第43話 拒絶の王者


「そんな感じで、新たに仲間となるルルちゃんです。みんな、仲良くしてあげてね!!」


満面の笑み、作った声。ふざけすぎている俺と英雄アレンの姿を見てびくびくと怯えるルルの温度差を見て三人は宿屋の一室でドン引きしていた。


「うん、うん。大体経緯とかメリットとかそういうのは分かったよ?でも…流石に王帝魔族はスケールが大きすぎない?」


「さっすがアルだよね!1000年も前に死んだ王帝魔王の子孫を仲間にするなんて!」


「普通に国家転覆罪で死刑にされるレベルのやらかしだわ…」


反応は三者三様だが、ひとまず否定的ではないようで良かった。ルルも、みんなの温かい雰囲気を感じて少しだけ警戒を解いたようだし。


「で、アル。ルルちゃんはどんなことができるの?というか強いの?」


「よくぞ聞いてくれたなルージュ。そこんとこは俺もよく知らん!だから、本人に説明してもらおう!」


「………」


やめてくれ、ルージュ。その異常者を見る目で俺のことを見ないでくれ。ふざけたことしてるとルルがまた怯えちゃうだろ?


「えっ、と〜…口で説明するのは難しいんだけど…」


「なるほど、複雑なタイプの能力だな。じゃあ一旦外に出よう。」


王帝魔族、しかも80年以上生きてる。先程ステータスを見せてもらったがレベルが30程度なのに魔力が二千万を突破しているという化け物っぷりだったからな。能力も期待できる。


てなわけで、宿屋の庭へと出る。この宿屋クソ高いおかげで広い庭があるから、結界を張って防音と中を見えなくさせれば訓練場として使えるのだよ。


「ねぇアル、もしルルが期待以下の強さだったらどうするの?天獄に連れてったら普通に死んじゃうでしょ?」


「まぁそれはそうだな。そしたら鍛えるしかないだろ。せっかく、王帝魔族なんて爆弾を手に入れたんだからな。」


「アルって結構、外道なとこあるよね…」


アレンの少し引いた顔を見なかったことにしておいて、庭を囲うように防音と防壁、そして、中を見えなくさせる結界を張る。周囲は薄緑色の結界に包まれる。


結界の中で、フードを外してくれたルルは少し不安そうにしながら懐から何かを取り出した。


「指輪…か?」


「うん。私の側近で、小さい頃からのお目付け役の人の形見。」


ルルはキッパリと答えながら、その若干紫掛かった指輪を自身の人差し指に嵌める。そして、驚くべきことを口にした。


「私のユニークスキルを、見せれば良いのよね?」


「そうだね。」

 

「じゃあ、アルフレッド。私に全力で攻撃してみて。」


「は!?」


いきなりとんでもないことを言われ、俺は思わず驚いてしまう。そんなことしたら、普通に殺してしまうんだが?


「良いから早く。私の能力を見せるなら、これが一番早いの。」


「ま、まぁ、それなら…」


俺は困惑しながらも、少しルルから離れて右手をかざす。そして、右手に魔力が集約し魔眼に光が灯った瞬間、魔法が発動する。


「[命奪雷撃グラヴィトン]」


紫色の電撃がルルへと放たれる。空を裂き、音を置き去りにした紫電は無抵抗のルルへと突き刺さり、視界を土煙で染め上げる。


かなり高等な術式で組んである聖級魔法、攻撃範囲は狭いが単体攻撃としては俺の手札の中でも最強格の威力を持つ魔法だ。こんなのをルルが受ければ、いや、ルルでなくとも即死だ。


「ハハッ、結構、殺す気で撃ったんだけどな…?」


土煙が晴れると、そこには前方を灰色のオーラ壁で守る無傷のルルがいた。殺すつもりで放った紫電はオーラ壁により完全に霧散させられていて、その様相からは先程までの穏やかな雰囲気は一切感じられない。むしろ、殺意や憎悪に満ち溢れた魔族の姿だ。


「これが私のユニークスキル[拒絶]。攻撃も、事象も、全てを拒絶し排除する。ずっと嫌なことから逃げてきた私に、ぴったりの能力よ。」


びくびくした様子とは全く違う、気高さと禍々しさに満ち溢れた威風堂々の姿で言い切る。思わず、苦笑いがでてしまった。


(ダンジョンで足手纏いになるだと?ふざけんのも大概にってレベルだわ。こんなの、全力で殺しに行っても勝てるかどうか…)


アレンも、ルージュも、アイリスも、そして俺も。この場にいる全員が感じ取った。コイツは使えると、そして、敵に回した時、自分たちがどうなるかを。


一瞬の沈黙、言葉を言い淀む俺を抑えて口を開いたのはアレンだった。


「凄いや、ルル?だっけ。」


「そうよ、私はルル。それで英雄様のお眼鏡には叶ったのかしら?」


「魔族に英雄様なんて言われると思わなかったよ。お眼鏡なんて大したものじゃないけど、合格?かな。正直強すぎて驚いちゃった。」


「なら良かった。アルフレッドの約束に応えられなかったらどうしようかと思っちゃった。」


ホッとしたような顔を浮かべるルルに、アレンは微笑を浮かべる。こう見ると、ルルはかなりの美人だ。サラサラの長い黒髪と魔族とは思えないほど優しい薄緑色の瞳。身長も女性にしては大きい方な160超え。


かくして、三人はルルの実力を思い知ることになった。そして翌日、俺とアレン、アイリス、ルージュ。そしてルルの5人で冒険者ギルドにてパーティー[銀紫の道]を結成するのだった。






















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