怖いんだって、言ってるのに!

 ここのお化け屋敷は自分で歩き回るタイプだった。これ苦手なんだけど。

 先に入った人たちの甲高い悲鳴や野太い怒声が反響している。


「俺の後を歩けよ」 


 三浦晃平(陽キャ男の本名)が胸を張った。


「ありがと。三浦君」 あたしは三浦の白シャツの裾を握りしめた。


「え? 君とか止めない?」


「わかった、三浦!」


「三浦? あ、うん」


 あ、名前呼びしたかったのね。




 狭くて暗い道が曲がりくねって続いている。左右にはすすけて傾いた土塀。

映画のセットみたいによく出来ている。すると。


 いきなり土塀の一部が裏返って骨格標本が両手を広げて飛び出してきた。


「きゃあーっ!」あたしは三浦の背中にしがみつく。


 三浦も「うおーっ!」と叫びかけて、骨格標本をキックする。


「大丈夫だ。こんな子供だまし!」


 おお、なかなかの男前。




 もう少し進むと柳の木の下に井戸があった。


 来ると思ったらやっぱり、井戸の中から長い髪を振り乱した女のオバケが上がってきた。ここは叫ばずに速攻で通過する。



――くすん、ぐすん。おかあさあん。ぐすん。


 今度は、どこからか子どもの泣く声が聞こえる。かなり不気味。


「なんだ? どこだ?」


 三浦はあたしの肩を抱いて、四方に目を配る。そのとき。


 土塀の上から子どもが落ちてきた!


 あたしと三浦は思わず抱きとめる。


「うわああん、お母さん」 女の子は泣きながらあたしにしがみついた。


「泣いてたの、お前かよ!」 三浦が頭を掻く。


「お母さんがどっか行っちゃったあ! うわあん」


「迷子かよ!」

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