
「シェリアータ様のアート、 楽しみにしとります!」
シェリアータは二人の豪快な仕草に驚いていたが、にっこりと微笑んで礼を返した。
……やっぱりあの子、苦手だわ。
ルディアは急ぎ足でその場を離れた。
***
「マソパリスター、話してみると気さくだし、意外と爽やか……かも?」
ルディア一行を見送ったシェリアータは、兄を振り向いた。
「筋肉ピクピクや腹パンには驚いたけど、あれは定番のファンサービスなんでしょうね。神対応が身についてるって感じ」
「レノ、シェリアータ」
そこへロシュオルが姿を現した。
「待たせたな。こっちだ」
今日はロシュオルの家、つまり菓子屋『シュクレサーガ』を訪問する日である。
「行きましょう、お兄様」
レノフォードは、ルディアが去った方向をぼんやりと眺めていた。
「……お兄様?」
レノフォードの視線を遮るように顔の前で手をひらめかせると、ようやくシェリアータに目を向けた。
「あっ、ごめん」
「もしかして、ルディア様に見とれてた?」
「え……」
レノフォードの頬はわかりやすく赤く染まった。
「う、うん、きれいな人だったね」
シェリアータは破顔した。
「でしょう? 目の保養すぎるよね! やっぱりお兄様とは趣味が合う~!」
無邪気に喜ぶシェリアータの隣で、ロシュオルは首を傾げる。
「そういう感じとは違うでのでは……?」
「え、ロシュ、何?」
「いや……」
ロシュオルはレノフォードの側へ歩み寄り、いたわるように肩を叩いた。
レノフォードに、春が訪れたのかもしれない。
しかしその感情の本当の前途多難さには、その場の誰も気づいていなかった。
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