ですバトル♡インろーらーコースター

第6話 コースターに恋はつきもの♡魔法少女もつきもの

 瞼を開くと、俺たちはさっきまでいた遊園地の中央広場から俺はどこか知らないレーンの上へに座っていた。


「あれ…傷がない」


 腹部に手を当てると、確かにチェンソーが突き刺さっていたはずなのにそこには傷口どころか服さえも無傷だった。

 俺はチェンソー魔法少女に刺されたはずの腹を撫でながら辺りを見渡す。


「くそがっ!!あのクソガキに肩撃たれた」


 さっきと少し違う景色に戸惑っていると、後ろからそう叫ぶ声が聞こえ振り返る。

 そこには、右肩を真っ赤に染めながら悪態をつくチェンソー魔法少女の姿があった。


 俺はチェンソー魔法少女と目が合うが、彼女はすぐに目を逸らし舌打ちをするだけで何も言ってこなかった。


 俺も何か声をかけようとはするが言葉が見つからない。


 そんな気まずい空気の中、突然目の前に光が現れる。


 その光は徐々に人の形へと姿を変えていきやがてチャイナ水着魔法少女の姿となり俺の顔を覗き込む。


「どうしたあるネ?発砲玉喰らったみたいか顔して」


「いやそれを言うなら、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をして。だろ?」


「アイヤー似たようなもんネ。そんな事気にしてたら生きていけないヨ」


 チャイナ水着魔法少女は、そう言うと俺の横に座る。


 そしてチェンソー魔法少女も俺の横に座った。2人とも俺との距離が近くて、俺は少したじろいでしまう。


 しかし、そんな俺にお構いなくチェンソー魔法少女が口を開いた。


「悪いが君は私たちと一緒にここでプレイヤーが来るのを待ってもらう。まず、あそこで捕まったらいけなかったんだ。一応魔法少女にも捕まるには決まった地点という物があってね」


「じゃあ俺が今ここであんたら、どっちかを捕まえてもいいのか?」


 正直、勝てる自信はある。


 先ほどの戦いを見ても思ったが、こいつらは能力が桁違いなだけで体力事態はあのシスターが言っていた通り弱い。

 弱いってほどではないが、少女くらいの力だ。


 ニートの俺でも一応男なのだからやろうと思えば、こいつらをここで捕獲できる。


「すればいい。ただもう一人のプレイヤーが来るのを待った方が得策だとは思うよ。二人一気に捕まえられるしね」


 軽い挑発のつもりではあったが、二人はそれに動揺するどころか、驚きもせずにチェンソー魔法少女は俺の目を見つめる。


「どうせ暇だし待ってる間に先ほどのもるるんの説明でも補完しておこう。魔法少女はこのゲームでは常に決められたバディとともに行動して、決まった地点で捕まらないといけない。例えば私たちだとここだ」


「でもさっきのシスターは普通に動き回ってたぞ?」


「それは彼女の相方が先ほど捕獲されたからだ。相方が捕獲された瞬間、もう片方の魔法少女は好きに動いていいし、遊園地内ならどこの地点で捕まってもいい。だからここで私が捕まればくりえいちゅはすぐに瞬間移動をして逃げることができる。それじゃあ君たち側のプレイヤーも困るだろ?」


「まあ確かに」


 なら、ここは大人しく他のプレイヤーを制限時間以内に待つことにした方が賢いか。


 時間ギリギリになってもこなければ、もし彼女の説明が本当ならばどちらかを触れればゲームクリアだ。


「そういうことあるネ。だからその汚い手でわしに触らないことをお勧めするぞ」


「ひでぇ。俺こう見えて毎回手は洗ってるぞ」


「それは最低限の当たり前のことではないか?」


 そうチェンソー魔法少女は鼻で笑い、チャイナ水着魔法少女は俺の肩すれすれを触れないように叩く。


 それにしてもこいつら10代前半くらいという可愛い見た目をして思ったよりも乱雑というかなんというか、口悪いな。


 まあでも案外こっちの方が仲良くなりやすい気はするがな。初対面の人と喋るって本当に苦手だし、結構ギスギスして気まずくなることが多いから少しでもこういうフランクな感じでいいと助かるっちゃ助かる。


 もちろん今はフランクとか言ってられない命をかけた勝負をしている真っ最中なんだが。そこを突っ込むのは野暮だろう。


「そういえばさっき俺の腹に突き刺さってた傷はなんで治っているんだ?回復系の能力をどちらかが持っているのか?」


 先ほどから疑問に思っていたことを俺はようやく口に出す。


「違うな。治したのは私だが能力は回復ではない、まあその話は……振動を感じる」


 チェンソー魔法少女が俺の質問を鼻で笑い飛ばし、答えようとした瞬間視線を上げる。


「どうやら来たようネ」


「ああ。おい男」


「一条だ」


「では一条。喜べ、他のプレイヤーが来るようだぞ」


「どこから?」


「上からだ」


 レーンが微かに振動し始め、その振動が次第に強くなるこの振動の正体を探るため上を見上げると目の前の風景が突然歪んだように見えた。

それはジェットコースターの車体の接近による圧倒的なスピードと音の影響だった。


 振り返ると、銀色のコースターが風を切り裂いて急速に接近してくる。この状況に焦りと恐怖が混じり合い、身体中の毛穴が一気に開くような感覚が襲ってきた。


「まさかここジェットコースターのレーンなのか!?」


「なんだ、今気づいたのか。気づくの少々遅すぎないか?」


「それどころじゃねぇだろ!!」


 チェンソー魔法少女の冷ややかな言葉に焦りが加速する。


 ジェットコースターのレーンの上に座っている状況を理解した途端、冷や汗が流れ出す。振動はますます強くなり、足元のレールがガタガタと音を立て始めた。


「一条ぉぉぉおおおお!!!」


「ひまり!?」


 コースターの車両から身を投げ出し俺の名前を叫んでいるのは、ひまりだった。


「今行くからっ」


 ひまりは自分に言い聞かせるように叫び、ベルトのバックルに手を伸ばした。カチャリと解除音と共に自由になった彼女は、車両の端に足を掛けた。


「飛び降りてそこ行くからそこで待ってて」


「待てッ早まるな!!」と叫んだが、ひまりは聞く耳を持たなかった。


 車両の縁に手を掛け、一瞬レーンを見つめてから大胆に足をバタバタと振りながら飛び降りる。風が彼女の髪を揺らし、彼女の体は弧を描いてレーンへと向かって落ちていった。


「とりゃあぁぁ」


 間抜けな掛け声と共にひまりは、レーンに着地しようと足を延ばすが勢いを殺し切れずそのまま転がり落ちていった。


 そして勢いよくチャイナ水着魔法少女の足元に衝突する。


 チャイナ水着魔法少女がひまりを見下ろし、ひまりは彼女を見上げる形で2人の目が合う。


 その目はどちらも死んでいた。


「え?嘘?もしかして今…」


「そ、そんなわけあるカ!?今のがタッチに入るはずが…」


『12分21秒経過にて、魔法少女二人目捕獲成功。残り8人。残り時間17分39秒』


 無慈悲な音声アナウンスが、2人の希望を粉々に砕く。目に光が宿ったひまりに絶望と怒りが混じったような鋭い眼差しでチャイナ水着魔法少女は睨みつけた。


「よりにもよってなんでこんな馬鹿そうな奴にまろが捕まるネ!?こんなのなんてまぐれにも等しすぎるネっ」


「いやそんなこと言われても……」


 ひまりは恐る恐るチャイナ水着魔法少女から距離を取る。

 しかし、すぐにその距離を詰められ彼女の怒りの矛先がひまりに向けられる。


「……じゃあ厄介な奴が先に捕まったってことは、残るは瞬間移動の能力すらないお前だな」


「こればかりは私でも予想してなかったよ」


 チェンソー魔法少女は、俺に目を向け少し笑った。


まさかひまりのあれがタッチと見なされるなんて誰が予想できただろうか。


「あとはお前だけだ」


「どうするカ?まゆりりりんッ」


「アレを頼んだ」


「よしきたヨ」


 チェンソー魔法少女の言葉にチャイナ水着魔法少女が、腰にぶら下げていた鞭を手に取りこっちに駆け出してきた。


 しかし、ひまりはチャイナ水着魔法少女の動きを素早く察知し、すばやく一歩前に出る。その勢いのまま、体をひねりながら右足を大きく振り上げる。


 回し蹴りの軌跡は速く、空気を切る音が響くも彼女はひまりの動きを見逃さず、直前で体を反らして回避。

 髪がかすかに揺れ、蹴りの風圧がそのまま通り過ぎていった。


「何するネ?お前ッ」


 チャイナ水着魔法少女は驚きと怒りの混じった声で言い放つ。


「二度とあんたは一条の近くに駆け寄らせないっ」


 チャイナ水着魔法少女が鞭を振りかざすと、その先端が空気を切り裂く音が響く。しなやかな鞭は蛇のようにひまりを狙って襲いかかる。


だが、ひまりはその軌道を読み取り、素早く体を傾けて避けた彼女は冷静に対処し、次々と鞭の攻撃をかわしながら距離を詰める。

 ついに間合いを詰めた瞬間、ひまりは強烈な右ハイキックを放ち、相手の頭部を狙った。


「さてあっちはひまりに任せるとして、俺とお前で今から鬼ごっこでも始めるか?」


「私はうぃっちゅくらふちゅやししゅたーくろのように武闘派じゃないからな。鬼ごっこは遠慮したい」


「俺も武闘派じゃねー…よっ!」


 そう俺がツッコんだ瞬間、チェンソー魔法少女は動き出し、レーンの上を全速力で駆け出した。前方には高速で通り過ぎるジェットコースターの車両が見え、少女はその後ろを必死に追いかけた。


「おいまさか」


 彼女は瞬時に跳び上がり、手を伸ばして通り過ぎる車両の側面を掴んだ。そして、そのまま体を引き上げスムーズに車両内に滑り込む。


「この状態でお前が私を追いかけることはできるかな?」


 高らかに笑いながら手を振る彼女に、歯軋りをしながら何もできない自分への悔しさを押し殺し、俺もまた覚悟を決めた。


「ひまり!銃をくれ」


「はいよ」


 俺の声に反応して鞭を避けていたひまりが、肩にかけていたアサルトライフルを俺に向かって投げる。


 俺はそれを受け取り、チェンソー魔法少女に向かって照準を合わせようとする。


 しかそ、不規則に揺れる車両に乗った少女を狙うには、アサルトライフルは圧倒的に不向きだった。必死にバランスを取りながら狙いを定めるが、ジェットコースターの上下運動で狙撃は困難を極めた。


 いやできる、俺ならできる。


 何度もゲームでやってきたじゃないか、車を運転している相手や逃げまとう相手を撃つなど、何度もやってきたことだ。


 深呼吸し、再び照準をチェンソー魔法少女に合わせる。

 彼女を捉えた瞬間、引き金にかけた指に力が入る。

 そして俺は彼女の頭に照準を合わせ、トリガーを引いた。


「…行け。行け行け行け行けぇぇええええ」


 汗を滲ませながらアサルトライフルを構え、弾薬が尽きるのを顧みずに連射を続ける。


 引き金を押しっぱなしにすることで、連続する銃声とともに弾丸が雨のように降り注ぐ。ターゲットの動きを目で追いながら、微調整を繰り返しつつ、撃ち続けることで圧力をかける。


 一瞬のブレも許されず、集中力を極限まで高めた。


 そしてついに俺の放った弾丸がチェンソー魔法少女を捉えた。


 その一撃は、彼女の右足を正確に射抜き、空中に血飛沫が舞った。

 チェンソー魔法少女のバランスが崩れ、そのまま車両の側面に倒れた。


「よっシャア!!行ったぞ」


「まゆりりりんッ!くそっ……ひまりお前一緒に来るネ」


「えっ?ちょっと急に何?」


 速攻を狙ってひまりは連続したジャブを放ち、続けざまに低めのキックを繰り出す。相手を追い詰めようとする中で、その動きを読んでいたチャイナ水着魔法少女は鋭い鞭を振り下ろしてひまりの腕に巻きつけた。


 鞭が締まり、ひまりはバランスを崩し、その場に引き倒される形で捕らえられるとチャイナ水着魔法少女が呟く。


《むーぶおんらいくらいと》


 その一言とともに金属光沢のある綺麗な糸が生成されゆっくりと広がりながら伸びていき、ひまりを包み込む。次の瞬間、糸は鱗粉となって飛び散りその中にいたはずのひまりも跡形もなく消えていた。


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次回は第7話「チェンソー魔法少女VS女子高生!?ライフル ちゃんと当たるかな?」です。


お楽しみに。

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