精霊大国アルブヘイム

第55話 卒業単位全得


「お前たちは、つくづく規格外だな。」


「いやぁそれほどでも?」


「皮肉のつもりだったんだが…?」


学園長にいきなり呼び出され来てみると、俺とアイリスとアレンとルージュ。この四人は卒業に必要な単位である『一級功績』を、S級ダンジョン攻略で手に入れてしまったようで、もう卒業しろということらしい。


S級ダンジョン『天獄』の攻略から数ヶ月、1年生の終わりの出来事だった。あと数年はここで学ぶと思っていたのだが、卒業させてくれるのなら話は早い。


「学園卒業、それも1年生の段階でというのは初めての事例だ。少し手続きに時間がかかるし、大々的な卒業式は春休みとなる。」


「へぇ、俺たちだけのために卒業式をやってくれるんですか?」


「当たり前だろう、君たち四人も我が校の大事な生徒だ。門出を祝うのは当然の義務と私は心得ている。」


なんかこういうとこは律儀なんだよな学園長、ダンジョン遠征に送り出す時は手柄あげてこいってルンルンだったのに。


まぁでも、正直学園で学ぶことはもうなかったしありがたい。これ以上強くなるには、世界に旅立つ必要があった。それこそ、原作で見てきた馬鹿みたいに強い敵と戦う必要がある。


(アレンたちの学園ラブコメが見れないのは、少し残念だな…)


「学園長、一つ質問があります。」


「なんだい、アレン君?」

 

「卒業式を例年通りに行うのであれば、来賓が来るはずです。その手続きは行われているのですか?」


「帝王様と騎士団長様、それと各国の代表に呼びかけてみるさ。きっと、イリスとの戦争に勝った帝国を見に来る国がいる。」


「つまり…?」


「存分に、その力をアピールしてやってくれ。その行為が、帝国の広大な国土と豊かな大地を狙う国々への牽制となる。」


俺はそこでにやりとして、学園長にハメましたね?と言う。なるほどなるほど、国同士の睨み合いに、S級ダンジョン攻略者として名が広くなった俺たちを使おうってわけですかい。


「まぁ異論はないですよ。いつ頃に卒業式をやるんですか?」


「来週の土曜日だ。それまで、ゆっくりしていて構わない。」


てなわけで、色々お話を聞いて学園長室をあとにする。アイリスはやっと長話が終わった〜!とご機嫌な様子で早歩きし、アレンはニコニコしながらルージュと手を繋いで歩いている。


「そういえばアル、ルルはどこにいったの?」


「今はうちの屋敷で暮らしてるよ。暇な時に兄様が鍛錬に付き合ってあげてるみたい。」


「それは良かった。ラインハルトさん、凄く強いしルルも良い経験になるでしょ。」


「ちなみに、ルルは兄様との一対一に2回だけ勝ってるらしい。」


「え!?」


「300敗以上して、だけどね。」


「あ〜…そういうこと…」


学園内を歩きながら、アレンとそんな会話を交わす。兄様も王帝魔族と聞いた時にはもうめちゃくちゃ驚いていたが、俺達に力を貸してくれたことを伝えるとすっかり警戒を解いた。今ではめっちゃ仲良く過ごしている。


天獄の攻略から少し経つと、いつもの日常が戻ってきていた。あれだけの激戦がまるで嘘だったかのように平和だ。


小さな子供が笑いながら走り回り、大人たちは汗を垂らしながら働き、それでも手と手を取り合って生きている。そんな当たり前の光景を、久しぶりに見た気がした。


(だけど、この国もいずれ…)


黄昏のアルカナは、ハッキリ言って鬱漫画に近しい難易度をしている。化け物みたいに強い敵と理不尽な展開が多く、このバスター帝国も何度壊滅の危機にあったかわからない。そのたび、アレンが奇跡を起こして救ってきた。


この平和は、何もしなくても続くものじゃない。俺はそれを噛み締めながら、自分の屋敷へと戻っていった。





∇∇∇





「卒業証書ってなんか、元の世界に戻った気分だな。」


俺はふと、自分の手元に収まっているやや堅苦しい紙と筒を見て微笑み呟く。そこには、アルフレッド=シシリスの名前と卒業の大きな文字が刻まれていた。これはただのペンじゃなく、魔力で刻まれた刻印だろう。


そう、俺は学園を卒業した。一年という長いようで短い期間だったが、この学園では原作を知っているだけじゃ鍛えられない細かな魔力コントロールや知識を蓄えられた。とても、有意義な一年だったと思う。


ちなみに俺たち四人の後ろ、体育館の入り口側には総勢1000人を超える在校生たちがいる。なんか緊張するからそんな見つめないでほしい。


そして、俺の次にアレンが卒業証書を受け取る。学園長が、救国の英雄にしては若すぎるなと茶化しながら、その証書を渡した。


「次に、来賓の紹介。」


理事長補佐の先生が緊張したような言葉でそう告げると、多忙なはずの帝王が立ち上がった。


「アルフレッド=シシリス

 アイリス=ウィルフォルト

 アレン

 ルージュ=バスター。


四人共、卒業おめでとう。貴殿等の目覚ましい活躍は、我の耳にも届いておる。学園を卒業したあとも、我が国のためにその力を振るってくれ。」


短くそうまとめた帝王に、少ない人数ながら大きな拍手が行われる。その次に立ち上がったのは、なんとつい最近会ったばかりのレイリアだった。その登場に、在校生たちも大きく湧く。


「あぁよろしく、俺はレイリア=ベルディヴェンデだ。久しぶりだな、アルフレッド。」


「お久しぶりです、レイリアさん。」


「知っての通り、このアルフレッドはグラトリアスに赴いて街を救った。俺は、在校生のお前等にコイツのようになれとは言わねえ。


だがな、大切なものを守れる人間になれ。守れるように最高の努力をしろ。もし、何か大事なものを失った時後悔しないよう全力で励め。こんだけ強くなるための設備が整ってる場所にいるお前等なら、なんだって出来るさ。」


そこまで長い言葉じゃなかったが、レイリアが在校生たちに残した言葉は彼らの心の中に残り続けるものだった。かつて、大切なものを目の前で奪われた男による忠告は、子供たちにとってあまりに信頼に足る言葉なのだ。


そして、レイリアが座る。もう他に来賓はいないようなので、理事長補佐が進めようとする。だがその時、体育館の天井に爆音が轟いた。



――――――バゴォォォォォン!!!!!


凄まじい爆発音が響き渡ると、硬い素材で出来ている体育館の天井に大穴が開く。崩れ落ちる天井や瓦礫は、来賓としてやってきていたレイリアによって全て細切れにされる。


「折角の卒業式だってのに、こんなことしやがんのは誰だァ?」


ブチギレて真紅のオーラを撒き散らすレイリアに、在校生たちは震え上がる。大気は揺れ、空が揺るぐほどの圧が天井に向けられると、一人の女性が舞い降りた。


彼女は、美しかった。鮮やかで長い金髪と、吸い込まれてしまいそうなほど美しい顔。神様牙利き手で作り上げた最高傑作のような整ったスタイル、傾国の美女と呼ぶべき女性が現れた。


「そんなに怒らないでください、レイリア。少し、急いで来たので力加減を間違えてしまったのです。」 


「お主は…!!」


現れた女性に対して、帝王は珍しく驚く。そして大国の王とは思えないほど、低姿勢で彼女に向かった。


俺は知っている。あの女がどれほど美しく、どれほど危険で、どれほど強いのかを。彼女の国が、どういう運命を辿るのかを。


「遅れました、私はエルフィ=アルブヘイム、精霊大国アルブヘイムの女王です。」


「「「「「っ!!!????」」」」」


そんなどこまでも透き通るような、大きくはないのによく通る声が体育館に響き渡る。その瞬間、在校生含めた生徒全員が驚愕する。


精霊大国アルブヘイム。五百年前の戦争で、唯一、王帝魔王が直接戦地に現れた国。そして、王帝魔王を撃退した西王大陸最強の国。そんな国の、しかも2000年以上前から生きている女王だ。


「それで?テメェはなんでここに来たんだ?」


「此度の来訪の目的、それは彼等です。」


レイリアの乱暴な言葉遣いに何も言わず、エルフィは俺たち卒業するメンバーを指差す。そして、この世の全てを魅了するかのような微笑みを浮かべこう言った。


「私の国を、救って欲しいのです。」


凄まじい面倒事としか思えない、しかし今後の世界を左右するほどの大きな発言であった。





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