第35話 帝国最強の大将軍


∇∇∇    ライゼルside    ∇∇∇



「疾ィ……」


元より見えない我が両目を開く。今もこうして視界が開けている理由は、帝王から譲り受けた古代兵器を、義眼として装着しているからだ。


「お前等ァ!!作戦ベータで展開しろォ!!」


「「「「「応ッッ!!!!!」」」」」


数週間の合同訓練にて鍛え上げられた連携で、部隊の編成が変更される。敵軍は、元の部隊や編成とは完全に違う編成で転地させられたことにより完全混乱状態だ。


「さてさて、俺はあっちの相手に往こうか。」


『その必要はない。』


敵軍にいるであろう相手の大将軍へ向かおうとすると、背後から声。


「そりゃ、ありがたい。」


『完璧な不意打ちを防ぐか…』


全く気配を感じ取れない後ろからの攻撃。先程の大規模斬撃と同じ金色の光を纏った剣撃を、振り向きざまに抜き放った愛刀で防御する。


(此奴がイリスの大将軍…中々、殺り甲斐のありそうな戦士じゃねえか。)


「俺はライゼル、帝国の大将軍をやらせてもらってる。お前は?」


『ラプラス=アルデリア、イリス神聖国大将軍兼、神聖虹騎士のリーダーだ。』


「そうかいそうかい、んじゃ、早速行くぜッッッ!!!」


互いに名を言い合った後、翡翠刀、正式名称【翠嵐刀】に薄緑色の光が凝縮。軽く振り落とすだけで音速を超えた刀から薄緑色の飛ぶ斬撃が放たれる。


『無意味だ、無眼の剣士。』


「知ってんのね、ま、関係ないけどッ!!」


放った斬撃は、ただならぬ雰囲気を持つ剣によってあっさりと弾かれる。どうやら、相手も神級以上の剣士のようだ。


『朽ちろ。【五月雨光閃剣グラスウィルド】』


「御柱が流派――――……」


ラプラスの全身が光り輝くと、次の瞬間には目の前に移動していてその光剣が俺の首へと吸い付く寸前だった。しかし、俺の表情は依然余裕のまま変わらない。


吸った息を吐く、当たり前の動作だ。奴はそれを気にも止めない。しかし、その動作の瞬間に俺の方は動く。


「【一式 煉獄】」


『なっ!…』


振り切られた光剣は、刹那の間に数十回と放たれた翠嵐刀による連撃によって弾き飛ばされる。翡翠の刀には、まるで地獄を想起させるような爆炎が付与されていて、それはラプラスが自身の身体の周りに咄嗟に固めた魔力結界に触れた瞬間大爆発を引き起こし、結界を破壊。


「【三式 風覇】」


『ぐはっ!?…』


俺の体がぶれた瞬間、刀はすでに振り切られており、触らなくとも全てを切り刻む風刀により馬鹿みたいに硬いラプラスの全身に、決して浅くない切り傷を複数与える。


しかし、相手も相当な使い手。こちらの斬撃の間に攻撃を仕組んでいたのか、地面から出現した光の柱に俺の腹部は貫かれ激しい痛みを催す。だが、内臓を貫かれてすらいない攻撃は致命傷になりえない。故に、まだ刀を振ることは可能。


『【時雨光轟絶撃リア・ヴェンデ】』


「【五式 空滅】」


体を切り刻まれた瞬間、奴の体は一瞬で全てを再生し、同時に繰り出される凄まじい圧力を持った光剣の振り落とし。


それに対してこちらが繰り出すのは、空間を喰らい滅する一刀。速度はこちらが上回り、奴の光剣が届く前に俺とラプラスの間の空間を破壊する。すると、光剣は破壊された空間【無】に引きずり込まれ、無効化される。


「【二式 水破】」


『ぐふっ!?…』


無に剣戟を吸い込まれ、僅かな隙を晒すラプラスの腹部に水刀の突きを叩き込む。確実に肺を片方貫いたと思った瞬間、奴は自ら後方に吹き飛び、その左手を俺に翳した。


「かはっ…」


その時、俺の片方の肺も潰れる。なるほど、自分が受けた傷を相手にも負わせるスキルと見れる。だが、奴自身は一瞬で全てを再生し、今もその光剣を振りかぶってこちらへ駆けだした。


『【光閃断魔ウルティマ】』


「ッ…!【四式 地槌】ッッ!!!」


ラプラスが光った瞬間、背後でその剣を振り落としていた。俺は即座に振り向き刀を下段から振り上げる。刀に込められている能力が光剣とぶつかると発動し、光剣を虚空から出現した鎖にて拘束し止める。


(光を支配する類のユニークスキル、この異次元の速さの移動は光を利用した文字通りの光速移動ってわけか。)


「【八式 雷閃】」


俺の全身から雷が迸ると、瞬き一瞬の間に数多の斬撃が繰り出される。ラプラスの全身に纏う光の鎧は、比喩を抜きにしてバキバキに壊されラプラスの両腕を切断し空に飛ばす。


「なんだよ、逃げんのか?」


『焦るなよ猿。本気で相手をするだけだ。』


ラプラスが光ると、光速移動により後方に退避する。その両腕はあっという間に再生されているが、なにより目を引くのはその全身から漲っている青白い光だ。


そして、ラプラスが冷たい表情を一切変えぬままその剣を天に掲げた。


『神器解放――――【狂光剣王ドライブ】』


「ッハ!面白いじゃねえかァッ!!!!」


掲げた剣は、言葉がトリガーになるように放たれると虹色の光の帯のようなものを12本纏い始める。それは、光剣から生えていて、ゆらゆらと生き物のように揺れていた。


『【虹帯遠剣ブレイブ】』


「なっ!?…」


完全な臨戦態勢、何が起きても反射で反応できるようにしていた。だが、気づいたときには地面から虹色の刃が飛び出してきて俺の左腕を掻っ攫っていった。


(速すぎるッ!?ラインハルトでも、このレベルは中々出せないぞ!?)


速すぎる斬撃、見てからの回避や迎撃は不可能だろう。ならば、こちらも取れる手段がある。


「【零式 影浪】」


『朽ちろ』


刹那。


地面や周囲の瓦礫、そして塵一つ一つから8本の虹の斬撃が飛び出てくる。相変わらず視認はできない。だが、俺の体は視認も認識もできずとも勝手に動き、斬撃を全て撃ち落とした。


『全自動でのオートガード…ミラがいれば、どうにかなったが…』


「ないものねだりか?みっともないなッ!!」


その時、俺の体がぶれた瞬間、翡翠の飛ぶ斬撃が奴を襲う。その速度は先程までよりも一層速く、いくらラプラスでも完全回避はできなかったのか脇腹に斬撃が走る。


それとほぼ同時に放たれる、認識不可の虹斬撃。だが、それはもう対策済み。認識できないのなら、認識する前に撃ち落とせば良い。俺の御柱流派には、そんな冗談みたいなことを可能にできる。


「【七式 零月】」


『鈍いッッ!!!!』


虹斬撃を跳ね除けた瞬間、俺の体は空を裂き奴の背後へと移動する。同時に下段からの切り上げを放つが、それは残った3本の帯から放たれる虹斬撃によって容易く弾かれてしまった。


だが、虹色の帯は消えた。どうせまた発動することはできるのだろうが、きっとそこにはリロードのタイミングがあるはず。


『ぐっ…【時雨光剣一閃】ッ!!』


「【一式 煉獄】」


苦し紛れなのか、ラプラスの放った虹色の光を凝縮した剣閃と爆炎を想起させる一閃がぶつかり合うと、出力で押し勝ちラプラスの腹部を大きく切り裂く。


「やっぱ、リロードには隙があるな?」


『だったらどうしたッ!!』


ダメージを受けたラプラスは光速移動にて上空へ避難、一瞬で傷を再生する。俺が翡翠の飛ぶ斬撃を放つと容易く弾かれたが、2秒ほど動かなくなりその光剣に12本の虹帯が出現する。


俺がリロードの隙を指摘すると、図星なのか光剣を掲げる。すると、まるで雨のように大量に分裂した光剣が降り注いできた。


「速いが軽いな、決定打にはならんぞ?」


『問題ないッ!!』


降り注ぐ光剣の全てを超速連撃で斬り落とす。だが、背後にはラプラスが迫っており、その虹帯は地面へと潜り込んでいた。


「【九式 磁業】」


『読み通りッッ!!!!』


刹那。地面から解き放たれる超高速の虹斬撃を磁力の収束にて翠嵐刀に全て集め、地面に叩き返す。


だが、防ぐのすら読まれていた。刀を地面に叩きつけた瞬間に奴は剣を振っており、俺の頭部の上に蹴りあげた瓦礫から虹斬撃が放たれる。


『終いだ』


完全な不意打ち、刀は地面にある。防ぐのも避けるのももう間に合わない。奴は勝利を確信した。いや、確信してしまったのだ。


そして次の瞬間、虹斬撃は奴の読み通り俺の首を容易く切断した。大量の出血と、完全な致命傷により、奴は虹帯と戦闘態勢を解除してしまった。


「【廻式 命廻】」


『なにっ!?!?…』


その時。完全に切り離された俺の首は一瞬で繋がり失われた血も全て保管される。奴は驚愕し目を見開く。そして急いで虹帯を展開しようとするが、もう遅い。


(最後の最後まで、諦めてはいけない。そして同じく、完全に相手が死ぬまで油断してはいけない。)


『【虹帯遠剣ブレイブ】ッッ!!!』


苦し紛れに奴が放つ超速必殺の斬撃。だが、放たれた場所に、俺はもういない。


「【終式 翠嵐】」


刹那。


瓦礫が舞い散り、土煙が上がり、そこら中で血飛沫が上がるこの戦場。そのワンステージ、この場所だけ、ほんの一瞬。









―――――――――時が止まる。




『かはぁっ!!??…』


「一日一回だけの大技だ、喜べ。」


御柱流派。俺が開いたカタナの技や戦闘スタイルを纏めた俺だけの刀術。そんな流派の奥義である終式翠嵐の効果は一瞬の時間操作。時を止め、対象の時間そのものを破壊することで防御も回復も許さない本物の死を与える大技。


ラプラスのこれから生きるはずだった時間を斬ったことで、奴から奴自身というものは消えてなくなり、抜け殻となって地面に転がった。目は虚ろで、そこには何も残らない。


「さて、どっかに加勢しに行くか。」


奥義を使ったが、まだ右腕と余力は残っている。俺は止血だけ行い、他の戦場へと向かった。
























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