体育祭編

野球少年は恋をする その1

 おいおい、いきなりハードルが高すぎやしないか、なんせこの部は陰キャとぼっちで形成されているんだぞ。

 無理ですって言って突っぱねたい...などと考えていると、部長が顔を明るくして口を開く。


「あら!素敵ですわね!それでそのお相手というのは?」

 それは僕も気になる、思春期はみんな恋バナに飢えているんだよ。


「それは、同じクラスの小川楓花おがわふうかさんって名前で、多分西風なら知ってるんじゃないのか?同じクラスなんだし。」

 急に名前を呼ばれ僕は驚く。僕、北山と同じクラスだったんだ。


 にしても小川楓花か、聞いたことがないな。クラスの自己紹介の時に机の下でこっそりスマホゲーの周回まわしてたのがいけなかったかな...


「しらない。話を戻すと、北山...でいいか?お前は小川さんのことが好きなんだよな?どんなとこが好きなのか聞いてもいいか?」

 相手がタメ口ならこちらもタメ口だ。


「どんなところがか、全部好きだけど、強いて言うなら性格かなぁ。あの穏やかでふわふわした感じの性格に惚れたのかな...」

 少し照れながら話してくれた。

 べた惚れじゃん。小川さんのこと好きすぎでしょ。


「んで、そんな小川さんと話すきっかけが欲しいけど、自分じゃいくら考えてもわかんないからここに来たってわけ。」

 なるほどそういうことか、この部には一番向いてない相談かもな。なんせこの部には親睦の深め方を知ってるやつがいないんだ。お前の恋を応援できそうにないよ、南無南無...


 そんなことを考えていると、部長が少し考える素振りをした後に、自信満々にいつものでかい声で言う。


「きっかけが欲しいのでしょう?それならあるじゃありませんの!あなたたち、一か月後に何があるかご存じで?」

 一か月後?なんかあったっけ...あ!体育祭じゃん。


 学校生活の中でもトップレベルでカップルが誕生しやすい行事じゃん。(偏見)

 ちなみに同列で文化祭、修学旅行などが並ぶ。


「ああ、そうでしたね、すみません、部活に集中しすぎて体育祭のことすっかり忘れちゃってました...ですけど、具体的にどうきっかけを作ればいいんでしょうか。」

 こいつまじか、わからんの?僕もわからん。


「そうですわね、どうしましょう...」

 発案者である部長もわからんのか...やっぱぼっちなだけあるな。

 外から聞こえてくる運動部の掛け声と、吹奏楽部の楽器の音しか聞こえないくらいに部室が静かになった。正直めちゃ気まずい...


 しかしどうしようか、誰も思いつかないじゃないか。このまま無理やりひねり出すくらいだったら、一日置いたほうがいいんじゃないか?うん、それがいい、そうしよう。


「あ~~~、その、なんだ、いま案が何も出ないならいったん日を改めないか?

 ほら、冷静になったほうが思いつくこともあるだろ?だから明日のこの時間にもう一回ここへ来てくれないか?明日はどの部も休みだったはずだから、お前も特に予定がなければ来れると思うんだが...」

 僕、休みの日に関しては詳しいんです。任せてください。


「俺は別に大丈夫だが、いいのか?二人はいうなれば休日出勤することになるんだぞ?」

 おっとそうだった。ここは何かと理由をつけて部長だけに行ってもらおう


「あ、明日は帰ってすぐにやりたいことが...」


「もちろんですわ!私たちを頼ってくれたんですもの、それくらい屁でもないですわ!ですわよね、西風さん?」

 断ろうとしていた僕の声は部長のくそデカボイスにかき消されてしまった。

 おまけにこの人、僕に圧かけてきやがったぞ。


「はは...そうですね..」

 こう答えるしかできなかった。あんなこと部長が言ってるのに僕だけ断ったら絶対空気悪くなるじゃん。しょうがない


「そっか、真剣に考えてくれてありがとう。先輩もありがとうございます。紅茶、美味しかったです。では、また明日ということで。」

 失礼しました。とお辞儀し北山は出て行った。


 あ~~~どうしよ、休日出勤も決まっちゃったし、一日待ってとは言ったけど一日で果たして思いつけるだろうか...まぁ、そろそろ部活も終わりそうな時間だし、帰ろう。


 今もなおきっかけについて考えながら先ほど使ったカップをかたずけている先輩に、僕は帰宅の許可を求めるべく声をかけた。


「部長、僕そろそろ帰ってもいいですか?」

 急に声をかけられはっとした部長は


「ええ、そうですわね。そろそろ終わりにしましょうか。」

 よし!帰れる!そう考えながら僕が部室から出ようとすると、


「そういえば西風さん、私が休日出勤に賛同する前、何か言いかけてませんでした?」

 おう、まじか、それ聞いちゃう?


「ナンデモナイデスヨ」

 震えながら答えるので精いっぱいだった。

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