第53話 剣聖アイリス=ウィルフォルト

第49話『迷宮決死行』の内容を変更しました。天死竜王をボスガーディアンではなく、正式なダンジョンボスに変えました。




∇∇∇    アイリスSide    ∇∇∇


「かはぁっ!?…」


あまりにも速すぎる爪撃で、即死級のダメージを負い壁にめり込む。まだ、アルもアレンも命を賭けて戦っているのに、私は戦闘開始早々に動けなくなった。


「全力で行くぞ」


アルは持つ全ての力を動員して、あの暴帝と呼ぶにふさわしい竜に食らいつく。私の目で見ても速すぎる、そして強すぎる力で追い込む。でも、ソレは悪手だった。


「がはぁっ!?……」


どうやら、あの竜の再生にはカラクりがある。あれはただの再生ではなく、再生と同時に受けた攻撃に対して特攻を獲得しているのだ。だから、初見の一撃で葬らなければ殺せない。


アルは、斬り伏せたあとすぐさま終焉ルナルークを発動して殺すべきだった。


(私は…なに、してるの…!!)


でも、一番許せないのは私自身。アルと一緒に戦うって、一緒に人生を歩むと約束したのに、私はこうして足手まとい。むしろ、アレンに守られてる。


そんなのは、婚約者じゃなくただのお荷物だ。剣聖なんて二つ名、全く相応しくない。だって私の剣は、敵の肉を貫けず仲間を守ることができていない。


アレンは、アルが脱落しても必死の抵抗を続けている。たった一人で竜を撹乱し、なんとかして時間を稼ごうとしている。だが、時間稼ぎの目的はアルが復活するのを待つためだ。


そう、アレンが待っているのはアル。私じゃなくて、アルなんだ。アレンは、私よりも断然アルのほうがこの状況を打開できると考えている。それはなぜか、ひどくムカつく。


「ぱ、ぱ…」


そんな時、私の頭の中に思い浮かんでいたのは私に剣を教えてくれたパパ『ライゼル』。文字通り、この国で一番強い剣士。そんな剣士が、私にこういったのだ。


『なぁアイリス、この世で一番強い奴ってのは、どんな奴だと思う?』


『一番、剣を振るのが速い人!』


『違うなぁ、アイリス。結局は、笑ってる奴が一番強えんだよ。』

 

『え?なんで?』


そんな、まだ5歳にもなっていない私に言ったパパの言葉を私は鮮明に覚えている。


『誰もが諦める絶体絶命、神すら見捨てる最悪の状況。そんな時に、笑うんだよ。笑って、立ち向かうんだよ。そんな頭のネジ外れた馬鹿野郎こそが、絶望を打開する。』


そう言って私に笑いかけたパパの顔を、私は一生忘れない。だが、そんな言葉を思い出した私の側で、アレンは凄まじいダメージを負って吹き飛ばされてしまった。


まさに今こそが、絶体絶命。神すら見捨てる最悪の状況、だからこそ、私の口角は吊り上がる。


『アイリス。お前にも、笑って立ち上がらなきゃいけねぇ時が、きっと来る。


その時は、自分の本質を思い出せ。お前が剣を握る、その理由を。』


一言一句、覚えている。絶対に忘れない。


『笑え、アイリス。』


私は死んでもおかしくないほどの傷を負い、、血をポタポタと垂れ流しながら立ち上がった。その立ち姿には、まるで無傷かのような悠然さがある。そしてなにより…


「絶対に、勝つよ…!!」


無敵にも思える、笑顔があった。




『グオオオオオオ!!!!!!』


立ち上がった私を煩わしく思ったのか、竜は苛立った叫び声を上げその白炎の爪を振り抜く。私は放たれた白炎の爪撃を、間一髪で回避する。


そして走り出す。その速度は万全の時とは程遠いほどに遅い。無論、そんな私を見逃さまいと竜はそのブレスを放ってきた。


(借りるよ、アル。)


「ハァァァァ!!!!!」


アルが落とした二刀を握り、迫りくる白炎のブレスに向かい合う。そして、残り少ない力を振り絞り剣を振るった。


衝突するブレスと二刀、力関係は圧倒的に劣勢だが、この刀の効果は全切。鍔迫り合いにおいて最強の武器。2秒もせり合うと、ブレスは霧散する。


「ッッッ!!!!!」


ここしかない。そう判断した私は、ブレスを打ち切ったあとの僅かな隙を見せた竜に向かって突進。残る距離20メートル、その距離を掻き消した私に待っていたのは、過去最高クラスの魔力と威力を持った右パンチだった。


「ッッッぐぅぅぅ!!!!!??…」


防御回避不可能、そんな一撃は私には届かなかった。なぜなら、唯一まだ動けるルルが私の前に立ちふさがり、そのパンチを結界で防いだからだ。


「行って!!アイリスッッ!!!!」


「――――うん!!!」


そして走り出す。もう私と奴に距離など存在しない。私は地面を蹴り、奴の頭部付近まで跳躍する。


その時、竜から異常なほど濃密な殺気が放たれる。奴の左腕から、白ではない黒色の炎が放たれたのだ。


「―――――ッッッ!!!!いけぇ!!!」


しかし、奴の左腕は死にかけのアレンが放った氷結にて止められる。恐らく、三秒も経てば溶かされてしまう氷。だが、アイリスにとってはその三秒が、最高だった。


正真正銘、最後の戦い。もう真正面から打ち合うしかない。そんな状況で、私は笑った。


『アイリス。もう無理だ、勝てない。そう思ったときには、思い出せ。


なんのために剣を握り、なんのために血を流し、なんのために敵へ立ち向かうのかを。それを想い出した時、勝ちへの道がきっと開く。』


「―――――宝剣解放ッ!!!!!!」


右手に握る宝剣、パパから受け取った大事な相棒が虹色の光を放ち輝く。


竜はそれを察知しながら、その口内に白と黒の両方の炎を凝縮する。


「―――――【虹雷宝剣】ッッッ!!!!!」


『グオオオオオオォォォ!!!!!!!!!』


振り抜く虹色の宝剣、放たれる白黒の竜砲。凄まじい威力と速度と魔力、そして爆音を伴いながら2つが衝突する。


ぶつかった瞬間、アイリスが押し負けそうになる。それは当然だ、奴はレベル150の正真正銘の化け物。ボロボロのアイリスじゃ、勝ち目がない。


だが、アイリスは想い出した。剣を握る理由、血を流す訳、敵へ立ち向かう覚悟を。


(私はアルと共に征く!!その希望を邪魔するのなら、斬り伏せる!!!!!)


「ハァぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」


その瞬間、アイリスの出力が急激に増大する。圧倒的の天死竜王が優勢だったぶつかり合いはアイリスへと傾き、竜の声を曇らせる。


(いけっ…あい、りす…)


魔眼を持つ男が、心の中で、意識を失いかけのボロボロの脳みそで言った。


その時、白黒の竜砲が完全にかき消され、虹色の巨大な斬撃が竜を斬る。


『グオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ

ォォォォォォォォ!!!!?????』


凄まじい叫び声を上げ、竜はのたうち回る。肉片が一つでも残っていれば再生するが、一つも残っていなければ再生できない。それを知っている奴は、その絶望を噛み締めた。


天死竜王の体は、巨大な斬撃に飲み込まれ完全に消失した。肉片一つも、現世に残らない完全な一撃。


それは、世界最難関の称号を人類含めたの全てに受けたS級ダンジョン【天獄】のボス。レベル150【天死竜王】を完全に消滅させた。




―――――――――――――――――――――



○天獄の攻略を確認しました


○個体名『アルフレッド』、『アイリス』、『アレン』、『ルージュ』、『ルル』のレベル上限を『100』から『120』に昇華します


○個体名『アイリス=ウィルフォルト』がユニークスキル【希望】を習得しました


○S級ダンジョン攻略を確認しました。ワールドレコードレベルが上昇します


○S級ダンジョン【荒廃】【虚飾】【堕天】が地上に解放されました



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る