第34話 最強の開花


∇∇∇    アイリスside    ∇∇∇



「へぇ…さっすがアル、第一フェーズは成功ってことかな?」


『死ねぇぇ!!!』


「あらよっと。」


『ぐあっ!?…』


転移の光が見えた後、私は予定通りレンルー平原の東部に転移したみたいだね。いきなり敵軍の兵士たちは斬り掛かってきたけど、ノールックで後方へと斬撃を繰り出すと、数十人の兵士を斬り殺しちゃったみたいだ。


(私の役目とか、そういうのはどうでもいいんだよね。)


今はただ、出来るだけたくさん強いやつを殺してアルに自慢したい。そしてよしよししてもらって、よく頑張ったねって褒められたい。それだけを考えて、相棒の宝剣アトランティスを握る。


『あの女剣士は神聖虹騎士が相手をする!一般兵士たちは退けえ!!!!』


『そうよぉ?アタシたちの邪魔に、なっちゃうからねぇ?』


転移から数分が経ち、敵軍を500人程度斬り伏せたところでふたりの強そうな相手がやってきた。片方はツンツンした茶髪の男騎士、右手に巨大な戦斧のようなものを握っていて、片方は怪しい雰囲気の黒髪の女。そっちは、いかにも危険なオーラを醸し出す赤色の短剣を握っていた。


「君たちがきっと、パパが言ってたなんとか虹騎士ってやつかな。やっと骨がありそうな人が来てくれて助かったよ。」


『随分と余裕そうだな、剣神の娘。七光りだった残念だ。だが一応だが名乗っておこう、私は【破王のルーク】。』


『【無限のシアン】よ、アイリスちゃん?』


「興味ないからさ、さっさと来なよ。」


『随分と安い挑発だな、だが、行かせてもらうッ!!!』


簡単な挑発をしても、ルークと名乗った男は怒りを露わにしない。そして冷静に駆け出すその様はかなり戦い慣れている様子だ。


(結構速いね!!)


『【断罪の轟撃レグネクト】ッッッ!!!』


「【強剣撃パワースラッシュ】」


ルークが駆け出し、跳躍。中々のスピードで距離を詰められ振り落とされる戦斧。それに合わせて出すのは、帝国剣技の中でも初級の一番簡単な技。ただ普通より強い一閃を放つ剣技で、中段からアトランティスを振り抜く。


『前言撤回だ、貴様は七光りなどではない!』


恐らく、ルークは全力で戦斧を振り落としたのだろう。だがその一撃は、私の軽く放った一閃と対等に撃ち合い、あまつさえ弾き返されてしまった。ルークは地面に着地すると、憎たらしい表情でシアンという女の方を見る。


『はいはい、【無限赤絶刀インフィニティパレット】』


「弾幕勝負!楽しそうじゃん!!」


シアンが赤短剣を振り翳すと、まさに無限と言って良い数に赤短剣は分裂しまるでマシンガンのようにこちらへ向けて連射される。


速度は今まで見た弾幕の中でも最上位、アトランティスを一秒間に数百回と振り打ち落としていくが、打ち落とした短剣が地面に刺さるとクレーターが起きる爆発を引き起こしている。


『私も忘れないでいただきたいッ!!』


「そういえばいたねッ!!」


弾幕の処理に追われると、背後から戦斧を振り抜いてくるルーク。だがそれは見えていて、あえて振らせたのだ。アトランティスに魔力を纏わせ、巨大な斬撃を前方に展開して赤短剣の連射を一瞬止める。


私の首まで迫っていた戦斧を笑いながら躱し、跳躍しながらもルークの肩口を大きく切り裂く。本来なら首を斬り落とすつもりだったけど、少し避けられた。


『シアン!!アレを使え!!』 


『もう!?』


『使わねば殺される!!やれ!!』


なにやら作戦会議をするお二人、そんな時間を与える慈悲などない。音を置き去りにして駆けた体で剣を振り落としルークの背中を大きく切り裂く。ルークは、一切の回避をしようとしていなかった。


(なにかくるね!!)


『神器解放――――【覇王戦斧レグルス】』


『神器解放――――【無限之権利者アーソラティーローホース】』


その瞬間、ルークの握っていた戦斧はより強い光を放ち、見た目を禍々しくも神々しい薄紫へと変化させる。ルーク本人も、その薄紫のオーラを纏っていて、強化されたと見れる。


なにより注目すべきは、シアンがルークの背中に触れた瞬間、ルークが50人に増えたことだ。やはり、シアンの神器の能力は増殖と見ていいだろう。50人にしたのか、50人までしか増やせないのかは気になるけど。


「へぇ?面白くなってきたね!!!」


『『『『『『化け物め!!!!!』』』』』』


大量のルークが戦斧を握り駆け出す。全方向からの絶え間ない必死の連撃。以前余裕そうな笑みを消すことはないが、アトランティスを振る回数が一秒間に2000回を超え、あたりに衝撃波が走り始める。


「あははは!!!!楽しいね!!!!!」


斬る、斬る、斬る、斬る。


斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。


馬鹿げた速度にて振り続ける剣撃で、50人まで増えたルークの攻撃を全て捌く。それどころか隙を見て何人か斬り伏せ殺している。殺しても増えないところを見て、全部で50人までしか増やせなかったと考えていいだろう。


「へぇ!!まだ物量勝負を仕掛けてくるんだ!!」


ルーク分身の数が減ってくると、先程までよりも威力も速度も強化された赤短剣が無限に発射されてくる。対処するには、多いし速いし的が小さい。その時、宝剣に魔力が収束されていく。 


帝国剣技を煌級まで納めたものには、帝煌剣士という二つ名が与えられる。私はそのさん人目の帝煌剣士であり、煌級剣技には地形を変えるほどの剣技も存在する。


「【鳳凰煌宝撃フェネクス】ッッ!!!」


『ぐっっ!!??』


収束された魔力は馬鹿げた熱量の炎へと変換され、地面に向けて振り落とされる宝剣から一気に爆裂し放出される。視界を埋め尽くす光と、耳を劈くような爆音と共に起きた大爆発は飛んでくる赤短剣も、大量の分身も全てを灰に還した。


「ぐふっ!?…」


土煙が晴れたその時、私の左腹部と右眼が爆散する。治癒魔法なんて高等魔法、私は使えないから少しまずい。爆散した左腹部と左目の吹き飛んだ血を見ると、そこには分子レベルまで小さくなった赤短剣があった。


(なるほど、極限まで小さくした赤短剣を体内に忍び込ませて爆発させる。初見回避はどちらにせよ無理だったし、心臓爆散しなかったからマシだと思えばいっか。)


「分身を盾にして、一か八かの体内爆発。その策はすごかったよ。」


『ばけ、ものが…』


土煙が晴れると、全身大火傷に大量出血、間違いなく一分もせずに死ぬだろうルーク、そしてルークに守られるようにしゃがみ込む軽症のシアンがいた。


『まだ、終わってないわよ?』


「そりゃ、楽しみだね!!!!」


そんな状況で、シアンは苦笑いしてみせ、その神器たる短剣を自分の方向へと向けた。 


『【代償召喚:赤宝魔神】!!!!!!』


シアンが自分へ向けた短剣を、己の左胸へと躊躇なく突き刺す。無論、退寮後が心臓から流れ出て、シアンの目は虚ろへと変わる。だが、その血や魔力、その全てが短剣へと吸い込まれていった。


「これは…中々…」


短剣は心臓から独りでに抜け出し、空中へ滞空する。そして、時が来たと言わんばかりに視界を埋め尽くす強大な赤い光を放ち、光が止むとそこには、体高10メートルはありそうな人形、赤い宝石のような肌を持つ、炎の魔神がいた。


(命を代償に召喚…感じる限り、レベルは100だろうね。)


「問題ないね。」


私は約束したもん。この戦争で必ず生きて勝って、もう一回、アルに好きって言ってもらうって。今の私は絶好調、こんな変な見た目の魔神に負けるわけない。


いつも浮かべている上っ面の笑顔じゃない。心からの笑顔を浮かべて、宝剣を構える。すると赤魔神は雄叫びを上げ。何十体にも分裂する。


『グオオオオオオオ!!!!!!』


「【帝煌爆水剣ポセイドン】ッッッ!!!」


何十体にも分裂した炎の魔神は、一斉にこちらへ突撃。その両腕には近くにいるだけ手間焼ききれそうなほどの熱量を持った炎が灯されていて、私の体目掛けてそれが放たれる。


私の振り落とした宝剣から、一つの街を埋め尽くすほどの巨大な津波が出現する。それは360度全方位から襲い来る炎の魔神を押し流す。


そこから始まったのは、ただの蹂躙。煌級剣技は魔力を利用するが魔法ではない別の術を発動し剣を振るう技。故に、魔法が対して使えない私でもこういう事象を引き起こせる。殺人的な水を纏う宝剣による、数千回の斬撃は無限に分裂し続ける炎の魔神を、それこそ無限に殺し続けた。


斬って殺して倒して斬って殺して倒す。炎の魔神は巨大津波に対抗するべく、巨大な炎の津波を展開したが、それの倍のサイズの津波を引き起こして飲み込んであげた。


そうして切り続ける事10数分。増えるスピードよりも殺されるスピードが速くなってしまい、残るは30体。


「終わらせてあげるよ!!!!!!」


私の足元に爆裂するような雷が収束。宝剣には今か今かと放たれるのを待ち望んでいるような水流が収束。私の目が見開かれた瞬間、足元の雷は爆発し光に迫る速度で炎の魔神たちへと駆けた。


「【剣聖撃アイリス】ッッッ!!!!」


放たれる水激流。それは炎の魔神たちを押し流し切り刻み、シアンの命の代償と共に召喚された化け物は、世界からその姿を消した。


そして残っていたのは、私一人。ルークは出血多量により死に、あたりの敵軍兵士たちも余波によってたくさん死んだ。そしてなにより、精神的支柱であるなんとか虹騎士が負けたことで、戦意を折られてしまったのだ。


「あとは、消化試合だね。」


私は笑顔を浮かべたまま、残る数万の敵軍へと走り出す。




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