第47話 迷宮暴走
「アレン!!下がれ!!」
「ぐっ…!?」
『キシシシシ!!どうした人間共よ?我を倒さねば、この下には行けぬぞ?』
中層ボス、【
(物理攻撃も魔法攻撃もほぼ通らない。無限に近い再生能力もあるし、隠を使われれば確実に一撃を食らってしまう。)
中々に厄介なモンスターだ。ルージュはフルパワーの結界にて奇襲攻撃を無効化しているが、前衛の俺はそうはいかない。アレンが下がったことにより、前線が俺だけになったのも不味い。
『それにしても、お主等は悪運が強いのう?今頃、地上はモンスターで溢れておるというのに。』
「っは!迷宮暴走だろ?知ってんだよそんくらい。」
『それもそうじゃが、我が言っているのは別のものだぞ?【絶望】の足音がしたからな。もう地上は血で塗れているぞ?』
初めて聞く、絶望の単語。だがそんなことを気にしている場合ではない、今はコイツを倒す方法を考えねば。
(物理も魔法もほぼ無意味、通常の攻撃では倒せない。中々キツイな…)
「まぁ、攻め手は緩めない!!」
これまでの戦闘でコツコツ吸収した魔力を存分に使い、爆発的に加速。天死神の動体視力じゃ捉えきれないほどの速度で駆けた俺は、奴の骨の体をバラバラに切り刻む。
『我に斬撃は通用せぬわ、小僧。』
「ぐっ!?…」
「アル!?」
切り刻まれた途端、一瞬で組み直され再生してしまう。それどころか、アクロバットな挙動を持って翻弄する俺の斬撃を一発だけ回避し、背中を大鎌で切り裂きやがった。
(いってえなぁこのガイコツ野郎。)
「【憤怒の炎:怪魔の剣】」
右腕を治癒したアレンの奇襲、憤怒の炎による斬撃で大鎌を握る右腕骨と首を切断される天死神。流石に大罪スキルで斬られたことで再生は遅れているが、それでも徐々に骨が治っていってしまう。
「凍れ、【
その一瞬の再生の隙を見逃さず、聖級の氷魔法を発動。奴の体ごとボス部屋の半分を凍らせるが2秒もすれば再生しきり氷も全て鎌の一撃にて破壊されてしまう。
(これまで戦ったモンスターとは格が違う…ただの魔法や剣技じゃ殺せない…)
そこで俺の頭は閃いた。本来ならば実現不可能な合せ技だが、俺の魔眼ならばいける。拒絶と深淵を一つに合わせるなど、術式の反発で爆発するが、魔眼によって術式を組み替えれば大丈夫だ。
「ルル!俺の槍に拒絶を付与しろ!!」
「ッ!?分かったわ!」
一瞬戸惑ったが、ルルはすかさず駆け槍2変化しているアライブに拒絶の灰黒を付与する。それを上塗りするかのように、俺は深淵を凝縮していく。
『貴様らも、そろそろ殺してやろう。
――――――【命奪の鎌】』
天死神は空中にふわふわと浮きながら、その大鎌を振りかぶる。あそこから放たれる光速の巨大斬撃によって、先程アレンの右腕は切り飛ばされた。
だが、今度は違う。ルルの拒絶は王帝魔族のユニークスキルだ。そこらのモンスターの技よりはるかに強制力が強い。そんなものを付与した槍を、奴の鎌の一撃に合わせて全力で投擲した。
「【
『なに!?』
放たれた巨大斬撃と衝突する黒槍、灰黒のヴェールにて巨大斬撃は一瞬で霧散させられ、一切の障害物を失った深淵の槍は天死神の骸骨の頭部を爆散させた。
∇∇∇∇∇∇
「うおおおおお!!!!!」
「モンスター共を蹴散らせェェエ!!!」
「魔法使いもっとぶっ放せやァァ!!!!」
迷宮都市グラトリアスでは、300万のモンスターと冒険者たちの防衛戦が始まっていた。状況はまさに地獄としか言いようがなく、冒険者もモンスターも等しく大量の血を流していた。
特に被害が著しいのはなんと、驚くことに西門。歴戦の英雄レイリア=ベルディヴェンデがいてもなお、かの戦地ではすでに5万の死者が出ていた。
「ッハハ!!!!久し振りに活きが良い怪物だなァッ!!!!!」
『破壊の暴君、だが、その芸当だけでは、吾輩の剣は崩せまい。』
化け物じみた膂力で、真っ赤な戦斧を振り回すレイリア。彼の一挙手一投足によって竜巻が巻き起こり、周囲のモンスターは吹き飛び弾け飛ばされる。
だが、そんな彼と互角以上に渡り合っているモンスターがいた。見た目は2m程度の背丈を持つ男、黒髪黒目に、どこか怪しさを孕みありえないほど美しい顔を持っていた。その右手に握るのは、闇そのものと言って良い刀だ。
「テメェ、強えな?何者だァ?」
『今はまだ、名を告げる時ではない。真名を告げるのは、光が赴いた時のみ。』
戦斧に赤黒い光が凝縮され抜き放たれ、合わせて放たれる黒刀。衝突する化け物同士の刃で、巻き起こる衝撃波。周囲の土壌が捲れ上がり、凄まじい土煙が上がる。
(この強さ、並のモンスターじゃない。それに人語を解すのは長生きしたモンスターか、レベル100を突破した者のみ。となると、コイツの正体もなんとなく想像がつくな。)
「ッハハ!!俺が傷を受けるなんて、何年振りだァ?」
『傲慢の戦士、貴様の血など、全て流させてくれる。』
「ガハハ!!!!やれるものなら、やってみろッ!!!!」
拮抗していた鍔迫り合いを制したのはレイリア、化け物じみた怪力で男の刀を弾き返し、その腹部を大きく切り裂いた。
レイリア=ベルディヴェンデ、その強さの根源は圧倒的な基礎の積み重ねにある。数百年を生き戦った彼は、様々な基礎スキルがカンストするまでに使っている。
斧術の最上位スキル、英雄斧術を始めとし、身体強化の最上位スキル剛軀。自然再生の最上位スキル癒しの極みに、武器扱い向上の最上位スキル武芸の極みなどなど、様々なスキルをスキルレベルカンストに至るまで極めている。
故に強い、故に崩れない。男の馬鹿げた技量の刀術も、目にも止まらぬ剣閃も、レイリアに傷をつけつつも倒すには至らない。
『致し方あるまい。許せ、貴様との武芸のぶつかり合いに水を指すことを。』
「あァ?奥の手があんならさっさと使いやがれ、じゃねえと死んじまうぞ?」
いたずらっぽく笑い、男の頭めがけて戦斧を振り抜くレイリア。それが直撃すれば男の頭部は爆散するが、それは行われなかった。
「っふは、マジかよ。」
『死ね、暴君よ。』
男の頭部に衝突した戦斧、しかし衝突したのは頭部どころか、男の全身を覆う漆黒の鎧だった。まるで、最初から攻撃などしていなかったかのように、すべての運動エネルギーを奪われ動きを停止する戦斧にレイリアは驚きを隠せない。
しかし、そんなレイリアに叩き込まれたのは腹を大きく切り裂く一閃。先程から喰らっていた微々たる剣閃ではなく、致命的な一打になり得る斬撃にレイリアは思わず飛び退く。
(攻撃を無効化されたな?防御でもなく回避でもなく、ただ受けられた。どういうこった?)
「【金剛連斧】」
思考のループにハマれば敵の思う壺、そう判断したレイリアは英雄斧術の戦技による攻撃を発動。超広範囲の攻撃ではなく、一点集中の断撃が男に襲いかかる。
だが、男は漆黒で覆われた刀でそれを受けると一切のけぞらずにガードする。レイリアは再び違和感を覚えたが、すかさず攻め続ける。
10連撃、20連撃、30連撃。数秒の間に繰り出される破壊の連撃。だがその全てが、一刀による防御で簡単に防がれていく。確実に何かトリックがあるはず、レイリアはそれを突き止めるために攻撃し続けた。
その時は必然とやってきた。埒が明かないと考えたレイリアが、ついに自身がS級になった要因である技【
『【
「ぐはぁっ!?…」
レイリアの戦斧に、霊子崩壊の兆しが見えた瞬間。男の左手がレイリアの腹部に添えられとてつもない衝撃波を引き起こす。それは、余波だけで周囲を破壊し尽くすほどの威力で、レイリアは血とゲロを吐きながら空中に放り出された。
(いっつつ…なんだ…この威力は…?)
「なる、ほど…。防御してんじゃなくて、吸収してるってわけか。」
『脳筋ではないというわけか。正解だ。』
あの漆黒の正体は、衝撃や攻撃の吸収。そして溜め込んだエネルギーの変換。レイリアの攻撃で溜め込んだ衝撃を衝撃波として、全て一つにまとめて放ったということだ。
(コイツは…ヤバいかもな…)
今まで戦った中でも、別次元でヤバい相手にレイリアは笑みが止まらない。だが、同時にその顎から滴る冷や汗も止まらなかった。
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