第45話 上層
ルージュは弁当を作り、アレンは剣の手入れ。アイリスはポーションの確認をし、ルルは天獄のおさらい。
各自が忙しなく動く、10日目の朝。グラトリアスには不穏な空気が流れていて、どこか違和感のようなものが街全体に漂う不気味な朝だった。
「よし、準備完了だな。」
俺の言葉に、全員が肯定する。準備完了、それすなわち天獄へのダンジョンアタックが可能になったということ、アレンの顔が正義の勇者から闘争を愛する戦士のものへと変わる。
「そんじゃあ、出発進行だ!!」
小さな掛け声と共に、迷宮都市グラトリアスを出発した。
∇∇∇
「ッハハ、どうなっちまってんだ?こりゃ?」
「分かんないよ!でも、これはヤバいんじゃない?」
グラトリアスを出発してから15分ほど、俺たちは異常を感じ取ってしまった。
本来ならば、このグラトリアス辺域にはB級程度のモンスターしか出現しない。だが、先程からAランク相当のブルーリザードマンやSランク相当のリビングアーマーナイトに遭遇している。
遭遇したA級以上のモンスター、その数50以上。だがこれらは天獄に出るモンスターではなく、周辺の他のダンジョンに出るモンスターたちだ。
すなわち、天獄の異変に連動して他のダンジョンで[
「まぁでも、天獄ではまだ迷宮暴走が起きていない。それなら、さっさと天獄を攻略して他の異変を止めるのが最適だろうな。」
「私も賛成、いちいち他のダンジョン全部の暴走を止めるのは骨が折れる。」
「それに、もう着いたようだしね。」
俺の言葉にルルが賛同する。そして、それと同時に最前列を歩いていた俺とアレンの足が止まる。
目の前にあるのは、まさに天国への入り口と言わんばかりの神聖さと白さを持つ扉。だが、その中は文字通りの地獄。
世界最難関ダンジョン、天獄の入り口に到着した。
「さてさて、上層であまり時間は取っていられない。俺の頭に入っているマッピングでサクサク進むぞ。」
「「「「おー!!」」」」
俺の頭の中には、原作でアルフレッドが天獄を攻略した記憶が入っている。故に次の階層への道筋やトラップの位置などは大体把握している。
それはともかく、士気はMax。各々が興奮を露わにしながら武器を握る。俺は少しの笑みを浮かべたあと、扉を開けた。
∇∇∇
足元は、雲。周りに広がるのは、晴天の青空。まさに人々が思い描く天国と呼ぶべき場所に、5人の勇士が降り立った。
「フォーメーションA、移動!」
ここからはもう、危険地帯。事前に決めていた俺とアイリスの前線、アレンとルルが中衛、ルージュが後衛のフォーメーションを組む。そして今まで見たダンジョンの中でも特に異質な光景を進む。
(神々しさと禍々しさ、両方を持つ気配。)
「敵が来るぞ!!」
慎重に進んでいた俺たちの下へ現れたのは、50体もの群れを組んでいる天使の輪をつけた機械人形。大きさは1メートル程度、下級天死だ。
『『『『『『『ギギギ…!!!』』』』』』』
奴等が攻撃態勢に入った瞬間、ルージュの超バフが発動し魔力身体能力共に底上げされる。同時に天死共の両腕にマシンガンが出現し、そのトリガーが引かれる。
「[拒絶王壁]」
中衛にいたルルが飛び出し、能力を発動。灰黒の巨大シールドが前方に出現し、放たれた数千の弾丸を全て拒絶し弾き落とす。
マシンガンのリロード、一瞬だけ弾丸が止んだのを待っていたかのようにアイリスが飛び出す。その宝剣には、燃え盛るような爆炎が灯っていた。
「[
獅子の如く駆け、虎の如く素早く剣を振り抜いたアイリス。すると、馬鹿げた大きさの炎斬撃が時速にして300キロ程度で飛び、天死全部を焼き尽くす。
(連携は順調、ルルが防御してアイリスが攻撃の流れは使えるな。)
「よし、このまま進もう。」
上層の広さは大体、グラトリアスの半分程度でそこまで広くない。その代わりモンスターの密度は凄まじいが、1時間も有れば突破できるだろう。
俺たちは、天死の落とす魔石を拾い亜空間へ仕舞うと歩き出した。
∇∇∇
「[
翳した右手から放たれる広範囲魔法、100を超える群れを成した天死たちを一斉に焼き尽くしても止まらず、周囲の霧のような雲も焼き払う。
「まだまだッ!!」
同時に駆け出したアイリスの剣が、天死たちの合間を縫うように走り抜けその首をボトボトと落としていく。アレンもその超速の剣技を持って天死共を蹴散らしていた。
そして、時折後衛に飛んでくる銃弾はルルの鉄壁の拒絶にてガード。なんなら、拒絶の反転で威力倍増にして反射して爆撃している。
「上層最奥、ついに来たな。」
「階層主だっけ?どんと来い!」
攻略開始から30分しか経過していないのに、もう上層を全て探索しボス部屋へとたどり着いてしまった。目の前に立ちふさがる一際濃い霧の結界、この奥に上層の階層主がいる。
みんなも心の準備は完了している。ルージュのバフも掛け直し、念の為ポーションで少しだけ魔力を回復。各々武器を持ち、俺は首から掛けている神器、アライブを取り外し右手で握り、霧の結界へと入った。
「【
ロザリオの形をしていた神器は、俺の両手に黒い籠手として宿る。闇属性の極致、深淵属性にて作られるその籠手は、殴った物に防御を許さない致死の一撃を与える。
霧の中は、外から見るより随分晴れ渡っていて視界は良好。真ん中には、天死と似た機械のような肌を持つ三ツ首の狼がいた。大きさは5m強、体高4メートル。
「【コンドルケルベロス】、討伐開始!!」
『グオオオオオ!!!!!』
先手を取ったケルベロス、3つの首のうち一つの口を大きく開けると、凄まじい炎を覗かせブレスを放った。
「【拒絶結界】」
「スイッチ!!」
すかさず前に出て拒絶結界を発動するルル、5秒ほど続いたブレスが途切れた瞬間、俺は走り出した。
「小手調べと行こうじゃねえか!!!」
『グオオッッ!!!!』
雷魔法を応用した超速軌道にてケルベロスとの距離をかき消し、その胴体向けて拳を解き放つ。合わせて放たれた右フックと衝突すると、奴の右腕は肘から先が爆散した。
(深淵籠手の能力で、物理の打ち合いなら負けることはない。だが、ブレスの威力は想像以上に高い。真正面から喰らえばワンちゃん即死だな。)
「僕が行く」
小さく、しかし力強い声音が響くとケルベロスの背後にアレンがいた。その身からは、正義の象徴たる銀光が放たれていて、光は神剣へと収束し放たれる。
「【
凄まじい光を伴って放たれる英雄の一閃、ケルベロスは反応することすら許されず、ただその背中を大きく切り裂かれた。
「私もやるよ!!」
アレンの攻撃でよろめきながらも、二つの首から氷と雷のブレスを放ったケルベロス。しかし、真正面に立ったアイリスが放った煌級の剣技によって相殺される。そうして生まれた僅かな隙を、ルルは見逃さなかった。
ブレスの相殺、僅かに生まれる油断。その足元にルルはいた。
「【生命拒絶の一打】」
大きなケルベロスの足元にいたルル、普段の穏やかな彼女からは想像もできないほどドス黒い殺意に満ち溢れた瞳がケルベロスを睨みつける。同時に放たれた右手の掌打は、そこまで速くないにも関わらず、ケルベロスは回避も防御もできずに首の一つに直撃した。
バチン!!!という音と共に、掌打を受けた首の一つが根元から爆散する。回避と防御、そして生きることを拒絶する一撃。それは、レベル差とステータス差を覆し首の一つを破壊した。
すかさずアレンとアイリスが駆け、ケルベロスの足を全て切り落とす。その時にはもう、俺はケルベロスの残る二つの首の前に両手を翳し宙に留まっていた。
「良くやった!!みんな!!」
ケルベロスはもはや動けない。そして俺の籠手に収束されていく、爆発的な闇の塊。死そのものと言っていい深淵は、世界で最も多い魔力によって砲撃と成す。
「【
『グオオオオオ!!!???……』
両手から放たれる極太の砲撃、漆黒の命を刈り取る一撃は、二つの首どころかケルベロスな上半身全てを爆散させてしまった。
これが、神器アライブの力。俺の何百時間にもよる研究によって、進化し続ける武器。黒煉紫獄の陰に隠れているが、籠手以外にも変化できるチート武器だ。
まぁ、それはともかく。
「上層階層主、コンドルケルベロス討伐完了。」
推奨討伐レベル100の怪物、三属性のブレスを操る三ツ首の獣。討伐完了だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます