第38話 飾られた聖戦の鎮魂歌
「助かりました、ライゼル大将軍。」
「そうだそうだ感謝しろ?」
「なんか癪になってきました。」
「冗談だ。死聖結界を破壊した時点でリリスは力のほぼすべてを失う、あそこまで追い詰めた時点でお前の勝ちみたいなもんだ。」
「そうですかね?」
「そうだよ。良くやった、相応の手柄を期待していていいぞ。」
虹色の斬撃がリリスの首を跳ねると、奴は動かなくなった。どうやら、死聖結界を破壊されると再生能力を失うっぽい。生命力を微塵も感じないから、死んだだろう。
『ぐきっ…グギギ…』
「ッ!!アルフレッド!!下がれッ!!」
その時、生命力を微塵も感じないリリスの死体から機械音のような声が響く。ライゼルは俺のことを後ろに蹴り飛ばし距離を取り、右手に翡翠の刀、左手に虹剣を構える。
(完全に殺したはず、一体何が…?)
『ウガガ…』
リリスの死体からなにやら魂のような黒いふわふわしたものが出てくる。その圧力はもうほぼ感じず、ただ虚しい呻き声だけ聞こえる。
「先手必勝、【
再び虹剣から出現する12本の虹帯、それを振り抜いたライゼルから超速の虹斬撃が放たれふわふわの魂に迫る。間違いなく、当たってしたえば完全に殺しきれるだろう。アレは恐らく、リリスを乗っ取っていたベルゼビュート本体である。
『それは駄目だ。』
「ッッッ!!!???」
放たれる虹斬撃は突如として現れた、謎の黒い剣が交差したような壁に阻まれる。それは紋様のように空中に残り、そこから一人の男が出てくる。
容姿は成人男性、髪が怒髪を突くような赤でゆらゆらと揺れている。目はキツく、その身から感じる圧は、ベルゼビュートと同格だ。
(見たこと無い…まだ、原作にすら出てきていないはずだ…)
「【一式 煉獄】ッッッ!!!!!」
『無駄な足掻きだな』
ライゼルは即座に戦闘態勢に移り、地を蹴り右手の翠嵐刀に獄炎を付与し斬りかかる。本来のライゼルよりかなり遅いが、それでも十分な速さと威力だ。
だが、その斬撃は奴が右手で握った片刃曲剣によって軽く受け止められる。小揺るぎ一つもしない圧倒的な余裕だ。
「アルフレッド、逃げろ。ハッキリ言ってコイツの相手はちょっとばかしキツイ。」
『その心配は要らん。此度の邂逅は貴様等と刃を交えるためではない。』
一瞬で理解させられた実力差に後退したライゼルは、小声で俺に告げる。だが、それに返答したのは奴だった。
「じゃあ、なんの為に来た?」
『この馬鹿を回収しに来た。人間を舐め腐り敗北した馬鹿をな。』
「お前…何者だ…?」
ベルゼビュートを回収という無視できないワードに、俺は問いかける。すると、奴はベルゼビュート本体であるふわふわ魂をその左手で握り込み、答えた。
『大罪悪魔、その一柱。憤怒のサタンだ。』
「サタン…!!??」
大罪悪魔、ベルゼビュートが暴食の大罪悪魔である。それと同様の、悪魔の最上位。原作ですら触れられていない設定に、驚きと不安を隠せない。
『死闘を繰り広げていた所悪いが、コイツにはまだ死んでもらうわけにはいかん。邪魔したな。』
それだけ告げると、サタンは再び黒い剣が交差したようなは文様に触れる。すると、ベルゼビュートの魂ごと、サタンは消え去ってしまった。
(今度こそ、終わった、のか…?)
激動の数分だった。ついにベルゼビュート(リリス)を倒したかと思えば、いきなりベルゼビュートと同格かそれ以上の強さを持つ悪魔が出てきて、なぜか敵対されてなくて、いきなり帰ってしまった。未だに状況を飲み込めない。
「取り敢えず、他の奴等も相手の特級戦力に勝ったみたいだ。敵軍はリリスと幹部の敗北によって撤退するだろう。」
「てことは…」
「あぁ、俺たちの勝ちだ。ひとまず戻るぞ。」
色々困惑してはいるが、原作に起こるイベントの中でもかなりの被害を帝国に及ぼす戦争に勝利した。これだけは、喜んでもいいだろう。
∇∇∇
勇歴1008年、八月二十日。イリス神聖国とバスター帝国の大規模な戦争【聖戦】はバスター帝国の勝利で幕を閉じた。
帝国軍は4万もの兵士を失い、レンルー平原の半分以上が氷に閉ざされ帝国の領土はかなり減ってしまった。だが、言ってしまえばあの大陸最強の国にこれだけの被害で勝利した。これは大陸中を震撼させた。
指導者と騎士団を全て失ったイリス神聖国は解体、一般市民たちは厳重な審査を受け、通過した者たちだけがバスター帝国で一般市民として暮らすことになった。この審査に通らない者はなんらかの異常、洗脳を受けているため労働力として使われることになる。
「ぐあっ…疲れたぁ…」
戦争終了後、進化した相棒の必殺技を使った影響で魔力切れを起こした俺はなんと一週間丸々寝ていた。起きてまだ二時間も経ってないが、俺が座っているベッドの傍には、疲れ果てて俺により掛かりながら眠っているアイリスの姿があった。
(結局、あのサタンってのがなんなのかはわからなかった。)
ベルゼビュートを倒した後に現れた悪魔。間違いなくベルゼビュートと同格かそれ以上の化け物が、手負いの俺たちを見過ごした。なんだか引っ掛かる。
「まぁ、気にしてもしょうがないか。」
俺は亜空間収納を開き、今回俺が勝てた最大の要因を取り出す。それは、二本の紫と黒の刀である。
◆◆◆
【中説:魔傑の
身体能力+100000
魔力+500000
装備することでユニークスキル【黒煉紫獄】を発動。【魔天】も変わらず使用可能、そして新たに【黒煉紫獄:終焉】という技を使用可能。
【魔刀 黒煉】
→再生不可、防御無効の【全切】の性質を持ち斬った相手の生命力を刀に蓄えられる。
【妖刀 紫獄】
→再生不可、防御無効の【全切】の性質を持ち斬った相手の魔力を刀に蓄えられる。
【黒煉紫獄】
→魔刀黒煉、妖刀紫獄を同時に使用する時だけ自動発動。1800秒間、身体能力を大幅に強化する。時間が尽きると30秒間、魔力を一切使うことができなくなる。30秒経つと再び自動発動。
【黒煉紫獄:
→黒煉と紫獄が刀に蓄えた魔力と生命力、そして自分自身の全魔力と死ぬ一歩手前まで生命力を全て合わせて絶対破壊の一撃を放つ。二刀の【全切】の効果を受け継いでおり、再生と防御は不可能。
◆◆◆
「やっぱぶっ壊れてるよな…」
結論から言おう。バッカじゃねえの?
身体能力+100000や魔力の増加はこの際置いておいて良い。だが魔刀と妖刀の攻撃は防御と再生が不可能はヤベェ。それに生命力と魔力を溜め込めるなら、魔力の補充も出来るし治癒魔法を使わなくとも傷を治せる。
そしてピーキーなのが黒煉紫獄。30分身体能力を大幅に強化、これはリリスの結界を破るときに確認したが、大体プラス30万はされていた。普通に頭おかしい。なのにクールタイムはたったの30秒、魔導体と組み合わせたらそりゃエライことなるわ。
最後に、正真正銘の必殺技【魔傑の黒煉紫獄】。これは二刀に生命力と魔力、なんも溜め込まずに俺の魔力全ブッパで撃つだけでリリスの死聖結界を破壊するほどの威力だ。使えば俺は戦闘不能になるが、それでも最後の切り札としては最高級の代物だろう。
「強くなりすぎだって、相棒…」
俺はあまりにもヤベェ変化を遂げた二刀を少しだけ手入れした後、亜空間収納へと戻す。すると、物音を聞いたのかアイリスが眠たそうにその瞳を開けた。
「んあっ…?」
「おはよ、アイリス。」
子供にしては整いすぎてるその顔をパチパチさせながら、俺の顔を二度見する。そして5秒ほどフリーズした瞬間、飛び起きた。
「アルぅぅぅ〜!!!!!!!!!」
「おう俺だよだからちょっと待て体が痛えんだやめてくれ!!」
ベッドに座る俺に、アイリスは泣きわめきながらその体を擦り付ける。あのすいません体バキバキでめっちゃ痛いのと色々と当たってるのでお控えください。
「生きてる、生きてる…!良かったぁぁ…!」
「ッ…、そうだよ、俺は生きてる。ちゃんと、帰ってきたぞ。」
俺はこの子と約束したのだ。絶対に死なないで、生きて帰ってくると。どうやら、約束はちゃんと守れたようだな。
「落ち着いた?」
「うん、取り乱しちゃった。ごめん。」
5分もすると、ようやく泣き止んだアイリスは少し恥ずかしいのか顔を赤くしながら病室?の端にある椅子に戻る。
「アイリス、俺が寝てる間に何があったか聞いても良いか?」
「全然良いよ、でも、何から話そうかな。」
「戦争の結果とかは知ってる。だから、アレンたちの事を教えてくれないか?」
「了解了解。私は見ての通り超元気、敵がそこまで強くなかったから重傷を負うこともなく勝ったよ。」
「それは…めっちゃ凄いな…」
そう簡単に言ってドヤ顔をするアイリス、褒めてほしそうだったので褒めるとすごく嬉しそうにした。可愛い。
それは置いといて、神聖虹騎士を相手に重傷を負うことなく勝ったってのは普通に凄い。相手にはシアンがいたはずなのに、尊敬だわ。
「次はアレンだけど、アレンはアルほどじゃないけど結構重傷だったよ。相手が凄く強かったみたいで、体内が氷漬けにされちゃったみたい。なんとか勝ったけど、戦いが終わってから気絶して、あと数時間処置が遅かったら危なかったって。」
「アレンの相手はたしか、セルクスか。」
「あとルージュは味方の軍全員にバフを掛けてたから魔力切れで気絶したね。アルより二日くらい早く目を覚ましたけど。」
今回の戦争で、何気にかなり役立っているルージュ。その身体能力を倍加するバフのおかげで敵の雑兵を帝国軍が圧倒できたのだ。
「まぁ、パパはいつも通り翠嵐で勝ったみたいだね。」
「時間操作だもんなぁ…そりゃ強いよな…」
「ズルいよね!」
ライゼルの奥義、翠嵐は時間操作とかいうチート能力の権現。でもリリス相手にアレを使っても寿命とかいう概念がないベルゼビュート本体には効かないので、ライゼルはベルゼビュートと戦っても勝てない。
「結果は私たちの大勝利、アルが目覚めたら褒賞を渡すために謁見を開くらしいよ。」
「褒賞…褒賞!!!」
そうだよ忘れてたよ、相棒が強くなりすぎて必要性を忘れてたけど今回の目的はそれじゃん。
「あれ!アルが目覚めてるじゃん!」
「よぉアレン、相変わらず元気だな。」
「これでも結構心配だったんだよ?」
病室の扉が開くと、そこにはアレンとルージュの姿があった。どうやら、俺の様子を見に来てくれたみたいだ。
「アルフレッド、お父様がアルが目覚めたら褒章授与式を開くそうよ。もう歩ける?」
「問題ないよ、今から?」
「当たり前よ、お父様はフットワークが軽いの。主に、ライゼルが急かすからだけど。」
想像がつきすぎて笑えてくる。ライゼルは帝王様相手でも怖気づかずに喋るもんなぁ…
ってことで、俺はなんとか立ち上がる。魔力切れのあとに普通に歩くのは結構しんどいので身体強化魔法を施し、みんなと一緒に病室をあとにした。
∇∇∇
周りには貴族たちが一人もいない。普通の謁見ならば、大貴族たちが取り囲んでいるのだが、今回の褒章授与式は急なのでしょうがないだろう。だが、こうして膝をつくのは俺とアイリス、そしてアレンとルージュにライゼルだ。
玉座に座るのは、オレンジ色のケモミミ娘。だがその威厳は変わらず、容易く口を開くことを許さない雰囲気の帝王がそこにいた。
「急な呼び出し、すまないな。シシリス。」
「いえいえとんでもない、して、此度のご要件は?」
帝王様相手にはちゃんと敬語を使える俺めっちゃ偉い。要件は知っているけど、こうやって話を切り出さなきゃスムーズに進まないので、仕方なしに帝王様に質問する。
「此度の呼び出しは、聖戦にて活躍したものに褒賞を与える為だ。それぞれ活躍に応じて、特級戦功、一級戦功、二級戦功を与える。」
帝王様がそう告げると、玉座の傍に一人の男が現れる。髭を蓄えたキツイ眼差しの御仁、現帝国宰相のスバルカル宰相だ。
「まずは特級戦功。イリス側最大戦力である悪魔の聖女を撃破した功績を持つ【魔眼の英雄】アルフレッド、帝国軍全体の力を底上げし、戦争全体に貢献した【焔の皇女】ルージュ、前へ出ろ。」
そうして呼び出されたのは、俺とルージュ。その言葉通りに俺たちは立ち上がり、玉座の方へと向かう。帝王様が両手を翳すと、玉座まで歩いた俺たちの前に、何個かの武器が出現した。
「特級戦功の者には、この【神器】の中から適合したものを一つ選んでもらう。その他にも、現金一億ゴールドを授ける。」
さり気なく、とんでもない金額も同時に授けられてしまった。だが俺の本命はこの神器たちである。一つしかくれないのはケチだが、まぁ俺は一つ好きな物を選べるので良いだろう。
「私は、これかしら?」
そうしてルージュが手に取ったのは、先端が赤く鋭く尖った杖槍。名前は天赫杖、装備者は装備するだけで煌級の炎魔法を使用できるようになり、炎を喰らうと回復し強化されるという神器。汎用性が高い代わりに、尖った性能はない安定性の神器だ。
残った神器は8個、ぶっちゃけ迷う。きっと狂光剣王はライゼルが使ったほうが絶対強いだろうからな…
「なら、これしか無いよな。」
俺が手に取ったのは、リリスが使っていた十字架のロザリオ。その名は
「良し、戻って良いぞ。」
宰相がそう言うと、俺とルージュは元の場所へと戻り再び膝をつく。
そこから数十分が経つと、全員が悩みに悩み神器を選択し終えた。一級戦功はアレンとライゼル、二級戦功はアイリスだった。
∇∇∇
突然の褒賞授与式が終わると、俺たちは帝城の俺の部屋で集まっていた。
「そういえば、僕たちの夏休みこの戦争で終わっちゃうね。」
「あ!そうじゃん!夏らしいことがプールしかできてないじゃん!」
「う〜ん、それは一理あるわね。」
ついこの前まで、戦争に参加してバチバチに殺し合ってた人たちとは思えないほのぼのとした会話を繰り広げる。でもたしかに、アレンが言う通り夏休みがそろそろ終わってしまう。
「あ、そういえば今日は27日だよね。」
「うん、そうだけど、どうしたのアル?」
「いや、確か明日って帝都でお祭りがあるんじゃないか?ほら、毎年やってる精霊祭。」
「………そうだ!!!!!」
アイリスは思い切り飛び跳ねて喜びだした。祭りだ祭りだ!夏らしいことすぎるじゃん!と大はしゃぎである。
精霊祭は軽く言ってしまえば、精霊という遥か昔に人類の助けになり魔物から身を守る術を教えてくれた恩人である精霊たちに感謝し、みんなではしゃごうぜっていう祭りだ。
「アル!!一緒にいこ!!」
「もちろん、一緒に行こう。」
「ふっふ〜ん、浴衣買わなくちゃ〜」
そんな会話をすると、アレンとルージュも、私たちもデートしない?良いよ、デートしよデート。みたいな話をしていた。うん、青春してるようでなによりだ。
久々の何気ない会話と、平和な祭りと日常の気配がどこか懐かしい気分になってしまった。これからも油断せず、強くならなきゃいけないけど、少しだけなら、この恋を楽しんでもいいのかなと、俺は思った。
聖戦と名がついたイリス神聖国との戦争は幕を閉じた。だが実際に戦ったのは悪魔であり、言うなれば飾られた聖戦。俺はせめて、悪魔に騙され続けた国民たちに、この祭りの音で、そして日常をもって、鎮魂歌を届けたい。
そう、思った。
―――――――――――――――――――――
第三章
『邪悪なる神の国と飾られた聖戦の鎮魂歌』
ついに終わりました〜。今回はどうだったかな?戦闘が結構メインになったけど、楽しんでくれたかな?そんな不安でいっぱいな作者ですが、今後とも宜しくお願いします!そして出来れば、第三章についてのコメントよろしくお願いします!
第四章『虚飾と嘘、集まる悪意の終結戦』
お楽しみに!
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