第2話 仲間探しだよ☆全員集合!!前編

 大多数のプレイヤーがガラスでできた遊園地に入場し『魔法少女探し』に取り組んでいる中、開始してから2分が経過しているのにも関わらず最初のスタート地点からほとんど俺とひまりは動いていないかった。


「とりあえずこの重いアサルトライフルはここに捨てる」


「えぇ、なんで?せっかく用意されたのに」


 肩にかけていたアサルトライフルを地面に投げ捨てると、ひまりは不満そうに口を尖らせた。


「当たり前だろ。制限時間が30分間しかない上、見るからに遊園地が広いのにこんな重いものを持ち歩き続けるわけにはいかない。特に俺みたいな重いものに持ち歩いていないやつはな」


 この短い制限時間の中で、広い遊園地の中から少女を探すとなると、効率的にできるだけ無駄のなく動くことが求められる。そうなると慣れない銃を常に持ち歩いていては体力を削ぐのは望ましくない。いやむしろ邪魔だ。


「とにかく軽装で動きやすくすることが最優先だ。武器が必要なら、その時に近くから調達すればいい」


 俺はひまりにそう説明しながら、彼女の表情を伺った。

 ひまりは一瞬考え込んだが、やがて理解した様子で小さく頷いた。


「わかった。じゃあひまりが持つよ」


「え?」


 ひまりは俺が捨てたアサルトライフルを軽々と持ち上げると、それを肩に担いだ。


「お前を話聞いてたか?」


「聞いてたよ。つまり簡単にいうとそれって体力問題でしょ?ニートで体力のない一条と違って、ひまりはボクシングやってたから通常の人より体力あるし。これくらい持ち歩いても屁じゃないよ」


 ひまりは悪戯っぽく顎を少し上げて笑うと、ドヤ顔で俺に自分の体力自慢をする。彼女の小さな体では不似合いなほどの大きな銃が、彼女の小さな体にぶら下がっている。


 その不格好な姿に俺は苦笑いを浮かべる。


 まあ、それでひまりがいいならいいか。


「とりあえず遊園地に一秒でも早く入場しよう、その後計画を伝える」


「了解の助!」


 敬礼のポーズをとり、可愛らしくウインクをしたひまりはそのまま元気よく走り出す。呆れる余裕すらない俺もすぐに彼女の後を追い、ガラスでできた遊園地の入口に向かって急ぐ。


「中に入るとさらに悪趣味でファンシーな遊園地だな」


 門をくぐると、目の前には虹色に輝くジェットコースターが宙を舞い、カラフルなメリーゴーランドがキラキラと回転しているのがいやでも目に入った。ティーカップや観覧車もネオンカラーで彩られ、どこを見ても過剰な装飾が目を引く。


 どこにもいないはずの子どもたちの笑い声と機械音が混ざり合い、俺からすると不気味だ。


「でも、綺麗じゃない?ひまりは結構好きかも」


 ひまりはそんな俺の反応をよそに、目を輝かせて周囲を見回していた。


「油断するなよ。ここは普通の遊園地じゃない。罠や仕掛けがあるかもしれない」


 俺は彼女に注意を促しながら、地図を確認する。遊園地内のエリアは5つ。おそらく魔法少女の人数が10人ならば、一つの一つのエリアに2人ずつと仮定するのが一番可能性としてあり得る。


「で、どうする?早速一番奥のエリアから回る?」


「いや残り26分でそれは時間の無駄だ。こんな広大な遊園地で2人で魔法少女を探すのより、とりあえず少なくとも5人くらい仲間を作った方が効率的だ。他のプレイヤーに呼びかけをしよう」


「わかった!」


 ひまりは再びアサルトライフルを肩に担ぎ、他のプレイヤーを探し走り出す。


 このゲームに参加しているプレイヤーは1000人だし、少なくても100人くらいはこのエリアにまだ留まってるはず。そのうちの何人かが協力してくれると期待するしかない。


 とりあえず、高くから遊園地を見渡せそうな空中ブランコから探すか。


「空中ブランコには魔法少女はいなかった。他を探すことをお勧めするよ」


 内心焦っていた矢先、不意に背後から誰かの声がして振り返ると、フードを深く被った男が俺の背後から同じように地図を覗き込んできていた。


 俺を一瞥することもなく地図を見る、その男はフードのせいで顔はよく見えないが声質からしてまだ10代後半か大学生とみてまず間違いない。


 そんな謎の男に俺は不信感を覚えたものの、現状では仲間はどんな奴でも欲しい。


「なにを言おうか当てようか。僕を仲間に入れたいんだろ?そりゃそうだよな、この広大な遊園地を勘で一つずつ乗り物に乗るよりかはグループを作って人海戦術でどんどん虱潰しに対処していった方が確実だ」


 男はちらりと俺に視線を向けたが、その顔は口元をわずかにしか露出していない。だが明らかに笑っているような声で淡々と呟くは見るからにできる奴だとわかる。


「そこまでわかってるってならチームを組むってことでいいか?」


「悩ましいな。例えばプレイヤーが20人協力しチームを組んだとして、1回で20個のアトラクションを潰せる。そしてそれを続けていけば絶対魔法少女に辿り着けるだろう」


「その通りだ」


 男は俺の返答を聞くと少し間を置いてから、小さく笑った。


「でも問題はさ、情報を共有したとして得できるのは魔法少女を見つけたプレイヤーだけってこと。ゲームクリア目前でわざわざ他のプレイヤーが不利にならないように報告しに来るような馬鹿はいない。つまり情報を共有しても最終的に得をするのは魔法少女を見つけれたプレイヤーだけ。


全員が得できない、協力に見えて協力じゃない数人だけが得できる戦術ってことだ」


 図星だ。男の言葉に思わず押し黙る。


 俺とひまり、2人だけで広大な遊園地を網羅するのは不可能だが他のプレイヤーを『協力』という名のもとの利用をし、情報を収集できれば、多少なりとも制限時間内にゲームクリアできる可能性が上がる。


「君の戦術は完璧に見えて完璧じゃない。確かな連絡手段がない中、信頼関係もない人間に正しく情報収集できる人間がどれだけいるかって話だ」


「確かにそうだ。このゲームに参加しているプレイヤーは1000人。それに対して目当ての目標は10人。つまりゲームクリアできる人間はたった10人しかない。協力グループが最低15人だとして、この戦術では数人しか得できない。だがお前がその数人の中に入ればいい」


「は?」


「お前も少なくともここにいるってことは、FPSゲーム上位ランカーなんだろ?信頼関係がないのも、情報収集がうまくいかないのも状況以外はほぼゲームではよくあることだ。


なら自分がこの戦術を利用し、搾取する側に回ればいい」


「マジで言ってんの?」


 地図から視線を外し、男は俺を見据える。フードの隙間からわずかに見える瞳は品定めするような、まるで俺を見下すかのようなそんな色を浮かべていた。


 俺は1つ大きく深呼吸をしてから彼の瞳をまっすぐに捉えた。


「当たり前だ。俺はお前を搾取し、お前も俺を搾取すればいい」


 突如、目の前の彼が吹き出し笑い出した。さっきよりもさらに大きい声で笑い声をあげ、フードの上から額に手を当てると首を傾けた。


「確かに。確かにそうだね。君面白いね、あはは」


 彼は目尻の笑い涙を拭うと、深く被りなおしていたフードを脱いだ。


 彼の顔に思わず息を呑む。何度も染められてボロボロになった金髪に外から出ていないと見るからにわかる不健康なほどに白い肌、それに冷徹な瞳。


 女性かと見まがうほどの美しさを持ちながらもそれは女性とはどこか違う雰囲気を持っていた。


「僕はアウトロ。よろしく」


「一条研だ」


「一条ぉぉおお!!連れてきたよ、何人連れて来ればいいかわからないからとりあえず10人!!」


 元気よく走ってきたひまりが俺を見つけるなり、大きく手を振って俺を呼ぶ。その後ろには10人程度の男どもが、ひまりとともに走ってくる。


「すげぇな、上出来だ」


「うん!ちょっと時間かかったけどがんばった」


 俺以上に消耗した様子のひまりに、これからさらに魔法少女探しもできるかと心配の念を抱きながらも、俺は彼女の後ろにいる10人程度の男たちに話しかける。


「協力してくれるってことでいいんですよね?」


「ぼ、ボクは本当は人とつるむのが嫌いだから反対だったんだけどひまりちゃんが説得してくれたから。これは本当にみんなで協力すれば簡単にゲームクリアできるんだよね?」


 興奮した様子で息を切らしながら話す小太りのメガネの言葉に思わず後退りする。


 ひまり以外の、こんな人数の人と話すのは高校卒業以来でなんだか気恥ずかしい。が、そんなこと言ってる場合ではない。


「そうです。ここにいる13人で協力できれば残りの23分間で少なくとも5人は魔法少女を捕獲できる。しっかりと情報共すれば、運が良ければ10人全員をこのチームで捕まえられます」


「おぉぉ!!」


 小太りのメガネは、俺の返答にさらに興奮し目を輝かせる。他の9人もそれぞれ期待と不安が入り混じった視線を俺に向けている。


「とりあえずエリアを一つずつ潰して行きましょう、まずはこのエリアから。ここはアトラクションが6つなので一人ずつに分かれて、それぞれ乗りましょう。乗ってみて魔法少女がいなければ各自各々で次のエリアに行ってもらっていいです」


「でもどうやって、自分が乗ったアトラクションに魔法少女はいなかったって情報を仲間に共有するんだ?」


「簡単です。この案内板を使えばいいんですから」


 先ほどアウトロが見ていた背後の案内板をバンっと叩く。


 さてこちらが搾取側に回る時間だ。


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次回はこの後8時更新

第3話「仲間探しだよ☆全員集合!!後編」です。

お楽しみに。

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