第46話 中層の異変


「ここが、中層…」


「なんだか可笑しいな。」


コンドルケルベロスを撃破し、中層へと辿り着いた。だが、アレンの第一声はどこか不安と疑問に溢れていた。


あたりに広がるのは、禍々しさと不安感を孕んだ夜の雲上。上を見上げれば見える星々は黒く、地獄を彷彿とさせる光景だ。


(本来の中層はこの光景と真逆、神聖感に満ち溢れた星空のステージのはず。天獄に、一体何が起きている?)


「先に進もう。あまり、時間はなさそうだ。」


俺の判断により、攻略を続ける。だがこのステージにいるだけで、何故かとてつもない不安感を味わわされる。悪意に慣れているルルとアレンは平気そうな顔をしているが、ルージュとアイリスはキツそうだ。


数分の歩行を経ると、モンスターに遭遇。ここは中層のため、遭遇するのは20対規模の上級天死の群れのはず。だが、遭遇したのはぜんぜん違うモンスターだった。


「【ロストゴリラ】が8体、戦闘開始!」


現れたのは、三メートル以上の機械のような巨体を持つゴリラ。下層のレアモンスターとして出現するレベル100の大物が8体、まさに異常としか言いようがない。


だが、冷静に対処しなければならない。俺はロザリオを一本の槍へと変化させた。


「【深淵黒槍メルゼナ】」


『グオオオオオ!!!!!』


耳を劈く凄まじい咆哮と、俺が駆け出したのは同じタイミングだった。魔法による小細工は基本的に効かない。故に、八属性にもよる魔法で自身の強化を施し最前列のゴリラに向けて槍を振るった。


「かったいなお前ッ!!!」


『グオオオ!!!』


だが、このレベルのモンスターになると対応されてしまう。振るった槍は、たった一発のパンチによって防がれ弾き返される。そして気づいた時には、後ろからゴリラの拳撃が迫っていた。


「アル、余所見は禁物だよ。」


「助かったわ、アレン。こっからは、ちょっと本気でやんねえと不味いな。」


槍に変化させたアライブをロザリオへと戻し、代わりに握るのは黒煉紫獄。ユニークスキルも発動し、ここから30分俺の身体能力は百万の大台に上る。


八属性から十二属性に増やした魔法によるバフと、ルージュの天使の衣による身体能力魔力2倍化。


「蹂躙してやるよ、【魔帝飛刃】。」


『グオオオオオ!!!!』


二刀に手をかけ、魔力を収束。解き放った飛ぶ斬撃は先程槍で切り払っても傷一つつかなかったゴリラの首を二つ切り落とした。


それが戦闘開始の合図となり、三体のゴリラはアイリスとアレンに、一体はルルとルージュのもとに、残った2体は俺のところに来た。


『グオオオオオ!!!!』


「遅えよ間抜け、欠伸が出るな?」


地面を蹴り抜き拳を振るうゴリラを、まるで未来予知をしたかのように容易く避け、その首を切り飛ばす。魔眼がある限り、俺に真正面から攻撃を当てるのは不可能だと思え。


流石に一体が突っ込んであっけなく死んだのを見たからか、もう一体は策なしに突っ込んではこなかった。ゴリラにしては知能を使ったのか、魔力を収束させ、俺と同じ様に拳の魔力拳を飛ばしてきた。


「練習不足だゴリラ。青ダヌキの空気砲のほうがまだ強えわ。」


しかし、初めて打ったのだろう。スピードも威力も中途半端、容易く切り落として地面を蹴り抜く。次の瞬間には、ゴリラの首は宙を舞っていた。


(吸収魔力は千万程度、生命力は三千万といったところか。終焉ルナルークを撃つには心許ないな。)


この様子だと中層のボスも確実に異変が起きているだろう。となると、必殺技の終焉ルナルークを使うかもしれない。十分に魔力と生命力は貯めておかなきゃな。


「よしよし、皆大分慣れてきたな。」


「もちろん、あのゴリラくらいなら100体来ても大丈夫だよ。」


アレンとアイリス、ルージュとルルも呆気なく勝利したようだ。ルルは相変わらずの無傷、やっぱり彼女を仲間にしてよかった。


「このままボスまで行こう。なに、俺たちならどんな奴が相手でも勝てるさ。」


リーダーとして、確固たる自信を持ってそう言い放つ。士気は最高潮、この異変だらけの中層をさっさと突破してメインである下層の攻略に行こうじゃないか。




∇∇∇∇∇∇




「レイリアさん!!緊急です!!」


「どうしたガルス、なにかあったか?」


「A級ダンジョン5つが、同時に迷宮暴走パニッシュを起こしました…!!!」


居酒屋で寛いでいた老年の冒険者に、若い男の冒険者が慌てて事情を伝える。大声だったから他の冒険者にも聞こえていたようで、その報告はグラトリアス中を揺らした。


報告を受けたのは、人類が階級制度を作ってから最初にS級となった原初の英雄。人の枠を突破し600年の時を生きる最強の戦士たる、レイリア=ベルディヴェンデ。グラトリアス最強の名を持つ彼は、グラトリアスの危機となる5つ同時迷宮暴走の報告を聞いて即刻立ち上がった。


「A級5つ、詳しく教えろ。」


「宵闇、暁、龍王、光、藍乱の5つです。襲ってくるモンスターの予想数は、300万体…!」

 

「そりゃヤベェな。今すぐギルドの放送を起動しろ、全冒険者を動員して防衛すっぞ。」


「はい!」


凄まじい非常事態だと言うのに、落ち着いて対処するレイリア。部下であるガルスが迅速に放送機能を発動し、レイリアにマイクの魔道具を受け渡した。


『グラトリアスの冒険者共、良く聞けェ!!今俺たちの街に、300万のモンスターが襲い掛かってくる!!


全冒険者に告ぐ、今すぐ武器を取れェ!!今こそ、我等がこの街で鍛え上げてきた刃を、モンスター共に突き立ててやる時だ!!準備が出来た者から、東西南北の門を守るように散れェ!!』


グラトリアスに現在する冒険者の数、およそ百万。その中でもB級以上は半分以下となり、A級5つの迷宮暴走はかなり苦しい。なぜなら、300万のモンスターの殆どがB級以上であり、暴走のボス、S級が5体出現するからだ。


「おっしゃやってやんぞ!!」


「B級がなんぼのもんじゃい!!所詮はモンスターだ!!」


「レイリアさんにいいとこ見せて、稽古つけてもらうぞ!!!」


「「「「「「おー!!!!!!」」」」」」


だが、それでも冒険者たちはやる気満々だ。彼等にも冒険者としての誇りがあり、この街に対する思い入れがある。荒くれ共の集まりとは思えないほどの絆と連携で、僅か15分程度で4つの門に均等に散り集まった。


「うぉ〜…ウジャウジャいんな…」


「レイリアさん、勝てそうですか?」


「誰に聞いてやがる。当たり前だろ?」


レイリアの赴いた場所は、グラトリアス西門。最もS級ダンジョン天獄に近い門であることから、最も危険地帯になると予想しての采配である。


その予想は正しく、出現モンスターは軒並みA級。その大群の最前列には、S級モンスターであるバジリスクキングの姿があった。


モンスターたちの到着まで、残り10分。レイリアは放送のマイクを握り、少年のような笑みを浮かべてこう言った。


『野郎共ォォォ!!進めェェェッッッ!!!』


それが、開戦の合図だった。

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