第7話 チェンソー魔法少女VS女子高生。ライフルちゃんと当たるかな☆

 鞭が締まり、ひまりはバランスを崩し、その場に引き倒される形で捕らえられるとチャイナ水着魔法少女が呟く。


《むーぶおんらいくらいと》


 その一言とともに金属光沢のある綺麗な糸が生成されゆっくりと広がりながら伸びていき、ひまりを包み込む。次の瞬間、糸は鱗粉となって飛び散りその中にいたはずのひまりも跡形もなく消えていた。


「ひま…おい魔法少女ッ、ひまりをどこに連れて行った?」


 彼女の細い真っ白な肩が赤くなるほど強く掴み、俺は怒りを押し殺す。

 掴みかかる俺を鬱陶しく思ったのか、チャイナ水着魔法少女はため息を吐いた。


「なぜまゆりりりんから視線を外すネ?今視線を外すと彼女はそのまま外に逃げるゾ。なぜなら相方のまろが捕獲されたのだから彼女は自由にどこにでも行ける」


「んなこと聞いてねぇ。ひまりはどこに行った?」


「ちゃんと言ったネ。まゆりりんから視線をなぜ外した?」


 その意味を理解した瞬間、背筋に寒気が走るのを感じながらも俺はチェンソー魔法少女が乗っている車両の方に振り返る。


「ひまりっ!!」


 遠ざかるジェットコースターの車両が揺れながら進んでいく。

 揺れる車両の上でひまりが拳を突き出し、チェンソー魔法少女は身をかがめてそれを避け、チェンソーを足に突き付けようとする。ふたりの戦いが視界の中で小さくなるにつれ、その攻防も激しくなっていった。


「いいネ?あの小娘がいるってことは下手に撃てないだろうヨ?ならばひまりに当たらないようにあのチェンソー魔法少女を動けないように仕留める。お前にそれができるカ?」


 耳元から囁いてくるその声が俺の脳を揺さぶる。


 できる?俺が?あいつに銃を向けて引き金を引くことが?


 このアサルトライフル は見るからに本物の銃弾。

 当たれば確実にひまりは死ぬか致命傷。


 ひまりも超人的に強いが、あの弾丸を避け切ったししゅたーくろほどは強くもないし超人的でもない。


 俺はひまりに当たらないように、チェンソー魔法少女だけを撃つことができるのか?


 いややってみればできないかもしれない、でも彼女が死ぬ可能性が1%でもある以上撃つことは無理だ。



 これはゲームじゃない……現実なんだ。



 ゲームならリトライすればまた生き返る。


 だが、これは現実生き返るなんて到底不可能。


 全てが一回しかないチャンスに等しいんだ。


 何度も何度も頭の中で唱える。彼女を死なせるわけにいかない。

 やっぱり現実はクソゲーだ。


「一条ぉおおおぉぉおお!!ひまりが抑えるから撃って!!今すぐ!!」


 前方を見上げると、ひまりがチェンソー魔法少女の首を腕で締め上げ、苦しそうにもがいているチェンソー魔法少女を抑えながら叫んだ。


 その必死な姿を見て俺は静かに息を呑み、目の前のチェンソー魔法少女に視線を戻す。


 確かにこれなら多分当たる、ただその場合背後で抑えているひまりも巻き込むかもしれない。どこを撃てばひまりを巻き込まずに済む?考えろ、考えるんだ。


 ゲーム細胞をフル回転させ、チェンソー魔法少女のどこを撃てばひまりを巻き込まずに済むか必死に考える。


「急いで!!」ひまりの声が再び響く。


 呼吸を整えて精神を集中させる。心臓の鼓動はより早くなりながらも、やけに冷静だった。


 汗が額から垂れ、目に入る。瞬きをして視界をクリアにする。


 チェンソー魔法少女の体が動くたびに照準がずれるが、再びしっかりと狙いを定め直す。引き金に指をかけると、その冷たさが一瞬で手のひらを冷たくする。


「今だ!」自分に言い聞かせ、呼吸を止める。


 そしてついに覚悟を決めた俺の視界の中でそれは放たれた。


 時間がゆっくりと流れる感覚に陥る中、俺は引き金を引いた。


 パァンと乾いた音が空気を震わせながら響き渡り、弾丸が一直線にチェンソー魔法少女に迫る。


 全ての思考が停止し、ただその結果を待つ。


 弾丸が彼女の右肩に命中する音が聞こえ、チェンソー魔法少女が短い悲鳴を上げた。


 彼女の体がぐらつき、ひまりがその場で後ろに倒れ込みながらも、チェンソー魔法少女の腕を離さないでいる。その姿を見て、ようやく息を吐き出した。


「……右肩に当たった。当たった!」


 右肩ならひまりに絶対に当たることは、ない。

 ジェットコースターがカーブに入り彼女たちの姿が視界から消える。


「……結果を見に行くカ?」


「ああ見にいく」


「じゃあ行くネ」


 俺の首根っこをチャイナ水着魔法少女が掴み、一言またあの言葉を呟く。

 目の前に裂け目が開き、体が一瞬にして裂け目へと吸い込まれる。


 気づけば俺はジェットコースターアトラクションの出口近くの地面に横たわっていた。


 視界が鮮明になると同時に、俺はジェットコースターアトラクションの出口近くの地面に横たわっていた。


 ふと顔を上げると、レーンの向こうからひまりとチェンソー魔法少女を乗せた車両がゆっくりと近づいてくるのが見えた。車両はすでに減速し、終点につこうとしていた。


 ここで結果がわかる。


 チェンソー魔法少女が倒されたか、それとも……ひまりが倒されたか。


 車両の姿が完全に視界に入った瞬間、まず目に飛び込んできたのは、ひまりの力なく倒れた姿だった。


「ひまり……!」


 俺は思わず叫びながら、ジェットコースターの停止を待たずに駆け出そうとする。

しかし、チャイナ水着魔法少女が冷静な声で制止する。


「待て、まだ終わってないネ」


 車両が完全に停止し、全てが静寂に包まれる。


 右腕を庇いながら呼吸は荒くしていたがチェンソー魔法少女は、立っていた。

 まさか……俺らの負けなのか?俺の敗北なのか?


 ひまりを引きずりながらよたよたとジェットコースターからでたチェンソー魔法少女は、手がかりを求めるように俺に手を伸ばし、そして彼女の体は完全に崩れ落ちた。


 一方、ひまりも地面に倒れたままだったが、微かに動いた。彼女はゆっくりと起き上がり、弱々しいが確かな笑顔を浮かべてこちらを見上げた。


「勝ったよ、ひまりたち……」


 その瞬間、全身の緊張が解け、安堵の息を漏らす。


「馬鹿だよ、お前。なんであんな無茶すんだよ」


「ごめんって、あはは」


 俺はひまりの髪をわしゃわしゃと掻き回す。すると、ようやくひまりも安心したように笑った。


 視線をひまりから外すと崩れたチェンソー魔法少女に近寄り、しゃがむチャイナ水着魔法少女が見えた。


「悪かったネ。まさかあいつがあんな状況になってもまゆりりりんを撃てるほど、狂っていると思ってなかったんだヨ」


「……私もさ。あんな狂って度胸のある奴が今回のゲームに参加するなんてな。一条」


 枯れた声でチェンソー魔法少女が俺の名を呼び、少し眉間にしわを寄せながらも答える。


「なんだ?」


「こっちへ来てタッチしなくていいのか?お前たちの目的は私たちを倒すことではなく、かくれんぼでタッチすることだったはずだが?」


「ああ、そういえば」


 俺はようやく本来の目的を思い出し、彼女に恐る恐る近づく。俺たちが近づくとチェンソー魔法少女はおもむろに腕を差し出した。


 俺とひまりは同時に顔を見合わせる。


 触ったらこれで終わりなんだよな、このゲームでひまりと俺はゲームクリアだよな。


 差し出した腕をつかもうとした瞬間、逆にチェンソー魔法少女が俺の手を掴んで引っ張った。そして完全に油断していた俺は、バランスを崩し彼女に雪崩れ込むと、チェンソー魔法少女は俺の髪を掴んで


口づけをした。



 彼女の柔らかな唇の感触などまったく予想していなかったため、チェンソー魔法少女からのキスに動揺しながら、どうにか逃げようとするが俺の頭を彼女は両手で押さえ逃げられないようにしていた。


 彼女の赤い舌が俺の口内に入り込み、それに合わせるように俺の舌も絡められる。


「いぐぃ…痛ッ!!お前何すんだよ」


 舌に鋭い痛みを感じて、反射的に相手を突き飛ばす。


 唇を袖で拭いながら視線を下げると、チェンソー魔法少女は血の混ざった唾をペッと地面に吐き捨てた。


「さっき撃たれた仕返しだ。お互い様だろう?」


 そして血の滲んだ真っ白な歯を見せつけるように笑った、俺を胸に抱え込んだままささやくように呟いた。


「三日後のゲーム、一条くんが絶対に生き残るように尽くしてやろう。それで今のことは勘弁してくれ」


「なんのことだ?意味わからねぇよ」


「一条くんの得になる話ってことだよ」


 彼女はどこか満足したかのようにそう言い残すと、うっすらと笑みを浮かべたまま目を閉じた。


 無害そうな幼い容姿と正反対の暴力と残忍さに満ち溢れた狂った奴らの一人のお前を、一体どう信じればいいんだよ?


 可愛げのあるよだれを垂らしながら眠る彼女の姿を見て俺はまた一つため息を吐いた。


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次回は第3章突入


第8話「魔法少女inベッドタイム。秘密のお話」です。


お楽しみに。

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