第28話 奇祓の魔術師
イリス神聖国との戦争に参加することになった翌日。俺たち四人は帝城で戦争終了まで過ごすことになった。もちろん理由は、戦争での戦いの訓練や連携の練習を帝城の地下にある超巨大演習場で行うからである。
現在は朝の七時。6時に起きて朝食やら支度を済ませて、地下の演習場へと向かっている。集合は七時半だが、早めに着いておいて損はないだろう。
「お、小僧。早いじゃないか、良い心がけだ。」
「ライゼル大将軍、それに兵の皆さんも揃ってるじゃないですか。」
演習場へ入ると、そこにいたのは糸目でキツイ目つきの白髪剣士、ライゼルと巨大演習場いっぱいに入っている数万人の兵士たち。この人たちが、戦争でライゼルが直接指揮するライゼル隊の兵士たちなのだろう。
そういえば、今回の戦争で全舞台の指揮を執るのはライゼルではなく帝王ジルだ。ライゼルという特大戦力は、相手の最大戦力に当てたいからである。
「にしても、やっぱ学園とは違うな…」
辺りを歩きながら見渡していると、兵士一人一人の実力が伺える。転生したばがりのころに、兄様からは兵士一人一人が弱いと聞いていたが、そんなことはなさそうだ。
「どうだ、小僧。うちの兵士共は?」
「一人一人、すごく強そうです。こうして休憩中でも隙がないし、魔力圧を感じます。」
「そうだろうそうだろう。なんてったって、お前のお兄様が、『アルに負けてられん!兵士共!特訓だァ!!』とか言って帝国軍を鍛え上げたからな。一人一人がレベル60を超えている。」
兄様がそんな事するわけ…いや、兄様ならやりかねないな。まぁ納得はいった、兄様が直接鍛え上げたのならそりゃ強くなるだろう。頼もしい限りだ。
俺がそんな事を考え、空いている演習場の地面に座り白大剣の手入れをする。この大剣、俺の相棒としてずっと一戦級の活躍をしているから俺も愛着が湧いている。魔天はかなり使えるし神器を手に入れても手放すことはないだろう。
白大剣の手入れをすること数分。なにやら殺意とはいかないが、敵意を持った視線を感じ、後ろを振り返る。すると、一人の兵士がこちらへ歩いてきた。
「ガキ、立ちやがれ。」
「いったい、なんの用です?」
体躯は190センチほど、かなり筋肉質な体付きをしていて背中には二本の長剣。だが、感じる魔力はアイリスと同程度。こいつ、こんな見た目で魔法使いだな?
ひとまず、かなり厳しい視線で睨まれたので立ち上がる。するといきなり胸ぐらを掴まれてしまった。
「ライゼル様に気に入られただけのガキが、戦場に出るだとォ?ふざけんのも大概にしやがれェ!!」
「あらよっと。」
胸ぐらを掴まれ、そのまま地面に叩きつけられたが受け身を取って即座に跳ね上がり兵士の顎を蹴りで貫く。魔法による補助は常にかけてるもんでね、ただ叩きつけられるだけじゃ痛くもなんともないんだ。
「こんのガキィぃ…」
蹴られた兵士は無傷だったが、かなりムカついている様子だった。そこに、ライゼルが面白そうな表情をしながら入ってくる。
「おぉゼル、なに小僧に突っかかってんの?」
「ライゼル様。申し訳ありません。」
「いや謝らなくていいよ、それに他の皆もきっと小僧の実力を疑ってるだろうし。」
まぁそれが普通だろう。まだ10歳のガキンチョが鍛え上げられた兵士の中にいるのだから、不調和を生むに決まってる。ライゼルも、帝王の間で斬りかかってきたし。
「それじゃゼル。君と小僧で模擬戦をしよう。」
「え?」
「そうすればこの疑いも晴れるでしょ!さぁみんな!スペース開けて!」
その言葉を聞いたゼルという兵士は、顔を真っ赤にして怒っていた。なぜなら、ライゼルの言葉は俺が勝つと確信している言葉だったからだ。
(焼け石に水なんですけどライゼル?)
俺は心のなかで悪態をつきつつも、白大剣を亜空間収納に仕舞う。そして発動するのはいつもの魔法たち。身体強化に炎風による加速、雷で速度と反射神経の強化。重力魔法で重力を緩和する。
(あんまり手の内を見せすぎるのも、良くはないよね。)
周りがスペースを開け、擬似的な模擬戦の空間ができあがる。恐らく、殺したらめっちゃ怒られるのだろうけど、殺すつもりでいかないと負ける気もする。
「んじゃ、勝負開始!」
「絶対勝つ!!」
ゼルは啖呵を切った後、魔法で視界を遮る霧と足元を泥沼へと変化させる。中々に妨害系の魔法を使ってきやがる。
「くたばりがやれッ!!」
次の瞬間、泥沼化した地面が一瞬で硬質化し足元が地面ごと固められる。そして虚空から出現する炎の鎖。俺の体を焼きながら縛り付け動きを封じる。
そして目に入ったのは、俺の目の前で展開される巨大な魔法陣。そこから放たれるのは、炎と雷を組み合わせた炎雷砲。凄まじい轟音と共に放たれたそれは俺に直撃した。
「はぁ…はぁ…やったか…?」
土煙が晴れる。そこにいたのは、息を切らしながら魔力の減少に耐えるゼルの姿があった。
「良い攻めだった。でも、俺に魔法戦を挑むのが駄目だったかな。」
「クソがぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は無傷。受けた攻撃の全てを、ライゼルの斬撃を防いだ磁力三角破片によるガードで防ぎ、貫通してくる熱気や魔力は姉様直伝の結界によって全ガード。わざと受けた炎の鎖による火傷は治癒魔法で全回復。
そんな、理不尽すぎる魔法の力量差に叫びながら剣を引き抜き突撃してくるゼル。アイリスより遅い斬撃など喰らわない。すんなり避け、左手に出現させた炎の剣によって着ている鎧ごと両腕を斬り落とす。
「がぁぁぁ!!???腕がぁぁぁ!!??」
「はーい勝負あり〜。予想通りだったけど小僧の勝ち〜。」
きっと、ゼルもかなりの実力者だ。スムーズな連続魔法にあれほどの威力の炎雷砲。最近開発した磁力三角破片ガードがなければ、無傷とはいかなかった。
「すいません、今治しますね。」
俺はうずくまるゼルの元に駆け寄り、上級の治癒魔法を掛けてあげる。すると両腕は元に戻る。欠損を治すのはかなり魔力がいるが、治さないと逆上されそうだししょうがない。
「ガキ…アルフレッド、だったか…?」
「はい、アルフレッド=シシリスです。」
「生意気なこといって、すんませんした!!」
「え!?」
すんごい勢いで土下座された。え?マジでどういう事?さっきまでブチギレてたやん!?
「小僧。ゼルはよくも悪くも素直なんだよ。二つ名の【奇祓の魔術師】とは、似ても似つかない性格だけどな。」
「は、はぁ…?」
「とにかくお前等ァ!!これで小僧の実力がわかったはずだ!!これからは対等な存在として訓練に励み、共に此度の戦争を勝ち抜くぞォォォ!!!!」
「「「「「「おおおおお!!!!!!」」」」」」
ゼルとの模擬戦を経て、兵士たちからの訝しげな視線は止まるのだった。ようやく、訓練初日が安全にスタートできそうだ。
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