第37話 進化する相棒
まさしく絶体絶命。本気を出していないリリス相手にここまで傷を負わされ、何時間もこれを続けられたら魔力切れで死ぬ。
「ッハハ…でも、この程度じゃまだ死なねえ。」
『無駄な足掻きです。』
魔力ガードは容易く破られてしまった。だが、俺の武器は馬鹿げた魔力量と20種類を超える使用魔法、そしてこの魔眼だ。
「術式構築完了、【対神魔天鎧】。」
俺の全身に纏われるのは、白いオーラを塗り潰すよ半透明の紫の鎧。それは再び俺の体へと突き刺さろうとした黒刃や触手を全て、霧散させてしまった。
(魔眼で黒刃や触手の術式を解析、それに対抗するアンチ術式を構築し魔法を組み合わせて新魔法の発動。これでもう、奴の黒いオーラから構成される攻撃は効かない。)
『なるほど、その眼が特殊なのですね。』
「だろ?自慢の綺麗な眼なんだよ。やらねぇぞ?」
『必要ありませんよ。【
リリスのロザリオが白く光ると、黒刃と触手は全て消え去る。代わりに、リリスの背後に100を超える白の魔法陣が出現し魔力が収束する。
「【磁鉄石壁】」
そして放たれる極熱の白光線、同時に前方に展開する磁力三角破片の集合体。二つが凄まじい轟音を鳴らして衝突する。
『それは、見たことがあります。』
「うそだろっ!?!?…」
衝突した瞬間、衝撃波や熱波で俺の体は揺らぎ先程の傷に比べれば軽いが相当なダメージを食らう。
だが問題はそこじゃない。これだけなら磁力壁で防げたが、壁に衝突した瞬間、数多の白光線はくねくね折り曲がり壁を乗り越え俺の肉体を直接貫通した。
(とんでもない熱量…!?まずい、心臓まで熱が…!?)
「ッあぁぁ!!!」
『やりますね。』
4発、俺の体を貫通した白光線の数だ。それ以外は全て魔眼による魔法の超即発動で出した磁力壁でガードした。心臓を焼き尽くされる寸前だったが、なんとか耐えきった。
だが、次の瞬間俺の足元に現れるのは巨大な白の魔法陣。短距離転移で後方に転移すると、先程まで俺がいた場所に、地面から極太白光線が天井に向けて放たれていた。
『チェックメイトです』
「やばっ!?!?」
極太白光線を回避した瞬間、俺の四肢を拘束する神聖な白鎖。リリスの強みは、このあまりにも多彩過ぎる能力の数。先程の黒い攻撃は闇属性で、白光線は炎と光。そしてこの鎖は神聖属性だろう。
さらに言えば、コイツ相手に一秒の隙を与えるのはかなりまずい。
(まだそこまで時間は稼げてないが、仕方ないな!!)
その瞬間、放たれる大量の白光線。あまりの数と熱量でリリスの視界すら埋め尽くされる。確実に致命傷になり得る一撃だが、リリスは視界が戻った瞬間、表情を初めて歪めた。
『ッ…一体何を?』
「お前相手に、無策なわけないって話だよ。」
光が止むと、無傷の俺が現れる。その全身はまるでロボットのような厚い装甲に覆われていて、全長が3メートルを超える。鎧の色が紫のため完全に見た目は小型のガン○ムだ。
「お前と殺り合うって知ってから、コソコソ開発してたんだよ。」
その名は、魔導体。原作で出てくる最難関ダンジョンのボスが使用する龍鎧のパクリである。
だがその性能は充分過ぎるほどだ。魔力を通すことで駆動し、大量の魔力を吸う代わりに身体能力を約5倍、魔眼の効果すら強化する。なにより、防御力がとんでもなく上がる。耐熱耐寒共に最強、魔力に対する耐性もあり、アイツの闇属性と光属性、そして神聖属性を無効化することすら出来る。
「行くぜ?」
刹那。
俺の体が空を揺さぶった瞬間、右手の拳装甲が奴の腹部を思い切り貫き結界へと叩きつける。肋骨の大半はへし折っただろう。
さらに空へと飛翔、左手装甲を翳すと先程とは次元の違う威力を持った炎の剣が大量に出現する。それは、リリスが結界に叩きつけられ0.1秒も経たずに発射される。
『ぐっ!?』
「隙だらけだぞ」
だが、奴とてレベル120。すぐに復活しロザリオを掲げると、漆黒の壁が顕現し炎の剣撃を全て撃ち落とす。しかしそこは隙だらけ、闇属性を無効化する魔導体の拳にて壁を容易く破壊し、その綺麗な顔面にパンチをぶち込む。
『神器解放――――【
「俺と切り合うつもりかァッ!良いなァ!!」
よろめくリリスに蹴りを入れ吹き飛ばすと、傷を堪えながらも神器を展開される。右手に握られたのは燃え盛るような炎の剣、俺はそれを見て、白大剣を取り出した。
「行くぞ相棒ッ!!!!」
再び、光に追いつく速度で駆ける俺は上段から白大剣を振り落とす。それに見事に反応してみせたリリスの炎剣と白大剣が凄まじい轟音と熱量を伴いながら衝突。
結果は引き分け、白大剣にて押し切ろうとしたが炎剣から金色の炎が放たれたので急いで回避。俺の左小指が、少し溶かされていた。
(魔導体を溶解させるほどの熱…)
そこから始まるのは、全力のライゼルと模擬戦した時よりも激しく、素早い剣撃の嵐。白大剣を振り落とせば、炎剣を弾きリリスを切り裂く。
だが、中段から振り抜かれた炎剣から金炎の飛ぶ斬撃が放たれ、腹部分の装甲を切り裂かれる。そんな危機一髪の攻防を続ける。
(魔導体は強いが、魔力消費がヤバい。一般兵士が乗れば魔力枯渇で即死、俺でさえ起動させるのは30分が限界だ。)
このままではジリ貧で負ける。そう判断した俺は、言葉を使った。
「リリス!いや、『ベルゼビュート』!!聖女の体は使いやすいか!!」
『いったい、どういうことですか?』
「惚けんなよ大悪魔、5年前に聖女様の肉体を奪っておいて。」
悪魔の聖女リリス=フランデー。彼女は本来、今から5年前に死んでいる。イリス神聖国へと侵略してきた大悪魔ベルゼビュートの手によって惨たらしく殺害されたのだ。だが、彼女は生きている。それはなぜか?至って簡単な話である。
ベルゼビュートによって、その肉体を乗っ取られたのだ。聖女リリスは人間の中では最高峰の強さを持っていた。それこそ、単騎でベルゼビュートと殺り合えるほどに。だからこそ、ベルゼビュートは聖女の体と神器を目当てに、彼女の体を乗っ取った。
『どこで調べたか知らねえが、そこまで知ってんならしょうがねえなぁ?』
「やっと本性を出したな、ベルゼビュート。」
その時、リリスの口調は荒くなりその額から二本の黒く美しい角が生える。そして、リリスの両目が黒く染まる。
『ガキ、どこでそれを知った?部下にも言ってねえ。』
「さあな、でも、お前はここで死ぬから関係のないことだ。」
『大口叩くじゃねえか!!そうだなァ!お前を殺したら俺の部下をお前の体に宿そう!この時代の人間にしては使えそうだからなァ!!』
「殺してから言え。」
ここからが本番、先程までは聖女リリスの力だけだったが今からはベルゼビュート本人の能力も使ってくるだろう。
『食ってやるよッ!!【
「そうくるよなッッ!!!!」
ベルゼビュートがその背中から黒翼を生やし空へと飛翔し、その右手をこちらへ翳す。すると、凄まじいスピード、そして大きさの黒い渦が出現し俺へと迫る。
魔導体を全力駆動し結界内を走り回る。黒渦は追尾し迫ってくる。コイツは原作の第七章のボス、手札は全て知っている。
(だからこそ分かる、コイツに勝つのは今の俺じゃ無理だ!!)
「【黒雷之双剣】ッッッ!!!!」
逃げ回っていても勝てない。意を決して回避から攻撃に転じ奴との距離を一瞬でかき消す。そして両手に握られた黒い雷剣を振り抜いた。
『今、何かしたか?』
「うぜぇなこの野郎!!!」
だが、ベルゼビュートの背中から伸びる黒翼、その羽根が集まり壁を作った。それは、魔導体による500の連撃を受けてもびくともしない。
(ベルゼビュートは暴食の大悪魔!攻撃のエネルギーや威力、全てを喰われ無に帰される!)
ハッキリ言ってチートだ。原作でも、仲間を殺されて覚醒したアレンと他国の英雄が協力して倒すレベルの化け物。
「ふはっ!!やっべえな、こりゃ…」
絶えず笑みを浮かべるが、状況は最悪。攻撃から回避に転換するも、奴の黒翼から出現した羽根が集まり、一本の剣となり空を駆ける。それは回避に転じた俺の腹部装甲ごと腹をぶち抜いた。
そしてなによりヤバいのは、アイツの攻撃によってできた傷は回復できない。なんでかとかは知らん、そういう悪魔だと考えるしかできん。
(これ…ライゼルが到着するまで持つか…?)
俺の仕事は、コイツの撃破か足止め。最悪ライゼルや他の特級戦力が揃うまで生き延びれば、仕事はしていることになる。だが、あと数分すら耐えれるか怪しい。
『本気で潰してやるよッッ!!ガキ!!!』
こんな絶体絶命の状況のときに、ベルゼビュートが叫ぶと黒いオーラが収束していき全長10メートルは超える巨大な黒狼が出現する。アイツの攻撃も、食らってはいけない。
『ワオオオオオオオン!!!!!』
「クソがッッ!!!!」
そこから始まったのは、蹂躙。右手に白大剣、左手に地水火風の四属性で作った剣を握り羽根剣の攻撃や、超速で追ってくる黒渦、そして下手したらケルリアスより強そうな黒狼を捌き続ける。
だが、それは時間稼ぎにもならない。黒渦は飲み込まれれば一発アウトだし、羽根剣も地味に一撃が痛い。黒狼に関しては撃破より、のらりくらりと躱すほうが楽だ。それでも捌ききれずに、上段から振り落とした白大剣により羽根剣を破壊しても、後ろから黒狼の牙が迫り俺の背中を食いちぎる。
(これっ…まじでやばっ…!?)
そして迫る黒渦、もう5メートルもない距離に来てしまった黒渦に俺は絶望を隠しきれなくなる。
その時、俺の右手が揺れた。
「お前…まさか…」
振動の原因は白大剣、なにやらエネルギーを溜め込むような動きをして振動していて、黒紫の光を放っている。
『死ねェェェッッッ!!!!!』
黒狼の爪が振り落とされ、黒渦が俺を飲み込まんとする。しかしその時、俺はもう、白大剣を振り上げていた。
(そうか、お前。ようやくか。)
白大剣から、何やら思念のようなものが伝わってくる。その思念は、自分をここまで使い、育ててくれたことによる感謝と今死にかけていることに対しての謝罪。
そして、自分の【進化】の報告だ。
「ッらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
過去一の叫び声と同時に白大剣を振り落とす。すると黒紫のオーラは一気に収束し、馬鹿げた威圧と風圧を持って炸裂。爪を振り落とした黒狼も、飲み込まんとする黒渦も、全てが吹き飛ばされる。
『なっなにが!?!?何が起きて!?』
「ッハハ、勝ち筋、見えたわ。」
俺の両手に握られているのは、黒と紫、一本ずつの刀。それは凄まじい威圧感と、そして神々しさを放ちながら、大上段に振り上げられる。同時に、脳内で機械音声が響き渡る。
◆◆◆
○前奏:魔傑の荒剣はユニークウェポンへと進化しました。
◆◆◆
『まさかっっ!?!?』
「そのまさかだよッ!!!!」
慌てて黒渦を再び出現させ、俺へと向かわせるベルゼビュート。だが、それは一足遅かった。すでに黒刀には漆黒の、紫刀には深紫のオーラが極限まで収束され、振り落とされている。
「【黒煉紫獄:
振り落とされる二刀、解放の斬撃。空を裂き地を割るほどの範囲とサイズ、そして神をも断ち切る神々しさと邪悪さを持つ巨大な斬撃が放たれ、結界へと衝突する。
『ぁぁぁぁぁぁ!!!!???』
刹那。
パキッ、という音と共に黒結界へと罅が入る。そしてあがるベルゼビュートの叫び声、それが木霊した瞬間、黒結界全てにバキバキのヒビが入る。
「壊れろ」
――――――バキィィィィィン!!!!!!
激しい破壊音が鳴ると、黒結界は跡形もなく破壊され元のレンルー平原中央部へと戻る。そこに残っていたのは、絶望の表情を浮かべるベルゼビュートと、二刀を持つ俺だけだった。
『嘘だ、死聖結界が壊されるだと?そんなはずが…』
パニックに陥っているベルゼビュート、今斬撃を放てば、間違いなく殺せる。だが、俺は刀を振らなかった。否、振れなかった。
(もう、体動かねえ…)
恐らく、この進化した相棒をいきなり全力で使ったのが原因だ。魔導体を使用しながら、初めて必殺技を撃った。なら、この魔力切れも頷ける。
ぶっちゃけ、立っているのもキツイ。動いたらすぐ気絶して倒れるだろう。このまま諦めて、逃げてくれると助かるんだが…
『殺してやる、殺してやるッッ!!!!!』
「ッハ、冗談キツイぜ…」
ベルゼビュートは殺意の籠もった瞳で俺を睨みつけると右手を翳す。すると黒狼が出現し俺の元へと駆けてきた。
(こりゃ、死んだか…?)
20メートルほどの距離を一瞬でかき消した黒狼は、その爪を残酷なまでに振り落とす。だがその時、俺の魔眼は見た。俺と黒狼の間、そこに虹色の光を持つ剣士を。
「おいおい、死にかけじゃねえか。アルフレッド。」
「ッ…まったく、遅いですよ。」
そこにいるのは、両目を失った白髪の剣士。手に持つ虹色の帯を持つ剣で黒狼の爪を受け止めている。だが手に持っているのは、敵の騎士団長ラプラスが持つ神器だ。恐らく、勝利した後に適合しているのを確認して持ってきたのだろう。
「そんじゃ、終わらせっか。」
剣士が剣を振り抜くと、虹色の帯は12本全てが消失する。
刹那。
黒狼の四肢と首、そしてベルゼビュートの首が切り落とされた。そこに走っていたのは、魔眼ですら捉えるのが難しい速度の虹色の斬撃。間違いなく、
「よくここまで奴を追い詰めたな、アルフレッド。お手柄だぜ?」
「後で報酬を要求しますよ、『ライゼル』大将軍。」
振り返ったライゼルの顔は、いつもどおりのイタズラ心を浮かべた子どものような顔だった。
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