第32話 金剛無敗のラインハルト

∇∇∇   ラインハルトside   ∇∇∇



「ハッハッハ!!うちの弟が魅せたんだ!!俺たちもやってやらなきゃなァァァ!!!!!」


「「「「「おおおおおおお!!!!!!!」」」」」


レンルー平原南部、俺が指揮する三万人の兵士たちは敵軍三万人+神聖虹騎士3名を相手する。


転移直後、敵軍は混乱して陣形が崩れる。どうやら兵隊で防御しながら耐久し、神聖虹騎士で攻める陣形を作っていたようだが、防御隊が崩れたことで瓦解。慌てる敵軍に、兵士たちの魔法一斉射撃が直撃する。


『良いようにはさせれないねッッッ!!!』


「そうだと良いなァッッ!!!!」


敵軍の中でも一番前にいる飄々とした灰色の髪の女が、なにやら朱と白の2つの宝玉がついた台座のようなものを出現させる。そこからは神聖なオーラが滲み出ている。恐らく、アレが神器だろう。


金剛や他戦士系スキルに加えて、アルに負けない想いで習得したユニークスキル【雷神】を使い全身を超強化。引き抜いた双剣は雷が収束されている。


そんな時、女の朱の宝玉が光る。俺はすぐに危険を察知し放電。音を置き去りにする速度での強行から放つ無数の電雷撃によって、女の術の発動を阻止、さらに肩から決して浅くない切り傷を与える。


『うちの子に何してくれてんの』


「保護者気取りのロリまでセットかよ!!!」


追撃を加えようとした時、背後から気配を感じ飛び退く。そこには漆黒で出来た巨大な手のひらのようなものがあり、術者は女を抱えて空へ滞空する緑髪の機械少女のようなロリだ。


『な〜んか面白そうな奴等がいるねぇ〜?』


「これまたキャラが濃い奴が来たな。」


俺の足元から出現する魔法陣、そこから赤色の鎖が飛び出し俺を拘束する。全身から放電し破壊したが、そのときには既に敵は目の前にいて、拳を振り抜いていた。


「な〜んちゃって?」


『なっ!?』


目の前にいるのは、身長は高くそしてピエロのような化粧をした男。その全身からは神聖なオーラではなく黒いオーラが滲み出ていた。


放たれた拳をあえて顔面で受ける。俺の体は金剛の肉体だからな、パンチなんてしたら相手の拳は骨がぐちゃぐちゃにへし折れ、放電することで全身に数千万ボルトの電流が流れる。


追げきで電撃パンチを腹部に叩き込み吹き飛ばすと、機械少女ロリが左手を伸ばす。するとピエロ男は何もないところからいきなり空中を引っ張られ、機械少女ロリの左手で首裏を掴まれる。


「なるほど、お前等が例の神聖虹騎士ってやつか。」


『御名答〜、アタシは【朱白のラドルリア】。』

 

『同じく、【死生のミラ】。』


『ぼぉくは【陽聖のレグル】。よろしぃくね?』


3人ともキャラが濃すぎる。だが、俺の標的3人が相手からやってきて好都合というやつだ。他の雑兵たちはうちの軍に任せておいて、俺はこの三人を突破することを考えよう。


(陽炎からの情報提供だと、3人ともレベルは100到達者。一番危険なのは、機械ロリの神器だろうな。)


「残念だけど、遊ぶ気は全く無い。」


『そりゃ残念ッ!!』


ユニークスキル、雷神。簡単に言ってしまえば雷の支配操作ができる。ユニークスキルにしてはシンプルだが、その汎用性はピカイチ。そして俺は、このスキルを使ってあらたな形態を生み出した。


『神器解放――――【血光宝玉ブライド】』


ラドルリアは朱の宝玉を光らせる。すると、先程ピエロ男ことレグルから流れ出た血が凝固し弾丸となって俺に降り注いだ。


「【雷装ボルトアーマー】」


刹那、轟音。


俺の全身に黄金を通り越して青白となった雷が大量に収束し、鎧となる。それは、降り注いだ血の弾丸をまるで生きているかのように動き、撃ち落とした。


(雷装。雷の自動防御、自動攻撃に加えて…)


「【瞬間加速イグニッション】ッッッ!!」


『かはぁっ!?…』


『ラドルリア!?』


雷の爆発による瞬間加速。まったく動いていない運動量がゼロの状態から、一瞬で最大速度まで加速させる。これにより姿が見え、実力者ほど残像で位置を誤認し、こうして光に迫る速度での斬撃を避けられない。


空中に滞空するラドルリアは、何が起きたかもわからず全身を雷の爆発によって焼き焦がし、その両足を切断され地面に落ち転がる。機械ロリは治癒しようと地面に向かうが、そんな悠長な行動は許さない。


「【瞬間加速イグニッション】ッッ!!!」


『邪魔』


再びの瞬間加速。空を裂き、音を超え、光に迫る雷斬撃は機械ロリが自分の周りに展開した薄緑色の結界に阻まれる。それは、恐ろしく硬い。


「お前は、端から狙ってねえ!!!」


だが、俺の全身から過去一大きな雷撃が周囲に放たれる。それにより、俺の背後から奇襲しようとしていたピエロ男は意識を失うほどの電圧を受け地面に落下、俺は双剣の一本を投擲しピエロ男の心臓を貫く。


『認識が、甘かった。』


「どうしたどうしたァ!!戦闘中に独り言かァァァァ!!!」


『貴方は、強い。だから、全力で相手する。』


結界を解除した機械ロリの両手には、まるで死神の持つような黒さと、神の宝物のような神聖な白さを持つ大鎌が握られていた。


『神器解放――――【命奪之切先デスイーター】』


「【瞬間加速イグニッション】ッッッ!!」


その時、大鎌に白と黒が混じり合ったオーラが収束し思い切り振り抜かれる。その小さな体躯に見合わない速度による斬撃、俺は瞬間加速でしか回避することができないと判断し、即座に発動して空中から地面に退避。


(さて…神器に関しては情報がないから慎重にいかないとな…)


だが、一つわかっていることがある。あの機械ロリこと死生のミラ。アイツは神聖虹騎士の中でも序列二位、つまりイリス神聖国において3番手の実力者だということ。


「やってやろうじゃねえか。【連結コンバージョン】」


そう唱えると、双剣は眩い光を放ち合体。一本の青白雷を彷彿とさせる刀となり、俺の右手に納まった。


身体能力70万を、雷神による補助で増幅させる斬撃の嵐で、お相手しよう。


『殺す』


「やってみろォォ!!!」


空中に地面があるのかと疑うが、ミラが空を蹴り馬鹿みたいな速度に加速。そして、なんの迷いも無くその大鎌を俺へと振り下ろす。


しかし、それは防御せずに避ける。瞬間加速を使わなくとも直線的な斬撃は見切り回避、振り切った時に瞬間加速を発動し、雷刀の一閃をお見舞いする。


『【全自動魂奪結界オートマティックフルガード】』


しかし、薄緑色の結界が発動し再度攻撃を防がれる。異常なまでの硬さの結界、これほどの結界はフレデリカでもそう簡単に貼ることは出来ない。


「押し切るッッ!!!!!」


瞬間加速の良い所は魔力を消費しないということだ。故にこうして瞬間加速を連打し、雷斬撃を一秒間に1000発を超える回数放てている。


「【雷穿ボルトスパイク】ッッ!!!!」


強烈な雷刀による突き。それは数千発の斬撃を受けた薄緑色の結界を割り、ミラの左腕を肩から爆散させる。


『【全自動魂奪光線オートマティックフルレーザー】』


「そういうこともできんのかッ!!!」


左腕を飛ばされたにも関わらず、一切表情を変えずに攻撃に転じるミラ。割れた結界が解除されると、魔法陣が展開されず、本当のなにもない空間から予備動作無しで大量の白い光線が発射される。


(予測不能、しかもレーザーの一本一本のスピードや追尾性能が違う!?)


「こりゃやべえなァ!!」


全身から漲る青白雷がより一層強くなり、刀を降るスピードも上がる。360度全方向から予備動作無しで襲い来るレーザーたちを斬り伏せ続ける。


(中々苛烈な攻撃だなァッ!!だがッ、裁けないほどじゃないッ!!)


『【死鎌デスサイス】』


「ッッ!!??」


その瞬間、完全に気配が消え姿が見えなくなったミラは背後に忍び寄っており、その大鎌に人生史上初めての、死を感じるオーラを纏わせて振り抜いていた。


レーザー光線を多少受けても構わない。俺は瞬間加速を発動し、腹部を少しレーザーに抉られながらも大鎌の首狩りを回避する。


(こりゃあヤベェな。だが、大体の能力は掴めてきたぞ?)


「なるほど、【死生】。文字通り【死】と【生】を操る神器ってわけか。」

 

『見破るの早い、流石。でも、わかったところで、どうしようもない。』


距離を取り相対すると、ミラは白黒のオーラを大鎌に付与して掲げる。すると、レーザー光線に加えてオーラで作られた半透明の大鎌が、空中に無数に出現する。


(あの結界とレーザー、アレは周りの死んだ兵士たちの命を吸って使ってるんだろうな。あの死、そのものみたいな大鎌は、神器自体の能力か。)


無問題モーマンタイだ。」


これでも、帝国の副将軍を務めさせてもらってるんでね。簡単に負けるわけにはいかないんだよ。


(コイツを倒すことが、今回の俺の役目。なら力を使い切っても良いよな。)


『死んで』


冷徹な声音と共に放出される大量のレーザー光線と大鎌。レーザー光線は大した威力ではないが、大鎌は食らえば傷の大きさ関係なく即死するタイプの能力だろう。


「ッハハ!!叩きのめしてやるよォッ!!!」


刀を居合に構え、解き放つ。放出されるのは人一倍大きな青白雷の爆撃。それは前方のレーザー光線と大鎌を全て撃ち落とし、一瞬だがミラ自体の動きも感電により止まる。


「【雲を穿ち、雨を裂き、地を貫け。我は雷の化身であり、雷神の名を冠する者。】」


『ッ!!【死鎌デスサイス】!!』


詠唱を聞き、初めて焦りの表情を見せたミラはその小さな体に見合わぬとんでもない速さで地を蹴り、俺の首目掛けて死の大鎌を振り抜く。


だが、一つ間違いがある。俺にスピードで挑むっていうのは、負けを認めたも同然だ。


瞬間加速イグニッションッッ!!!!)


大鎌が振り抜かれた先に、俺はもういない。瞬間加速により最大速度まで一瞬で加速し、大鎌を振り抜いた姿勢のミラの、背後にいる。その姿勢は、中段。防御を捨てた全攻撃の構え。


「【我が剣、我が雷。穿ち抜くべき敵は何処にあり。今宵、我が雷剣が夜を照らすッッッ!!】」


『ぐっ!!!!』


ミラは最後の抵抗と言わんばかりに、レーザーを放ち俺の腹部を弾き飛ばす。だが、内臓を飛ばされても、俺は止まらない。電撃で痛覚は麻痺させてある。

 

そして、詠唱は済んだ。中段に構えた愛刀ははちきれんばかりの青白雷を溜め込みバチバチと音を鳴らしている。そして、俺の瞳が見開かれた瞬間、ミラはまた薄緑色の結界を展開した。


刹那、雷刀が放たれる。


「【白雷神之剣撃トールブレイド】ッッッ!!!」


『【全自動魂奪結界オートマティックフルガード】!!!!』

 

解き放たれる雷神の一刀。爆音を鳴らし、視界を光で埋め尽くし振り抜かれた一刀は結界と衝突すると、馬鹿げた質量の電撃を周囲に撒き散らし、自分を中心とした大きなクレーターを作り上げる。


「人間の魂で作った結界でェ!!!俺の刀が受けられると思うなぁぁぁッッッ!!!!!!」


刹那。大爆発。


今か今かと放たれるのを待ち望んでいた青白雷の塊が、瞬間加速によって押し込まれた刀から解き放たれ、耳を劈くような爆音と共に大爆発を引き起こす。


その時、薄緑色の結界はなんの抵抗もなく粉々に破壊され、青白の雷刀は、なんの迷いもなく光と並び機械少女ミラの首を斬り飛ばした。


(あぁ…私…負けた…)


ミラは、地面に情けなく崩れ落ちる自分の体を空中に切り飛ばされた首から見ていた。そして思ったのは、悔しさでもなく、悲しみでもなかった。


(凄い、剣技だった…でも、ごめんなさい…)


ごめんなさい。その言葉の真意は、聖女へと向けられたものではない。


「なっ!?…」


(私は、ただじゃ死なない…)


その時、地面に崩れ落ちたミラの体から死の大鎌と同じオーラを持つ鎖が飛び出して俺を拘束して地面に叩き伏せる。


(なんだこれっ!?自分の死をトリガーにした術式の発動!?)


死と生を司る術者だ、ありえないことはない。幸い拘束されて動けないだけで、体に異常はないが、これはきっと、自分が死んでも倒した相手を援軍に行かせないための術なんだろう。


「はは、ごめんだけど援軍に行く力は残ってないんだ。後はみんな、頼んだよ。」


そうして、帝国軍副将軍でもあり、あの魔眼の英雄の兄。金剛無敗のラインハルトは意識を失った。











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