夢中ワンダーランド

架船 遊空

第1話 プロローグ:出会い

日付が変わるまでの分数ふんすうが二桁になってから長針は12を何回指したのだろうか。

暗闇の中でも都会は未だに楽しそうな音と共にネオンライトが踊っている。

そんな光の裏で1人の少女が苦しそうに寝ている。

身長も伸びず、穴の空いた汚い服、体は骨が浮き彫りになっているようで、髪の毛も絡まり狂っている。

彼女はこれ以上白紙のページに何も書きたくないかのように光を失っている。

こうしてまた、日付が変わる。

それで終われば良かったのだが、

今日はそうとはいかなかった。


「ここはどこだろう。」

瞼を開けるとそこは今までとは違う光の世界だった。

過去の狭い空間とは違う、果てしなく道や土地が広がっていた。

歳に合った身長、綺麗な服、標準の肉づき、サラサラの髪の毛…別人に生まれ変わったみたいだ。そんな感動に浸っていた時、1人の青少年が少女の前に現れる。

少女は青少年に聞いた。

「馬鹿げた質問だけど…ここはどこ?」

「そうですね、ここはあなたの好きなことがなんでもできる場所です。」

話を聞いた少女は、また光を失った。

嗚呼、今まで何回裏切られてきたのだろうか。

信用のカケラもないわ。

とでも思っているのだろう。

「…嘘だと思うのなら試しに私に何が望みを教えてください。」

強気な彼に少しの苛立ちを覚えた少女は試しに

「お金がほしい。」

なんて冗談混じりな言の葉を並べた。

すると途端に広場の25時の方角に建物ができた。

「さぁ、行きましょうか。」

手を差し伸べられた少女は抵抗感があったが断る理由もなく手を取った。

建物の扉を開けると小さなカウンターがあり、そこには桁が1番大きい紙幣の山がたくさん連なっていた。

少女は驚きが隠せていなかった。

「ご自由にお取りくださいな。」

「本当に?」

「ええ、本当ですよ。」

「こんなに沢山、何に使うんだか…」

「言い出したのはあなたでしょう?」

少女は図星を指されたようで何も言い返せなかった。

だがその様子さえも、彼はにこやかに微笑んでいる。

まるでこの時間を楽しんでいるように。

「…本当になんでもできるのね。」

「そうですよ。だから言ったじゃないですか。」

自慢げに話している彼に少女は苛立ちを思い出しそうになっていたが、今では面白さの方が勝っているようではじめての笑顔が浮かんでいる。

その顔を見て青少年は少し安心の微笑みを浮かべている。

2人とも笑っている様子にまた2人で笑ってを繰り返している。

「はぁ、こういうのを『笑った』とでも言うのかしらね。」

「そうかも知れませんね。」

「…私はどこで寝ればいいのかしら。」

「そりゃね。ねだってもらわなきゃ困りますよ?こちら側からすると。」

「じゃあ寝るところが欲しい。」

「じゃあ、ってなんですか。」

「別にいいじゃないなんでも。」

「そう言われましても気になるものは気になるのですよ。」

今度は26時の方角に大きな新品のベットが現れた。

「私でも寝られるかしら。」

「大丈夫ですよ。私が責任とりますから。」

「なんの責任?」

「落ちたり、怪我したり、とか?」

「なんで疑問系なのよ。」

小さい笑い声がする。

「まぁいいじゃないですか。」

「なにそれ。」

「じゃそんな感じで。おやすみなさい。」

「はいはい、おやすみなさい。」

少女の寝際、2人はそんな会話を交わしたとか。

その後、少女の心の奥底にしまっていた冷たい3本の蝋燭の1つが点火したようだ。

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