マネージャーだって恋をする その1

よし、決めた。ここは北山が小川さんのことが好きだということを知らないふりをして話を進めよう。


「いや、僕らは北山が小川さんのこと好きだなんて聞いたことないな。それに北山が小川さんに実行委員を頼むように言ったのも、好きだからとかじゃなくて、単にクラスに実行委員を任せたいと思った女子が小川さんしかいなかったからじゃないか?」


自分で言うのもなんだが、結構完璧に近い回答な気がする。

そんなことを思っていると、住野さんはさらに質問を重ねてきた。


「じゃあ、数日前に浩平くんが部活を抜け出してまでここへ相談しに来たことはなんですか?」

なんで北山が部活を抜け出し、ここへ来たことを知っているのかは、触れてはいけない気がする。それに、ここも馬鹿正直に恋愛相談なんて答えるわけにはいかないからな、少々嘘をつかせてもらおう。


「あぁそれはだな、北山が勉強のコツを教えてほしいってここに来たんだよ。友達に相談するのもなんか恥ずかしいらしくて。」


「そう...ですか。では、次の相談なんですけど、どうやったら浩平くんに振り向いてもらえると思いますか?」

僕の回答に納得してくれたのか、次の相談に移り変わった。

それに対して僕がどうこたえようか悩んでいると、部長が口を開いた。


「どうやったら、と言われましても、私たちは北山さんのことをあまり知りません。ですから、彼と仲の良い人物に聞いてみるほうがより効果的なのではなくて?」

すげぇ、部長、二日前くらいまでは親睦の深め方さえわからなかったのに、今となっては恋愛相談に対してそれっぽいアドバイスまでしてるぞ...


「あ!そうですね。その手がありました。確か浩平くんは、同じクラスの前田君と仲が良いという話を前していたので、彼に聞いてみますね。」

前田君、誰だよ。同じクラスのはずなのに初めて名前聞いたぞ。


「それでは相談したいこともできましたし、今日はここでお暇させていただきますね。失礼しました。」

住野さんが礼儀正しく部室から出ていくのを確認すると、僕は大きなため息をついた。

それと僕は、部長に気になったことがあったので尋ねてみることにした。


「部長、さっき住野さんにしたアドバイス、あれってほんとにうまくいくやつなんですか?」

あれとは、好きな人の友達を訪ねるということである。


「もちろん、うまくいくにきまっていますわ!だって、恋愛小説にはそう書いてあったんですもの!」

......なるほど、つまり本の受け売り、ということですか。

そう思い、僕は部長に言った


「本に書いてあることが、そのまま現実にも通用するとも限らないでしょうに」

そういうと部長は、小説はすべて事実に基づいて書いているんじゃないんですの?と言いながらうなだれてしまった。


その姿になんだか僕は罪悪感を抱く。きっと子供に、サンタさんはいないんだよ。と教えてしまったときにも同じような罪悪感を抱くのだろう。


部長がうなだれたまま何やらぶつぶつ言っているので、僕は帰ることにした。

.....ちゃんと紅茶のカップは片づけたから安心してね


帰路につきながら、最近の、主に北山たちのことについて考えていた。

話をまとめると、北山は小川さんが好き。でも住野さんはそんな北山のことが好き。

本当に困った話だ。小川さんが北山と付き合ったら住野さんが悲しむし、付き合えなかったら北山が凹むだろう。


ほんと、僕らになんとかできる相談事なのか?これは。

さて、そろそろ家も見えてきた。家にまで学校の悩み事を持ち込みたくないからな、いったんこのことは忘れよう。


あとは、帰った後妹に何か言われないか、それが肝心だ。

玄関のかぎを開け、家に入る。靴を脱ぎ、扉を開けてリビングに入ろうとする前に、柚子が出迎えてくれた。が、瞬時に不機嫌な顔になった。...これはまずい


「おにぃ、なんでまた別の知らない女のにおいがするの?」

はぁ....多分、住野さんのことだろう。

こいつは犬なのか?少なくとも人間の嗅覚じゃないし、これからも女子がお悩み相談部に悩み事を持ってくるたびにこの会話をしなきゃいけないだろうということに、僕はただ頭を抱えることしかできなかった。

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