第49話 迷宮決死行
「ぐはっ!?…」
「アル!?」
肝臓辺りだろうか、炎の槍にてそこら辺に風穴を開けられる。だが、痛みに悶えてる暇はない。俺のダメージに悲鳴を上げたアイリスにアイコンタクトで気にするなと言い、速攻で治癒して魔法を繰り出す。
「【
後ろから迫りくる総勢500を超える女神像たちの、最前列にいる20体近くを全て焼き払う。その隙に、速度がそこまで速くないルルやルージュが城の奥へ奥へと進んでいく。
この逃げながらの戦闘が始まってから数十分、俺やアレンが時折数を減らしながら進んではいるが如何せん数が多すぎる。致命傷を何度も治していてはいずれ魔力が尽きる。
かといって、全力で抗戦しながらでないと全滅する。まさに、今の状況は決死行だ。命を賭けて、進んでいる。
「ぐっ…!?」
徐々に、徐々に。アイリスやアレンにも被弾が増えてくる。数千数万にも登る属性魔法の攻撃の数々は、威力もそうだが範囲と速度が速すぎる。
雷剣がアイリスの左腕を切断し、氷棘がアレンの右目を抉る。ルージュの全力回復魔法でなんとか回復して戦えてはいるが、集中力も切れてくる。このままだと、物量に押されて全滅する。
「アレン!!!!!」
「任せて!!【憤怒の氷】!!!」
俺がアレンの前に立ちふさがり、なんとか10秒間のチャージ時間を稼ぐ。チャージを終えたアレンは、神剣に宿した憤怒の氷を全開放した。
「っは…勘弁してくれよ…」
命からがらと言うべきか、アレンの憤怒の氷の範囲攻撃にて500体全ての動きを一時的に停止させなんとか巨大な広間へと逃げこむ。だがそこには、中層で戦った
もう、出し惜しみをしている暇はない。俺は亜空間収納から、自身の奥義の一つである巨大なパワードスーツ『魔導体』を取り出し装着した。
「速攻で片付けるッ!!!」
大気が揺れるほどの速度で駆け、黒刀で天死神の全身を細切れにする。だが、これだけじゃ奴は死なない。2秒もすれば再生して攻撃してくる。
だが、その2秒が有れば充分だ。
「【生命拒絶の砲撃】」
細切れにさせ地面へ落下する天死神に放たれる灰黒の砲撃、それは天死神を虚空へと押しつぶした。
『【命奪の鎌】』
「遅えよッッ!!!!」
瞬間、振り抜かれる2体の鎌。魔導体未使用時ならば反応できない一撃、だがこの鎧を身に纏った今ならば容易に回避し、その刃を閃かせることができる。
「墜ちろ」
俺に向けて放たれる巨大斬撃を回避し、城の壁に斬撃のあとが走る。その時にはもう、2体の天死神を細切れにし地面へと落下させていた。
天死神の落下、それを見逃すまいと目をギラつかせたアレンはその神剣に憤怒の氷を付与し切り抜いた。
「【氷蓮瀑勝】」
前方の全ての空間ごと2体の天死神を完全に氷結させたアレン。空中で停止した天死神、奴等に向けられたのは拒絶の砲撃だ。
いつの間に空を駆けていたルルは、その両手を氷結された天死神に向ける。そして放つ灰黒の砲撃で、天死神は愚かな叫び声を上げて虚空へと押し潰された。
「っはぁ…っはぁ…っはぁ…!」
「ここ、やばいね…!」
「少しここで休憩しよう。魔力も体力も、ちょっと限界だ。」
天使神を排除したことで、ようやく得られたセーフティーエリア。安全を確保できたと思った瞬間、全員どっと疲れが押し寄せてきて床にヘタれ込んでしまった。
(想像以上の危険度、というか原作よりも数が違いすぎるだろ。迷宮暴走の時に入るのは失敗だったか?でも、迷宮暴走を止めないと外にいるだろう
迷宮暴走を止めるにはダンジョンボスを倒す必要がある。となると、俺たちがどれだけ早くダンジョンボスを倒せるかで地上の被害規模は変わってくるだろう。
そういう話になると、ルルは一刻でも早く攻略したいと言うだろう。だが、ここで少しでも休憩は取らなければすぐ近くまでやってきたボス戦で敗北することになる。
「アル、こんな状況でおかしいけど、なんだか凄く楽しくなってきたよ。」
「まぁこんだけの危機的状況は初めてだからな。英雄の血ってやつが騒いでるんじゃないか?」
「っあはは!なにそれ、僕はそんな戦闘狂じゃないって!」
この状況で楽しくなってるなら紛れもなく戦闘狂なのでご安心ください。俺は戦闘狂じゃなくて、レベル上げに快楽を覚えるタイプなので違います。
「ルルも大丈夫か?お前のレベルじゃ大分キツイ相手ばっかだけど。」
「大丈夫よ、私の能力がかなり重要だってのはわかってる。だから、魔力を極力温存してるのよ。」
汗をダラダラと流し、肩で息をするほど消耗しているルル。俺はそっとそんなルルに近寄り、治癒魔法でせめてもの回復を施した。
「ありがと、アルフレッドは魔力大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。まだ20億くらいは残ってる。」
「相変わらず化け物ね…なにを食べたらそんな魔力量になるの?」
「愛情たっぷりの兄様作オムライスさ。」
俺がふざけて答えると、ルルは少しだけ笑い治癒魔法の気持ちよさに身を委ねる。今だけは、この安息を続けよう。
∇∇∇
「そろそろ、行くぞ。」
30分ほど休憩した俺たちは、その疲労や消耗を隠さずに立ち上がる。たかだか30分程度の休息で疲労が回復し切るわけがない。だが、それでも向かわなければ地上が手遅れになる可能性がある。
巨城は20階ほど存在し、俺たちはその19階層に今いる。そして、19階層もかなりの速度で進み中ボスである天死神三体を討伐した。
となると、残るはダンジョンボスのみ。俺はその緊張感を露わにしながらもセーフティーエリアを出て、歩き出した。
「モンスターが、いない…?」
「これだけ静かだと、逆に怖いね。」
セーフティーエリアを出てから数分、モンスターたちの襲撃に一切会っていない。先程まで、嵐の如く速度と量で襲ってきていたことを考えると、驚くほど静かだ。
俺たちはそのチャンスを逃さず、先ほどよりも更に速いスピードで城を駆ける。相変わらず異様なほどモンスターの気配はなく、サクサクと進んでいく。
最前列で走るアレン。その足が、とある一室に入った瞬間止まる。顔面は蒼白で、彼にしては珍しい恐怖を露わにしている。
刹那、竜牙が閃く。
「がはっ…!?」
「アレン!!??」
ただ一人だけ広間に足を踏み入れていたアレン、その左腕が巨大な【顎牙】によって噛みちぎられた。
そこからの行動は素早く、大ダメージを負ったアレンの前に立ちふさがるルル。同時にルージュによって治癒魔法が掛けられるが、アレンの腕は再生しない。
そして振りかかる巨大な爪。アレンにトドメを刺すべく振り落とされた爪撃は、ルルの拒絶結界にて阻まれる。
「ッ…『ダンジョンボス』のくせに、ボス部屋から出てくんじゃねえよ…!!」
『グオオオオオオ!!!!!』
広間の中央で殺意をむき出しにするのは、機械じみた銀色の鱗を持つ20メートル超えの竜。その顎は、アレンの左腕を噛み砕き咀嚼した。
◆◆◆
ダンジョンボス【
◆◆◆
原作にて、最強アルフレッド君を唯一殺しかけたモンスター。その威風とアレンの左腕を容易く噛み千切る攻撃力から確実にレベル120。最後の最後、アイリスとはダンジョンボスだけという状況で現れた竜に苛立ちを隠せない。
そして、広間の奥にあるのは結界で閉ざされたボス部屋への入り口。コイツを倒さなければ、入るのは不可能と言わんばかりだ。
「やってやるよッ…!!」
半分ヤケクソ、半分興奮。目の前に立ちふさがった強敵を見て、俺のボスを倒さなきゃという理性よりコイツと早く戦いたいという本能が勝った。
アレンの腕は再生しない。傷口が、なにやらほわほわと燃える白い炎で遮られていて、そのせいで再生が妨害されているようだ。
『グオオオオオオ!!!!!!』
「行くぞォォォッッッ!!!!!!」
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