第40話 旅路


穏やかな風が吹く草原に、見た目ではなく性能を拘った馬車がガタガタと音を立てて駆ける。その中では、四人の子供たちが談笑していた。


「だーかーらー!私の勝ちだって!」


「いやいや、僕の勝ちだよ?」


馬車の中心で繰り広げられるトランプ大戦争に勝利したのは、ニタニタとした笑みを浮かべたアレン。コイツずる賢すぎん?ほんとに主人公か貴様。


「にしても遠くない?もう三日くらい経ったよ?」


「あと二日は掛かるんじゃないかな。カルテイン王国迷宮都市グラトリアスは、帝都からかなり遠いし。」


バスター帝国から出発して三日、四人で楽しく馬車の旅をしながら進んできたが流石に飽きてきた。道中に強いモンスターもいなければ、危険地帯があるわけでもない。


普通に暇だ。アイリスは馬車の上に乗って剣の素振りを始めてしまった。


「俺達が遊べるくらいのモンスターってなると、レベル80は必要だもんな…」


俺のそんな呟きが馬車の地面へと落ちる。それに対してアレンが賛同しようと口を開いたその瞬間、大気が揺れる。


「なんだ!?」


馬車の外から放たれる強烈な[威圧]。それにより馬車は大きく揺れ、俺の背筋から冷や汗を流させる。


俺、アレン、ルージュの三人はすぐに馬車から飛び出て威圧の正体を探る。そして、馬車の前方には2メートルほどの人形、まるで女機械人形のような見た目で、頭に光輪を浮かべたモンスターが立っていた。


(早速お出ましかよ…早すぎねえか?)


「[上級天死]…レベル90の大物だ…」


『ギギギ…ガガ…』


世界最難関ダンジョン[天獄]に出現するモンスター、天死。その中でも上から3番目の力を持つ階級である上級天死がそこにいた。


普通ならばありえない。奴が迷宮から出てくることはないはず、並の冒険者がコイツに運悪く遭遇すれば秒で肉塊になってしまうだろう。


だが、俺の目は光っていた。


「アレン、行くぞ。」


「もちろん!」


アイリスは馬車の前で寝転がっているので戦闘に参加する気はなさそうだ。そして動いたのは俺とアレン。


迎撃、開始だ。


「プレゼントだ!受け取ってくれよ!!」


『ギギギ…』


俺は黒刀と紫刀を引き抜き上空に跳躍、二刀に約100万を超える魔力を込め飛刃として音速の斬撃を飛ばす。 


しかし、天死が選んだのは回避ではなく防御。その機械人形のような右腕を前方に翳すことで、薄緑色のシールドのようなものを展開し、500万魔力程度のシールドなら軽く切り飛ばす斬撃を防ぐ。


「[憤怒の氷]」


斬撃を防いだ天死の懐に忍び込むアレン。彼に向けて天死は目を光らせた瞬間、背中から6本の腕を生やしアレンを掴もうとするが、異次元の反射神経によりその六本腕の攻撃全てを回避し、本体から生えている右腕を掴み全身を凍らせた。


「[月刀二閃]」


ユニークスキル憤怒によって凍らせたことにより、奴は数秒動けない。俺は二刀を中段に構え深く腰を落とし、地面を蹴り割る威力で駆け抜けた。


光にも迫る速度による二閃、バツ印状に胴体を切られた天死は機械人形には似合わない真っ赤な血を大量に吹き出す。


「[放出リジェスト]ッッ!!!!!」


天死から吸い取った魔力600万と4割ほどの生命力を二刀に収束。さらに闇を司る神器のアライブを起動し、身体能力を爆発的に向上させる。


正義の心発動中のアレンにも勝る馬鹿げた身体能力を発揮した俺の体は、街一つを容易に壊す上級天死の理解が追いつかない速度で動き、その首と腰を真っ二つに斬り落とした。


(魔傑の黒煉紫獄、通称ルークちゃんはやっぱりイカレ性能だな。魔法を対して使わずともこれだけの戦闘力だ。)


「ねーアル!!僕ほとんど何もしてないんだけど!!」


「あっごめんアレン、でもアレンが動きを止めてくれたから気持ちよく切り倒せたっていうか…」


「次でてきたら僕がやるからね!!」


上級天死を倒したのに、何一つ緊張感のないアレンに怒られつつ、俺は二刀の血を振り払う。そして魔力探知の範囲を5キロから10キロに拡大しながら、馬車へと戻った。




∇∇∇     ???視点     ∇∇∇




『天獄の迷宮暴走。どう責任を取るつもりだ?【アルタイル】?』


『知らないよ。僕は迷宮に直接関与してないし、人類が滅ぼうが知ったことじゃない。それに【デネブ】、君は人類に肩入れしすぎだよ。』


星空のそのまた更に上。かつての神々の庭園となっていた空の川にて、二人の男が対峙する。一人は生意気そうな雰囲気を隠しもしない小柄な男、もう一人は龍の翼と尻尾を人の体から生やす男だ。


『天獄は今の人類がどうにかできる代物じゃない。少なくとも、魔族の[管理]をしっかりしていれば起きなかった問題だぞ。』


『そんなの僕の仕事じゃない。僕の仕事はあくまで魔の者の成長だ。人間なんかのために迷宮に赴くとか断じて御免だね。』


『仕事以前に、我々は【星神】だ。人だけでなく、世界を守る責務がある。そんなこともわからないのか?』


『人類が弱い最大の原因である君がそれを言うんだ?へぇ〜?』


『貴様…喧嘩を売っているのか…?』


生意気そうな男、アルタイルと呼ばれた者はデネブという男をひたすらに煽る。デネブも怒り心頭といった様子で、今にも喧嘩が起こりそうな雰囲気だ。


『まぁでも、大丈夫でしょ。』


『何を根拠に言っている?天獄に挑み続けているレイリア=ベルディヴェンデだろうが迷宮暴走が起きれば死ぬぞ?』


『ソイツじゃない。天獄には、【鐘星】のお気に入りが向かってる。』


『なに?[ヴァンガード]か?』


『いや、違うね。』


『じゃあ、誰だ?』


アルタイルは嫌味な笑顔を浮かべ、デネブの瞳を見る。そのあとに空の川の下に広がる世界を目を細めながら見つめ、こう言った。


『【アルフレッド=シシリス】。リリスちゃんを倒した魔眼の子さ。』



 











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