第36話 悪魔の聖女


「他人の体で随分、楽しくやってるみたいだな。」


『他人の体?それは一体、どういう意味なのでしょうか?』


「そりゃとぼけるよな、まぁ良い。」


レンルー平原中央部、周囲には巨大火山以外全てがなく、周りに兵士もいない。正真正銘、俺と悪魔の聖女リリス=フランデーだけの空間になっている。


(こうして前にすると、圧が気持ち悪いな。)


目の前に立つのは、身長にして160センチほどの真っ黒のシスター服を着た美しい女性。その片目は漆黒に染まり、右手に十字架のロザリオを握っている。


そのシスター、リリスから感じる圧はこれまで会ってきた強者たち全員が霞むほどのもの。それは当たり前だ、このリリス=フランデーはレベル上限100を突破したレベル120。超越者オーバーロードなのだから。


『ですが、貴方も私にとっては哀れな子羊。救いを授けます。』


「へぇ?お救いをくれる?人間じゃないお前が人間にねぇ?」


俺が軽く挑発すると、リリスはロザリオを両手で握り天に向けて掲げる。その瞳は閉じられていて、美貌も相まって本当に祈りを捧げているようだ。その時、ロザリオが黒く、不気味に光った。


『死という名の、救済を。』


「やっぱそうなるよなァッッ!!!!」


ロザリオが黒く光った瞬間、俺とリリスを囲み半径数百メートルの黒い球体結界が出現する。これこそ、リリス=フランデーが悪魔の聖女と呼ばれる技である。


『神器解放―――――【淵絶象天アライブ】』


十字架のロザリオが、黒く光る。


『【死聖結界フランデー】』


「それは、対策済みだッッッ!!!!」


その時、黒い結界に囚われた俺に向けて放たれる無限の黒線。数百、数千等という数を軽く通り越した黒い線がノータイムで俺に放たれる。


しかし同時に起こるのは、俺の右手についている腕輪の発動。それにより、俺の全身は神聖な白いオーラに守られる。白オーラに触れた黒線は全て、なんの抵抗もなく霧散する。


『穢れが少し足りとも無い、純白の神聖。なるほど、情報にあった神聖の巫女の仕業ですね?』


「大正解。穢れだらけのお前にはちょだとばかしキツイんじゃないかと思ってな。」


ルージュお手製の腕輪の効果は、発動から一日の間だけ神聖のオーラで対象者を守るというもの。1日経てば壊れるため、この決戦のためだけに作ったお手製品である。


しかし、その効果は絶大。今も俺に向けて虚空から出現し放たれ続ける数兆の黒線たちを見事に霧散させ続けている。


この結界が発動されたなら、奴が解除するか奴を殺すまで出ることはできない。加えて、この掠っただけで即死させられる黒線の物量。これだけで、過去にコイツに襲われた帝国軍5万人は壊滅させられた。


『なれば、直に叩くしかありませんね。』


「上等ッッッ!!!!」


相変わらず、気持ち悪いほど慈愛に満ちた声音で喋るリリスは、この黒すぎる結界内に見合わない真っ白な片手槍を出現させる。間違いなくアレも神器だろう。


『神器解放―――――【純聖戦乙女ジャンヌ・ダルク】』


「【四聖魔纏フォースアルマ】」


奴の槍が光り輝いた瞬間、その穂先は俺の心臓へ刺さる寸前になっていた。しかし同時に抜き放たれる白大剣によりその穂先はガード。俺の全身と白大剣には紫色のオーラが纏われる。


(おっっっも!!あんな華奢な体から馬鹿げた威力出しやがるッッ!!!)


『【聖炎ヴェスタ】』


「見えてんだよッ!!」


繰り返される白大剣と槍のぶつかり合い。三回ほど打ち合うと、奴の槍に鈍い銀色の炎が纏われ俺の心臓を目掛けて先程よりも速い速度で放たれる。


だが、その術の発動は魔眼で予見できている。突きが放たれる前にすでに回避行動を取っており、白大剣に纏われた重力の極限体、ブラックホール斬撃を奴の首目掛けて解き放つ。


『【獄炎ヴァスタ】』


「ブラックホールを質量で捻じ伏せるとかイカれ過ぎじゃねえかァッ!?」


首目掛けて解き放った致死の斬撃は、異次元の速度で戻った槍に明るくも暗い炎が纏われ、その槍と白大剣が交差される。その時、本来ならば全てを食い尽くすブラックホールが、あまりの熱量と質量を持つ炎により、逆に喰い過ぎで破壊されてしまった。


『まだ救いを受けれないなんて、とても哀れな子羊です。』


「そりゃどうもっ…!」


ブラックホールを破壊された白大剣は、槍の超速連撃によって弾かれそのまま脇腹を貫かれる。なんとか内臓は避けたが、炎によって想像を絶する痛みが襲ってくる。なんとか短距離転移を発動し、やつから距離を取る。


(しかしやっぱ強いな…少しでも攻撃に立ち回られたら防御間に合わねえぞこりゃ…)


「ッハハ、上等だよ。元から実力差なんてわかって来てんだ。」


『救いを、受け入れなさい。』


その時、槍から銀炎が噴出しそのまま収束されていく。瞬き一瞬、気づいた時には俺の目の前に奴は移動していてその致死の突きが心臓目掛けて放たれていた。


「【超電磁砲レールガン】ッッッ!!!!」


槍の穂先が俺の左胸に触れた瞬間、前方に解き放たれる超磁力の収束砲。電撃も加わった超威力の砲撃は、リリスへ直撃した。


「おいおい、やっぱ人間辞めてるだけあるじゃねえか。」


『驚きました。あなたを侮るのは、少々危険なようですね。』


煙が晴れると、そこには衣服を少し焦がした程度のリリスが立っていた。地面が融解しているところから、銀炎を噴出してガードしたのだろう。あの炎なら、超電磁砲も防げる。


だが、あの一発はリリスを警戒させるに十分な一発だったようだ。奴の表情が少しだけ、曇ったのが見える。


『名前を、聞いてもよろしいですか?』


「アルフレッドだ、お前をぶっ殺す男の名前だからよぉく覚えとけ。」


『ではアルフレッド君、あなたには、本来の私でお相手させていただきます。』


その発言は、俺に悪寒を走らせるに十分だった。神器解放までした槍を亜空間へと仕舞い、今も不気味な雰囲気を放つ十字架のロザリオを、両手で大事そうに握り、掲げた。


『【混沌刃嵐カオスセイバー】』


「くそがァァァァ!!!!!」


刹那。


俺を取り囲む結界の360度全方向、下も上も右も左も、全て関係なくあらゆる場所からミクロ単位の小さな小さな黒い刃が放出される。その速度は、先程の槍撃以上のものだ。


間違いなく、生半可な防御じゃ貫かれる。だからといってこのサイズを全部避け切るのは不可能だ。


「やべえなこりゃっ!?!?…」


すぐに自分を囲むように魔力ガードを発動するが、一秒と持たずにぶっ壊され俺の全身を大量の黒い刃が貫く。心臓や肺、脳などの臓器類は全力で小規模な魔力結界を張りガードしたが、出血は凄まじい。


とんでもない威力、速度、範囲の攻撃を喰らい普通に死にかける。臓器類はガードしながら、聖級の治癒魔法をフルスロットルで回してなんとか耐久するが時間の問題だ。


『逃がしませんよ』


さらに、黒結界のあらゆるところから黒い触手のようなものが出現する。炎と雷を組み合わせた衝撃波を放ち触手を全破壊するも、すぐに再生し刃と連携し俺の体を貫きにかかる。


(これ、マジでヤバい…!!)


原作で見るよりも何倍も強い。俺の魔眼ですら全集中しなければ見切れない速度の攻撃に、撤退不可能の黒結界。そしてなにより、リリスはまだ全然本気を出してない。


『救いを与えます、アルフレッド君。』


リリス=フランデーの慈愛の表情の初めて、笑みが灯った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る