第51話 弱者の咆哮


『グオオオオオオ!!!!!』


「止めろォォォォ!!!!!」


「「「オラァァァァァ!!!!!!」」」


突如として出現した臨時S級モンスター、白竜カナリア。その一挙手一投足が災害級の威力を持つ攻撃を何度も繰り出し、冒険者たちを蹂躙する。


ここにいる冒険者たちは全員がレベル60を超えているベテランたち。レベル80を超える猛者も少なくない。


それでも、レベル120のモンスターを相手取りには不足だった。10万人もいた冒険者たちもその半分が死んだ。


「くそっ…!!前線はもっと上がれ!!奴にブレスを撃たせるな!!」


だが、そんな状況でも全滅を免れていたのはレイリアの右腕でありS級冒険者のガルスがいたからだ。まだ20歳になったばかりの若造だが、的確な指揮と、カナリアの鱗にすらダメージを与える強力な斬撃を放つ剣技を持つ天才。ガルスがリーダーとなることで、なんとか戦況を保たせることができていた。


(レイリアさんはあちらに掛かりきりだし、例え勝ったとしても、その前に我らの全滅が先だ…!)


『グオオオオオオ!!』


カナリアは跳躍し、滞空。そして破壊を齎す白雷のブレスを解き放った。


「ぐぅぅぅぅぅ!!!???……」


あんなのが地上に放たれれば、残っている冒険者たちも一人残らず死ぬ。なんなら、レイリアにも被害が及ぶ。そう判断したガルスは命を捨てる覚悟で空へと飛び上がり、魔剣ライキリを振り抜く。


大質量広範囲超威力の白雷ブレス。凄まじい音を奏でながら、ライキリとブレスが衝突する。力比べはブレスが優勢で、全身に感電による内部ダメージを負いながらガルスは押されていた。


「いけええええ!!!!ガルスゥ!!!!」


「やったれやぁぁぁぁ!!!!!」


地上から響く冒険者たちの声、それに微笑みを浮かべたガルスは魔力を解き放ちブレスを切り払う。


「落ちる前に、一発くらい喰らっとけよ!!」


『グオオオ!?!?』


ブレスを切り払い、地上へ落下するガルス。だが、落下する前に魔剣を中段へと戻し、超速の斬撃を飛ばした。それはカナリアの2本の角のうち一つ、白角を根元から切り飛ばした。


「ナイスだガルス!!」


「俺たちも行くぞぉぉぉ!!!!」


ガルスが与えた痛恨の一撃、それは冒険者たちの士気を瀑増させた。前衛は魔力をたぎらせ、地上へ再び降りてきたカナリアの爪撃や噛みつきを全力でガードする。


「魔法部隊!!!放てェェェ!!!!」


「「「「「【土石鋼鉄槍ストーンランサー】!!」」」」」


数百人の歴戦魔法使いによる、一斉魔法発動。使用魔力1000万を超える超出力で形成された巨大な土槍は、辺音速にも登りカナリアへと飛んでいった。


『グオオオオオオ!!!???』


圧倒的数の暴力、一人一人の力は弱くとも数万人の力が合わさりカナリアへ僅かな隙を作り出す。その隙に、土槍は容赦なく突き刺さりカナリアの右翼は爆散した。


「畳み掛けろォォォォ!!!!!!」


ガルスではない、どこかで命を賭ける冒険者の声が上がる。その瞬間、集団の熱気が最高潮に高まり、魔法使いも戦士も、自身のあらゆる力を使いカナリアへと攻撃を仕掛けた。


戦士の剣が、魔法使いの炎が、弓使いの氷矢が、カナリアの硬すぎる鱗にすら着実にダメージを与える。奴の動き一つで一人一人が蹴散らされ、命を落とす冒険者もいる。だが、果てしない犠牲を出しつつも奴の生命力を大幅に削った。


『グオオオオオオ!!!!!!』


その時、カナリアが過去一の叫びをあげる。同時に馬鹿げた魔力が解放され、カナリアの全身から周囲を破壊し尽くす白雷が放たれる。


冒険者たちは吹き飛ばされ、地面は抉れ土煙は舞い起こる。そして、その土煙が晴れた時。冒険者は絶望を味わう。


「―――――――は……???」


天から舞い降りし、雷を操る白竜。一体で下手したら小国を滅ぼしてしまう化け物がそこには、『三体』いた。


そのうちの一体、右翼が欠けた本体らしきカナリアはフンと鼻息を鳴らし、その口を開ける。あまりの衝撃に声も出せず、動けない冒険者たちに無慈悲なる雷砲を放った。


「ぐぁぁぁぁぁ!!!???」


「ぐぅぅ!!!!???…」


「きゃぁぁぁ!!??…」


だが残っている冒険者は、カナリアの猛攻を防いだ猛者のみ。今更ただの雷砲では激痛牙あろうとも即死はしない。


だが、雷砲が消え去った瞬間。上空に一体のカナリアが飛び上がり数百を超える無数の巨大な魔法陣を展開する。そこから放たれるのは、一つ一つが先ほどのブレスと同威力の雷撃。


必然と起こった地獄絵図。無数の怒りの雷が冒険者たちを貫き、焼き、破壊する。一番の実力者のガルスでさえ、その左腕を失い全身に酷い火傷を負う。


「もう…終わりだ…」


「俺たち…ここで死んじまう…」


「これは、駄目だろ…」


共に剣を振るい、酒を飲み、同じ飯を食った仲間が目の前で簡単に死んでいく。そんな絶望を体験させられた冒険者たちは、先ほどまでの威勢を無くし戦意を失う。


士気は最底辺へと下がり、このまま蹂躙される。誰もがそう思い、誰もが武器を落とし、誰もが諦めた。


カランカラン、と剣を落とす音が聞こえる。それを聞いたカナリア三体は、憎たらしい笑みのような表情を浮かべ、同時に雷ブレスを放った。


(あぁ、これで、終わりだ…)


どこかの冒険者が、そう思った。否、この場にいる全員がそう思った。


―――――ただ、一人を除いて。


「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


『…!?』


3つの雷ブレスが集約し、一つの極大雷レーザーとなり地上に降り注ぐ。そんな攻撃の前に空中に飛び上がり、魔剣を振り抜いたガルス。


雷が散り、ガルスの体を焼く。凄まじい激痛に、叫び声を上げる。だが折れない。だが引かない。そのちっぽけな剣一つで、破壊の権化たるブレスと競り合う。


「ぐぁぁぁあぁあぁ!!!!!!!」


残る全魔力を使い切る覚悟で魔力を解放し、なんとか雷ブレスを切り払い斬撃を飛ばす。衝撃波でガルスも地上に吹き飛ばされるが、三体のうち一体のカナリア、その巨大な首を一つ、飛ばした斬撃で切り落とした。


だが、冒険者たちはもう、下を向いていた。武器を落としていた。何のためにここに立っていたのか、わからなくなってしまった。


「まだ、2体…」


「くっそ…こんなことなら、この街から逃げればよかった…」


「あぁ…マリア…死んじまうなんて、おい…嫌だよ…」


冒険者たちが浮かべる表情は様々。絶望、焦燥、怒り、嫌悪。だが、誰一人として戦う意思をもう持ち合わせていなかった。


そんな絶望の空間でただ一人、声を上げた。


「――――――前を見ろッッ!!!!!!」


カナリアの角を両断し、分体を一体殺した大戦果の主。ガルスが、声を上げた。


「まだ、腕がついているッッ!!まだ、魔力が残っているッッ!!!!


なら、立ち上がれッッッ!!!!」


必死の叫びに、冒険者たちは揺らぐ。カナリアはその様子をなぜか、見守っている。得物が美味しく育つまで、待つ気なのだろう。


「レイリアさんはッ!!我等を守るために戦っているッ!!その貢献をッ!溝に捨てることは許さないッッ!!!!


我々はッ!!この街を守るため、冒険者としての尊厳を守るためッ、ここに立っている!!決して、竜の餌になりに来たわけではないだろう!?負けるために来たわけでは、ないだろう!!??


―――――違うかッッ…!?!?」


涙を流しそうになりながらも、訴え続けるガルス。その沈黙が5秒ほど続いた瞬間、魔法の炎がカナリアの顔面を殴りつけた。


「違う…違うッ!!僕は…負けるために、戦っているわけじゃ、決して無い!!!!」


誰がどう見ても気弱そうな、ビクビクと怯えている魔法使いの小柄な少年。今も足が震えて、涙を流している


だが、そんな弱者が、立ち上がった。武器を取った。まさにそれは、弱者の咆哮。それを自身の目で見て、聞いて、闘気が練り上がらない冒険者などこの場にはいない。


「そのとおりだぜ、ガルス…!!」


「やってやるしか、ねぇんだな…!!!!」


少年の行動によって、諦めかけていた冒険者たちが立ち上がり再び武器を取る。それを見たカナリアは満足そうな笑みを浮かべ、叫ぶ。


「行くぞォォォォォォォォ!!!!!!!!」


『グオオオオオオ!!!!!!!』


命とプライドを賭けた一戦が、始まった。




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