第3話 仲間探しだよ☆全員集合!!後編

「簡単です。この案内板を使えばいいんですから」


先ほどアウトロが見ていた背後の案内板をバンっと叩く。


「それぞれのアトラクションには番号が振られているから、魔法少女がいなかった場所には、その番号の横に弾丸を撃ち込んでもらいます。これで、どのアトラクションがクリアされているか一目でわかるようになるでしょう」


他のプレイヤーは案内板を見て頷いた。


「なるほど、それなら一目でわかるし、無駄な時間を使わずに次の場所に行けるな」


とサラリーマン風のおじさんが言う。


「はい。なので、ここのアトラクションに乗って魔法少女がいなければ次のアトラクションに行き、もしそこにもいなかったら次のエリアのマップのアトラクション番号を撃ってください」


「あっ。そういうことなら、さっき俺はあそこバイキング乗ったけど魔法少女はいなかったぞ」


「空中ブランコも」


「そういう情報は今全部言ってください。一つずつ撃ち込んで行きますから」


ひまりから銃をもらった俺は、他のプレイヤーが乗って魔法少女がいなかったというアトラクションに銃口を向ける。


やっぱりクソ重いな、このアサルトライフル。重さでブレた手でやっと焦点を合わせて引き金に指をかける。手のひらには汗がにじみ、緊張感と興奮が入り混じる。重い。ゲームと違う、これは本物の銃なのだ。


「……撃ちます!!」


発砲と同時に、視界が揺れた。弾が発射された時のその大きな音と反動に驚き、再び息を吐くのを忘れてしまった。


両手にしびれるような感覚が残り、手がわずかに震えているのに気づいた。反動と衝撃で握りが緩み、銃をしっかりと保持するのすら難しかった。


知らなかった。銃を撃つってこんなにも怖いものなんだ。


体全体に伝わる振動、耳をつんざくような轟音、そして手に残るしびれ。全てが予想を遥かに超える体験。


アサルトライフルの重さが再び肩にのしかかる。これが本物の武器であり、人を傷つける力を持っているのだという現実が、ずしりと心に響いた。


「その銃貸せ、ガキ。俺が撃つ」


「え?」


惚けた顔の俺をよそに日焼けをした筋肉質な大男が俺からライフルを奪い取り、片手で軽々と持ち上げる。その銃は俺が使った時よりも軽く見える。


彼は銃口を案内板のアトラクション番号に向けて、引き金を引いた。


再び発砲音が鳴り響き、弾丸が発射される。しかし今度は反動で彼の腕が大きくブレなかった。その弾道も俺の撃った時とは全く違うものだった。


弾はしっかりと番号を撃ち抜いていた。


「俺はよくハワイの射撃場に行ったりしてるから、銃には慣れてんだよ。お前は頭脳を使って銃は俺に任せろ」


自慢げに言う彼の言葉に思わず、驚きの声がでた。このゲームオリンピックに参加するプレイヤーのほとんどが俺含めて普段外に出ないようなオタクで銃に慣れていない人間が大半の中で、彼はこのゲームにおいてなかなか強力な人材だ。


「とりあえず、今いる13人で分かれましょう。今ここのエリアのアトラクションはほとんど乗り潰されて残り4つしかないので、皆さんの手を煩わせるわけにはいかないし次のエリアに行ってください。残りは俺とひまりで確認します」


「えっ?本当にキミはそれでいいの?」


申し訳なさそうに中年の男が言う。その男の横で小太りなメガネも心配そうな目線を俺に向けた。


「全然大丈夫です。13人全員でここを制覇するより、効率のためにもみなさんが次のエリアに行ったほうがいいです」


優し気な愛想笑いを浮かべると、不安げな表情を浮かべる彼らも決心したのか深く頷く。

馬鹿だなぁ俺たちが残るって言ったのは優しさではない。利用するためだ。


現在このエリアに残されたアトラクションは残り4つ。


ってことは残り4つの中に魔法少女は潜んでいるはず、みなさんが俺らがもたもたしてる間にゆっくりとアトラクションを潰しててくれたおかげで助かりました。


これでひまりと俺だけ得できます。


「いやひまりちゃんのこと心配だしオレは残るよ」


ずっと黙っていたピンク髪の男が唐突に口を開いた。声は高く若々しいが、見るからに20代後半……いやメイクをしてがんばって若作りしてるみたいだがどう見ても30代の男はひまりの頭にぽんっと手を乗せた。


「へ?なんですか急に」


「アレ?高校生なのにオレのこと知らない、夜燃ねおんっていう女子高生の間では結構人気な歌い手なんだけど……」


困惑し、俺を振り返ったひまりの反応にショックを受けたのか夜燃と名乗る男は苦笑いを浮かべた。確かに顔はなかなかイケメンで声優みたいに滑らかな声も、まあ人気になる要素はあるがいかんせん大人が高校生を演じようとメイクをしているのが痛々しい。


「それに残り4つのアトラクションなんでしょ?オレがいたほうが助けになると思うよ。えっと…一条ちゃん?」


「別にねおんさんがいなくても」


「僕も一緒に残りたいな。悪いかな一条?」


思わずたじろいだ俺に畳み掛けるようにアウトロが俺の言葉を遮り、声をかぶせた。俺の肩を掴み、顔を覗き込むようにして彼の顔が近づく。


「君だけが得しようとしてもやらせないよ。僕も搾取側に回る、忘れたかな?」


勝ち誇ったかのようにクスクスと耳元で笑うアウトロに思わず舌打ちをするも、急いで笑顔を取り繕う。


「じゃあこの4人で…このエリアを」


「いや俺もここに残らせてもらう」


「え?」


俺の提案に突然横やりを入れたのは、先ほどの筋肉質な男だった。


おいおい…どういうつもりだよ。なんで誰も俺のいう通りに動かないんだよ、俺の計画にのっとるんだったら俺の言うことくらい聞けよ馬鹿が。


そうじゃないとひまりを救えないだろ。なんでこうもみんな勝手なんだよ。


「チームが13人しかいないのにその内5人がわざわざこのエリアにいなくても…そんなのただの無駄としか」


「じゃあお前が次のエリアに行けばいいだろ。お前が残る理由もない」


「へ?」


このクソ筋肉が。前言撤回だ、こいつは強力な人材じゃない。俺の計画に余計な横やりしかしてこない、何も知らねぇくせに馬鹿な一つ覚えに「銃が使える」とか言いやがる脳筋野郎。


俺の計画に支障をきたす蛆虫だ。


脳筋野郎は当たり前かのように続ける。


「ここはひまりさん、と俺残りの二人でアトラクションを確認する。お前は次のエリアに行けばいい」


「いや…あのでも」


「ダメだよっ!」と、ひまりが突然大声を出した。


その声に思わず脳筋野郎もひまりに視線を移した。スカートの裾を握りしめ、彼女は下唇をかみしめた彼女がキッとにらみつける。


「一条がいないならこのエリアにはひまり残らない。ひまりも一緒に一条と共に行く」


「えぇ、ひまりちゃんいないならオレもここにいなくていいかな」


ひまりが発した言葉に今度はピンク髪の男が反応する。


『7分12秒経過にて、魔法少女一人捕獲成功。残り9人。残り時間22分48秒』


まるで俺たちを急かすように、うさぎのもるるんの声がアナウンスで遊園地内に響き渡る。もう残り時間がそんな僅かしか残っていないのか。


くそ、こんなのどうすればいいんだよ……なんでこうなるんだよ!


計画通りに進まないじゃないか! 頭を押さえ込みたい衝動に駆られるもなんとか理性で押しとどめた俺は大きくため息をつくと口を開いた。


「仕方ない。今ここに残ると言った人以外は次のエリアへ。俺たち5人は急いで残りのアトラクションを確認しましょう」


「わかった、じゃあ私たちは行くから。そっちはそっちでよろしく」


サラリーマン風のおじさんは頷くと、小太りメガネやその他諸々を連れて走って行った。

「じゃあ俺とひまりはジェットコースターに乗るので、ねおんさんは鏡の館、アウトロはティーカップ。えっと……あなたは観覧車で」

「いや案外アトラクション行かなくてもいいかもよ。ほら」


アウトロが指した先に視線を移す。前方1メートルの近距離にシスターのようなドレスを着た少女が突然姿を現したのだ。


淡いウェーブのかかった白髪に大きな丸い瞳、胸の前で手を組み祈っているその姿はまるで天使のようだった。


ただ天使ではなく、彼女は間違いなく魔法少女だ。


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次回はこの後9時更新

第4話「最強慈愛♡ししゅたーくろですぅ」です。

お楽しみに。

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