第41話 到着
「アレン!そっち行ったぞ!!」
「任せて!!」
殺意の塊となった機械人形、上級天死五体がアレンの方へと一斉に走り出す。その背からは六本の腕が伸びていて、腕の一本一本に魔剣クラスの剣が握られていて、時速にして300キロを超える速度でアレンに振り落とす。
「[
アレンに向けて放たれた無数の斬撃は、アレンの中段から解き放った巨大な斬撃によって掻き消される。それどころか、最前列にいた上級天死二体は体を真っ二つにされる。
「[憤怒の炎]」
アレンの全身に纏われるドス黒い炎、それは触手のような形に変形してアレンから伸び残った上級天死三体の体を縛り上げ、燃やす。
『ギギギ!!!!????……』
耳にガンガンと響くような叫び声を上げ、塵となっていく天死。10秒もすると、その生命の影は無くなった。
「間違いなく異常事態だな。あと数分で到着するっていうのに、街の近くにまで上級天死が出てきてる。」
「戦ってる感じだと、一般人しかいない村とかが襲われたらすぐ壊滅だもんね。天獄?ってところに何が起きてるのかな?」
「さぁな?でも、モンスターが溢れ出てきているのは確かだろ。」
「こっちにはアルがいるから楽勝だよ〜!なんてったって、あの副将軍から一本取ってるからね〜!!」
上級天死の死体から魔石を抜き取り、グラトリアスに向けて歩く。その途中で、アイリスが俺と兄様の本気の模擬戦の話を出してきた。
「え?アルはラインハルトさんに勝ったの?」
「20本くらいやって一回だけな。兄様速すぎて黒煉紫獄があっても斬撃が当たんないし、瞬間加速を使われたらほぼ確実に攻撃を食らう。今の魔眼の性能じゃ捉えきれない。」
そう、兄様との模擬戦20連続で一回だけ兄様に勝てたのだ。魔眼ですら捉えきれないスピードに一発で紫宝の蘇生スキルを使わされる火力、雷装のせいで超広範囲の斬撃を繰り出しても自動でガードされる。
勝ったのは、兄様の攻撃を魔眼の蓄積学習能力でなんとか防ぎ、そのままゼロ距離でルナルークを叩き込んだ試合だ。それでも、肉塊にならずに腹部を消し飛ばしただけだったけど。
「まぁ兄様の話は置いておいて、着いたぞ。」
俺は動く足を止め、目の前に佇む巨大な黒い壁と門を見上げる。それは、かつての池袋で見たサンシャインビルにも匹敵する巨大すぎる門だった。
門には警備兵がいたが、貴族の知名度を使い難なく通る。そして中にはいって広がっていたのは、The・迷宮都市と言わんばかりの冒険者に溢れた街だった。
「迷宮都市グラトリアス、到着だ。」
魔物を狩り、迷宮に踏み入り、殺し殺されの常である冒険者。その聖地であり、世界最難関。ダンジョン[天獄]に最も近い都市。
∇∇∇
「ということで、今後の計画を立てよう。」
「はいはーい!明日天獄いこー!」
「アイリスに賛成したいところだけど、準備は必要だから一週間後とかで良いんじゃないかな?」
半径30キロ程度の円形で作られているグラトリアスの中心部は、出店や武具屋、宿屋などであふれる商店街である。俺たちはそんな中心部の一角にある宿屋の一室を借りて会議を始めた。
「えーなんで!私達なら上層くらいならすぐに踏破できるよ!」
「上層は、ね。中層からは普通の出現モンスターが上級天死になり、稀に[熾天死]も出現するようになる。その対策は練らなきゃならない。」
天獄は三階層で成るダンジョン。一階層ごとがグラトリアスと同等のサイズを誇る巨大な階層であり、一階層は上層、二階層は中層、三階層は下層と名付けられている。
上層には下級中級の天死が出現し、中層には上級天死とその更に上である[熾天死]が出現する。熾天死のレベルは95、四人でしっかり連携を取ればなんとかなる相手だが、逆に言えば準備をしなければ勝てない相手だ。
「下層へ踏み込むのは中層の熾天死を安定して倒せるようになってからにする。まずは食料やポーションの調達と、情報収集だ。」
「私は情報収集に行くわ。アレンとアイリスじゃ会話の駆け引きは下手くそだし。」
「なんか酷くない!?しょうがないから、私は食料とポーションの調達をしてくるけど!!」
「僕は何をすれば良い?アル?」
「アレンは俺についてきてくれ。この街の散策をする。」
「分かった!」
スムーズに役割が決まっていく中で、俺の頭の中は一つの不安で埋め尽くされていた。それは道中で感じた違和感である。
(現在はストーリー開始から四年前、原作の過去回想でも語られることの少なかった年だから情報が少ない。だが、天獄からモンスターが溢れ出すなど知らない。)
天獄とは、
俺が確かめるのは、今天獄に何が起きているのか、だ。場合にもよるが、撤退も考えて置かなければならない。
「みんな。自分の役割はわかったか?」
こくこくと頷く三人を見て、会議を終了させる。俺は考え事をするために一旦宿屋の外に出て、街を練り歩くことにした。
(冷えるな…)
カルテイン王国は中央大陸の中でも北に位置する国、この時期はもう寒い。俺は体を震わせながら、夜の暗く人気のない街中を歩く。
(撤退…撤退、か…)
万が一、天獄に迷宮暴走[パニッシュ]が起これば帝国から帰還命令が出されるかもしれない。ライゼルか兄様が他の任務で救援に行けないとなれば俺たちが駆り出されるかもだが、その可能性は低いだろう。
正直、撤退は嫌だ。俺はこの世界を存分に楽しむために強くなった。せっかくのダンジョン攻略を台無しにされてたまるかってもんだ。
「アイリスたちも、同じ考えだよな…」
アイリスならば、俺の死に場所が自分の死に場所だと言って遠慮なくついてくるだろう。アレンも、友達だからとか綺麗事言って一緒に戦うし、ルージュもアレンのために戦うだろう。
なのに、俺の気分は晴れない。このモヤモヤとした感情はなんなんだろうか。
そんな俺の浮かない顔に、冬の冷たい風がサラリと触れる。その時、後ろから声がした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」
甲高い叫び声、事件性のある悲鳴にロジウラから感じる強大な魔力。間違いなく、女性が襲われている。
俺の行動は速かった。声が聞こえた瞬間に相棒の二刀を取り出しユニークスキル[黒煉紫獄]と魔傑を発動、身体能力を40万まで引き上げ1秒と掛からずに声の在り処へと辿り着く。
「ちょいと失礼、その腕貰うぜ?」
「なんだてめぇっ!?ぐぁぁっ!!??」
路地裏に広がっていた光景は、三人程度の白い仮面を着けた中年の男が、一人の黒髪の女性に襲い掛かる様子だった。俺は即座に地面を蹴り抜き、深く腰を落とした体勢から二刀を同時に引き抜き両腕を斬り落とした。
「テメェ!?なにしやがる!!」
「正義のヒーロー気取りのクソガキがァ!!」
両腕を切り落とされた男は地面に蹲るが、もう二人は懐からナイフを取り出し襲いかかってきた。その2人に向けて、俺が両腕を翳すと男たちはものすごい勢いで地面に縫い付けられた。
「[強重力]」
「う、うごけ、ねぇ…っ!?…」
重力魔法による拘束で、奴等の骨はミシミシと音を鳴らす。俺はその間に、襲われていた女性に着ていた黒いコートを羽織らせた。
「さて、このまま殺されるか逃げるか、選べよ。」
「ひ、ひぃぃぃ!!!????」
重力魔法を解除すると同時に、殺気を直接ぶつける。すると男二人は両腕を切り落とされた男を担いで走って逃げた。
「逃げるくらいなら最初からやんなよ…」
俺は小さく呟きながら、二刀を亜空間収納へと仕舞う。そして、身長にして160ちょいくらいの女性に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?お姉さん?」
「え、えぇ…ありが、と…」
その瞬間、お姉さんの被っていたフードが俺の放っていた魔力による威圧により吹き飛ばされる。するとお姉さんの頭から、とある物が見えた。
「それは…?」
「―――ッッ!!??」
人形のように、というより整いすぎている顔立ちと淡い薄緑色の瞳。そしてなにより、その頭部からは二本の黒い角が生えていた。
黒い角には禍々しい紫色の文様のようなものが浮かんでおり、それはまさに[王帝魔族]の象徴たる[マジックホーン]だ。
「魔族…?」
「っ!!!!」
俺が呟くと、女性は外れたフードを急いで被り直しながら俺へ飛びついてきた。そして、俺の口を急いで塞いだ。
「ちょっと来て!!」
俺の手を思い切り引っ張った女性は、凄まじい腕力で俺のことを引きずり路地裏から飛び出し走り出した。
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