第4話 最強慈愛♡ししゅたーくろですぅ

「じゃあ俺とひまりはジェットコースターに乗るので、ねおんさんは鏡の館、アウトロはティーカップ。えっと……あなたは観覧車で」


「いや案外アトラクション行かなくてもいいかもよ。ほら」


 アウトロが指した先に視線を移す。前方1メートルの近距離にシスターのようなドレスを着た少女が突然姿を現したのだ。


 淡いウェーブのかかった白髪に大きな丸い瞳、胸の前で手を組み祈っているその姿はまるで天使のようだった。


 ただ天使ではなく、彼女は間違いなく魔法少女だ。


「作戦変更だ!あの魔法少女が逃げ出せないように俺たちで囲むんだ!俺が接近して捕まえてみる」


「ぬるい!!俺がやる」


「筋肉さんっ!?」


 指示を聞かず、筋肉野郎が一人で飛び出す。


 筋肉質な体が弧を描くように前進し、重心を低く保ちながらシスター魔法少女に接近すると意表を突いて足を前に伸ばした彼は足払いを仕掛けた。


「悪いな、嬢さん。脳震盪を起こして気絶させる」


 シスター魔法少女のバランスが崩れた瞬間、彼は素早く上半身をひねり拳を固く握りしめた手を彼女の顔面に向かって振り下ろす。


 筋肉野郎の拳が鈍い音と共に少女の顔面にクリーンヒットすると思った。しかし、その拳は彼女の頬に当たる前に何か見えない壁のようなものに阻まれる。


 彼女はまるで何事もないかのように彼の拳を手のひらで受け止めたのだ。


「別にいいのです。それを主が望むのならぁ」


 驚いて思わず後ずさった筋肉野郎の隙をついてシスター魔法少女は彼の腕を両手でつかむとそのまま投げ飛ばすように地面にたたきつける。


 彼は受け身を取ろうとするも勢いは殺し切れずその場に彼の巨体がうずくまる。


「でも流石にあなたのような雑魚に倒されるのは主も望んでないと思うのですぅ」


 少女のゆっくりとした仕草と澄んだ目、それに対する彼の攻撃速度を上回る異常な反射神経。何よりあの細い腕で投げ飛ばしたという衝撃が俺たちに残り、思わず啞然とする。


 アレが魔法少女?俺の知ってる魔法少女と全然違うじゃねぇか、俺が知ってるのは魔法はできるけどか弱い……そんな魔法少女。


 目の前にいる生き物は俺が知っているその形とは大きく外れていた。


「あら?もしかしてそこにいるのは……主?」


「へ?オレ?」


 シスター魔法少女の視線が、背後で情けなくも尻餅をついているピンク髪の視線と絡みつく。


 きょろきょろと周囲を見回しながら、先ほどの余裕はどこに行ったのだと思うような涙目の表情で俺を見上げる。


 いや、こっちを見られても。


「主だ……主だ。主、主、主、ねおんさまだあああああああああ」


 興奮気味にシスター魔法少女は鼻で息を吸いながら胸の前に手を組み、頬を赤らめる。彼女の放つ雰囲気は徐々に変わっていく。


 まるでメロメロという擬音語が似合うくらいに彼女の表情に変化が起きていく。潤んだ瞳から流れ出る涙は次第に光を放ち輝き始める。


 ピンク髪を見つめるその表情はもはや恋する乙女だ。


「クソガァ……手加減してやったのに。マシンガンぶっ放してやる!!」


 うずくまっていた脳筋野郎は狂ったように怒りに任せて叫び、彼はマシンガンの照準を定める。


「うるせぇぇぇ筋肉!!今はそれどころじゃねぇのですよっ」


 シスター魔法少女の叫び声に青筋がたった脳筋野郎の指が引き金を引き、銃弾が猛烈な勢いで少女に向かって飛び出していく。


 しかし、彼女は引き金を引かれる前に動いていた。


 瞬時に体を捻って飛び上がり、飛んできた弾丸を次々と回避していく、その姿はもはや美しさすらあった。


 重力を感じさせないその動きに俺やアウトロ、筋肉野郎ですら見とれてしまうほど洗練された動きだった。


 そもそもマシンガンの弾をかわせる人間なんていないだろ、避けれるならもうすでに生き物ですらねぇよ。


 弾丸の嵐を鮮やかに避けながら彼女は進み、間合いを詰める。


「嘘だろ」


「嘘じゃないのですよ、筋肉豚さん」


 脳筋野郎のすぐ目の前まで距離を詰めたシスター魔法少女は可愛くウインクをしそのまま、彼の腹部に膝蹴りを入れ込む。


 強烈な衝撃に、口から胃液を吐き出しながら思わずうずくまる彼の顎に、さらに容赦なく膝蹴りを入れる。脳が揺れ、激しく痛みに悶える彼の横顔を彼女は長い脚をつかってそのまま踏みつけた。


 脳筋野郎の顔面を地面に叩き付けるようにして叩きつけられた彼は、強く頭を打ち付けうめき声をあげながら気絶した。


 下敷きになった際、窒息したためか口元から泡を吹き出していた。彼の瞳が空を見上げるが、意識はもう遠のいていた。


 そのあまりにも壮絶な戦いぶりに俺たちは開いた口が塞がらなかった。


「やべぇよ……やばすぎるよ。あの銃に自信があるとか言ってたあの人があんなに簡単に倒されるなんて……逃げよう。逃げるんだ。他の魔法少女なんてどうでもいい」


「でも他の魔法少女が見つからないかもしれないじゃないですか。ひまりが……戦います。一か八か」


「いやひまりはそれはやめておこう」


 腰を抜かし、へたり込みながら言葉をこぼすピンク髪に、ひまりは食って掛かる。


 だが他の魔法少女が見つからないから自分が戦うなんて自殺行為、ここは一旦退却するのも一つの策とも言える。


 茫然とシスター魔法少女のあまりの光景に視線を外せずにいると、彼女の眼球だけがこちらにギロリと向かれる。


「三人とも逃げるんだ!今すぐにッ」


「えっ、でも」


「いいからァ!!」


 危機迫る叫びに、脳筋野郎を踏みつけたままのシスター魔法少女は気づいたように首を回す。


「主さま……主さま、主さま、主さま、主さまっ主さまっ主さまっねおん様ああああああああ!!」


 嬉しそうに喜悦に満ちた表情でシスター魔法少女は俺たちに向かって跳躍する。


 彼女の瞳には、もう俺は映っておらず、ただ俺の後ろにいるピンク髪が映っていた。


 まるで獲物を狩る肉食動物のようなその目に思わずたじろぐも、俺はすぐに我に帰りひまりの手を引き走り出した。


「ししゅたーくろっ、ししゅたーくろはですねぇ。捕まるならねおんさまに捕まりたぁいのです!!」


 両手を前に地面に置きクラッチングスタートの体勢をとると、一気に俺とひまりに向かって突っ込んでくる。


 凄まじい風圧をまき散らしながら突っ込んできたシスター魔法少女は俺たちの間合いに入り、その一瞬で消えた。


「どこいった!?」


「一条ちゃん上だっ!!」


 ねおんさんの声に、俺が上を見上げると頭上2メートル地点近く跳躍し落下してくるシスター魔法少女の姿。


「それが愛ならば、死んでも受け止めるべきです」


 落下しながらがら空中で回転する彼女は、テヘっと舌をだし俺の首の上に垂直に足を振り下ろす。


 まずい、と直感で悟ったがもうどうすることもできない、俺は咄嗟に両手を前に出し防御の体勢をとる。


 次の瞬間、俺の両手に強い衝撃。落下エネルギーと重力の全てが俺の手にかかり、骨が砕ける音が聞こえる。


「ぐはァっ!!」


 その衝撃は凄まじく、ガードしたのにも関わらず俺は地面に叩きつけられ一瞬呼吸困難になった。


 ガードしてなければ確実に死んでた。いやまじで。


 俺はすぐに立ち上がりシスター魔法少女を目で追おうとするが、もうすでに彼女の姿はない。


 まさか、次はねおんさんを狙う気か。


「ねおんさんっ伏せろッ」


「え?」


 俺が叫ぶも時すでに遅く、シスター魔法少女はねおんさんの背後に立ち両手を高くあげる。


 無理だ、ねおんさんが避けられるわけがない。もう諦めるしかないのか?


 彼女の手が振り下ろされる瞬間が妙にスローモーションに見えた。


 くそっ……ダメだっ、と俺が顔を背けた瞬間だった。


 ガキンっと甲高い金属音が俺の真横で響き渡る。


 俺はそのありえない光景に思わず目を奪われる。シスター魔法少女はねおんさんの目の前で両手をクロスさせガードしていた。


 そして彼女の目の前には、血塗られたチェンソーを持った紫髪の女の子が立っていた。


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次回は第5話「水着×チェンソーはなーんだぁ?答えは魔法少女☆」です。

お楽しみに。

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