第48話 絶望に射す一筋の光
気味が悪いほど静かで、もう何年も人が住んでいないと分かる廃墟じみた城。その大きさはもはや城ではなく、一つの街と言える規模。だが、中には熾天死を筆頭としたS級上位の力を持つモンスターで溢れかえっている。
「天獄下層、【獄楽の巨城】。」
俺が小さく呟いた瞬間、開かれる視界。そこは薄暗い城のロビーで、周囲には瓦礫やら廃棄された家具などがあった。
上層や中層とは、入った瞬間から全くナニカが違う空間。こうして城にいるだけで、本能が逃げろと告げるくらいには濃密な死の気配を感じる。こりゃ、中々面白くなってきた。
「ッフハ!!なんだよおい、本気で殺す気みたいだなァ?」
「アル、あんまり興奮しないで。舐めてかかると死んじゃうよ。」
「わぁってるっての。」
城のロビーから動こうとした瞬間、奥の部屋から現れる目から血涙を流し、背中から2対の黒翼を生やす女神像。その文字通り血眼の瞳と目があった瞬間、大質量の雷撃が飛んできた。
雷撃の数は20発、一発ごとに一家破壊するほどの威力を持っているが、アレンが前に出てきて神剣の飛刃で斬り伏せる。どうやら、あの女神像然り熾天死はかなり邪悪みたいで、正義の心によるバフが凄まじいようだ。
「こりゃ、ほんとに死んじまうかもな?」
『『『『『『……………』』』』』』
俺たちの前に立ち塞がった女神像、その数なんと25。S級上位の化け物が25体、しかもしっかりと連携を取ってきやがる。こんなの、原作の天獄よりも遥かに高い難易度だ、
(やはり、
「っぶねぇな!?」
「アル!!合わせて!!」
なんてことを考えた瞬間、さっきまで俺の立っていた場所に落雷と炎柱が降り注ぐ。危機一髪で転移魔法で後方に回避したが、同時に飛び出したのはアイリスだった。
「ハァァァァ!!!!」
おふざけ無しの本気の剣撃、宝剣にルージュの手によって付与された神聖属性を灯し女神像へと斬りかかる。
だが、女神像はその全身を鎖のようなもので覆いアイリスの剣を絡め取る。同時に、アイリスを貫くように放たれる落雷。
「やらせねぇよ」
降り注ぐ落雷は空中を駆けた俺の二刀による斬撃で霧散させる。落雷を放ったであろう2体の女神像に向け、俺は魔法斬撃を打つ。
「【
二刀に纏わせる聖級の獄炎。炎の飛刃となって飛来した斬撃は凄まじい温度と破壊力を持って2体の女神像を燃やし尽くす。
『『『……………』』』
しかしこんなのでは止まらない。5体の女神像が動きを見せるとこのロビー中の足元全てを覆うような巨大な魔法陣が出現、俺は咄嗟にアイリスを抱き寄せ自分とアイリスを、黒刀で吸収した生命力による結界を起動し身を守る。
瞬間、魔法陣から放たれる巨大な炎柱。先程俺が放った爆炎斬撃にも勝る熱量を伴う馬鹿げた攻撃は、俺の結界を少し通り抜けアイリスと俺の足を少し火傷させる。
「アレン!!いけッ!!!」
炎柱が消えた瞬間、僅かに奴等に生まれる僅かな隙。その瞬間に俺は魔法を発動し、初手の奴等の雷撃を軽く凌駕する質量と威力の電撃を放ち、女神像たちの行動を停止させる。
地面をすさまじい威力で蹴り抜き、音速を突破したアレン。その身には憤怒の炎と氷、両方を纏っていて正義の心も発動している。まさに全力のアレンが、その神剣を振り抜く。
アレンが神剣を振り抜いた瞬間、憤怒の炎と氷が同時に解き放たれ大爆発を引き起こす。城はありえないほど頑丈なようで、ロビーは壊れなかったが今ので10体以上の女神像が死んだ。
「畳みかけろッ!!!」
その隙を逃さず、一気に激しい攻撃を行う。俺は聖級の炎魔法と氷魔法、雷魔法と風魔法を纏めて二刀に収束し放つ大技【
再び引き起こる大爆発、死海を埋め尽くす煙の中確認できた死体は6つ。そんなところに駆け込んだのは身体能力的にはアレンにも俺にも劣るルル。
「【生命拒絶の砲撃】」
城の壁を蹴り、空中に飛び出すルル。その翳した両手から放たれるのは、灰黒の巨大レーザービーム。女神像たちのいる場所を丸ごと覆うほどの巨大ビームが放たれる。
しかし、当たり前に最期の抵抗と言わんばかりに残った女神像7体は魔力を一点に集中し後衛のルージュに向けて巨大な氷槍を発射する。
「ルージュへの攻撃は、僕が通さない。」
そこに立ち塞がるアレン。全身から溢れんばかりの青白の光を放つ英雄は、氷槍を苦しみながらも神剣で真正面から切り砕いてみせた。
最期の抵抗は虚しく終わり、発射される灰黒の巨大ビーム。再生も蘇生も、防御も回避も拒絶され死を受け入れるしかない砲撃を喰らった残った女神像は、全て虚空へと押しつぶされた。
S級上位モンスター、熾天死。その25体同時襲撃を退けた。これは帰って帝国に報告すれば帝王からお褒めの言葉をもらうレベルだ。
だが、そんなものを喜べる暇はなかった。なぜなら、最初に奴らが出てきた奥の部屋の入口。そこから50体は軽く超える女神像の姿が見えたからだ。
「ッ…はは。マジかよ…?」
「アル、作戦変更じゃないか?」
「あぁ。こんな奴らを一々相手してたらキリがない。全力で無視してボス部屋に向かうぞ!」
元々の作戦では、熾天死を倒してレベル上げをしつつボス部屋に行く予定だった。だが、想像以上に奴等が強いのと、数が多すぎるため断念。
俺たちを全力で殺しにかかる、一体で街壊滅級の化け物数百体の群れ。それ相手に逃げ回りボス部屋へとたどり着く絶望の逃走劇が幕を開けた。
∇∇∇ 地上Side ∇∇∇
「ぐっ…!?」
『動きが鈍っているぞ、老兵。出血が酷いんじゃないか?』
一方、地上では厳しい戦いが続いていた。身に漆黒を纏ってから驚異的な強さと厄介さを手に入れた男によって、レイリアの攻撃は全て無効化され、肩口や脇腹などを切り裂かれている。
「でもなァ、ここで引くわけにゃいかねえんだわ。こちとら、最強やらせてもらってるんでね。」
『技量やステータスは凄まじいが、単調すぎる貴様が最強とは聞いて呆れる。良いだろう、貴様のその最大の長所すら潰してやろう。』
「やなこった!!!!!」
何か危険を感じ取ったレイリアは、全身に負った決して浅くない傷をものともせず地面を蹴り抜き、駆ける。今度は先程までと違い、ただの魔力を収束させたただけの攻撃ではなく、奴の漆黒に同調させる魔力を付与した斧撃だ。
だが、その戦斧が振り上げられた瞬間。レイリアの体はとてつもないほどに重たくなる。まるで、全身に超重量の鉛をつけ、強力な重力を掛けられているような重たさだ。
そんな状態での攻撃は、なんの意味もない。漆黒すら使わず刀で受けられ、その腹部を大きく切り裂かれ吹き飛ばされてしまう。
『ユニークスキル【絶望】の2つ目の能力、自分が負ったダメージが多いほど相手にデバフを与える。我の漆黒に与えたダメージ、全てをデバフへと変換しお主に与えた。もはや、動ける体ではあるまい。』
「ペラペラ良く喋るなぁテメェ…」
ただでさえ、圧倒的に不利な状況で打開策を探していたというのにこの仕打ち。もはや動くことすらままならない体では、逆転は不可能。レイリアは、心の何処かで諦めを考えた。
―――――その時、救いの手ではない。むしろ最悪の一手が引き起こされる。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!』
「なにがっ…!?」
グラトリアス西方面、その戦地に大地を揺らすほどの咆哮と冒険者数名の悲鳴が響き渡る。その爆音に、レイリアも男も思わず視線をそちらへ向ける。
そこにいたのは、巨大な怪物。全長は20メートルを超え、体高は10メートルを超える。聖白の鱗と蒼い瞳とは裏腹に、強烈な殺意をむき出しにする白い龍。
A級ダンジョン5つと、天獄の迷宮暴走によって発生した莫大な魔力の集合体によって生み出された
『グオオオオオオ!!!!!』
「うわぁぁぁっ!!!???」
「て、撤退だァァァ!!!!下がれぇぇ!!」
まさに阿鼻叫喚。歴戦の冒険者たちが、いとも容易く蹂躙されていく。白竜の爪撃が、牙の噛み砕きが、白炎のブレスが、何千もの命を刈り取っていく。
『これで終いだな、老兵。貴様も、我が殺す。』
「っはは、懐かしいじゃねえか…」
デバフにより体は殆ど動かない。周りは阿鼻叫喚の地獄絵図、そんな絶体絶命の状況で、レイリアは笑ってみせた。
だが、そんな時にレイリアの頭の中には走馬灯と言うには重すぎる記憶が想起された。
∇∇∇
『…………』
580年前、レイリアがまだ20歳になったばかりで、魔大陸VS中央大陸の戦争が全盛期の時期。そんな戦争の時代で、レイリアは貴族の戦争部下として暮らしていた。
生まれつき、馬鹿げた怪力と武術の才能があったレイリアは平民として生まれたが、その領地の領主『グランツヴェルト=アルレッキーノ』に力を見込まれ、戦争に使う部下として雇われた。
グランツヴェルトは貴族にしては、とても甘く優しい男で戦争に使うは部下であるレイリアを本当の家族のように扱かった。暖かい飯を与え、深い愛情をレイリアが両親を失った12歳の頃から注ぎ育ててきた。
『グランツヴェルト、様…』
570年前、レイリアが30歳になった頃グランツヴェルトは王帝魔族リオン=リベリオスによって殺された。それも、レイリアは守ろうと必死に戦ったが相手にもならず目の前で主君を殺された。幸い、リオンも力を使い果たしたようでレイリアを殺しはしなかったが、その日レイリアは絶対的な敗北と主君を守れなかった無念に包まれた。
だが、それでも、人は生きていかなければならない。レイリアはハイヒューマンという寿命がない種族に進化し、ひたすらに鍛錬を続けた。次は守れるように、次は勝てるように。
∇∇∇
そんな忌まわしくも、レイリアの原点となった敗北の夜を思い出す。レイリアはそれを思い出すだけで、重たすぎる体がとても軽くなったように感じ、その瞳を戦意でギラつかせ膝をついたまま男を睨みつけた。
その時、白竜カナリアの方向から冒険者たちの声が聞こえてきた。
「動ける戦士は前で耐久!!魔法使いは力を合わせて奴に攻撃を!!レイリアさんの邪魔をさせんじゃねえ!!!!」
「あの人が生きてれば勝てる!!なんとしてでもこの竜を抑え込め!!!!」
長年共に戦い、酒を飲み、同じ釜の飯を食らって来た冒険者たち。そんな奴等が、言ったのだ。レイリアがいれば勝てる。彼に邪魔が入らなければ、俺たちの勝ちだ!と。
それを聞いて立ち上がらないほど、レイリアは廃れていなかった。
「次は…勝てるように…」
『なんだ?貴様?なぜ、立ち上がれる?』
ゆっくりと立ち上がったレイリア、その呟く声は誰にも聞こえないほどの声量だ。
「次は…守れるように…」
レイリア=ベルディヴェンデの原点、己の大切なものを守れるように強くなる。立ちはだかる敵を打倒する力を手に入れる。そんな原点が、レイリアの頭の中で想起する。
レベル100に到達してから300年、そこから積もり積もった
◆◆◆
ユニークスキル【守護者】を習得しました
◆◆◆
「お前を、倒す…!」
レイリアの着ていた鎧全てが弾け跳び、新たな深紅の鎧が身に纏われ全身から大気を揺らすほど強い赫灼のオーラが溢れ出る。その体にはもう、凄まじい重力感も重たさも存在せず、ただ暴力的な力を今か今かと放つのを待ち望んでいる。
『土壇場での覚醒…良いだろう、我に勝ったのなら、貴様は真の英雄となる。』
覚悟を決めたような顔をした男は、その刀を正式な上段に構えた。
「原初の英雄、レイリア=ベルディヴェンデ。」
『ユニークモンスター【絶望のアスタロト】。』
互いに名乗りを上げ、戦意を轟々と燃やす。そこに邪念は存在していなかった。
「いざ尋常に…」
「『勝負ッッッ!!!!!』」
歴史に語り継がれる、世紀の一戦が開幕した。
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