第27話 個性激強帝王サマ


「本当にどういうこと…?」

 

「私が聞きたいくらいなのだけど?」


翌日、帝城。ルージュを先頭にアイリス&アレンと共に帝王の間へと向かう。アレンがなんで呼ばれたか不思議がっているけど、どうやら帝王の娘であるルージュですら知らないようだ。


「帝王様ね…怖いんだよねぇ…」


「お父様は癖が強いだけで、良い人よ?アルは外向きのお父様しか知らないから怖いのよ。」


「そうなの?…」


遥か幼少の記憶だけど、転生したばかりの頃に帝王様がいるパーティーにいって目があった時、クッソ睨まれたから怖いのだ。


「それじゃ、行くわよ。」


帝王の間についた俺達は、ルージュが扉を開けると息を呑む。扉の先にいたのは、壮大な雰囲気の豪華な椅子に座る、髭を蓄えた40代の御仁だった。


「お父様。参りました。」


ルージュがそう告げた瞬間、空気が揺れる。最初に反応したのは俺、白大剣を取り出すのは間に合わないと判断し、磁力による反発と引き合いを組み合わせた最硬の磁力壁を展開する。それにぶつかるのは、翡翠の刀。


「ほぉ?噂は間違いではなかった、ということか?」


「いきなり斬りかかるなんて、大将軍閣下は野蛮ですね?」


「ッハ!言うじゃねえか!小僧!」


磁力の性質を付与された三角の破片同士は反発しあい、そして引き合う。そんな三角破片が大量に集約し展開された壁は音が遅れてやってくるほどの速度の斬撃を防ぐ。


翡翠の刀の持ち主は、二十代にも見えるほど若々しく見える白髪の御仁。瞳は細く厳しい目つきで、豪快に笑いながら後方に飛び退き刀を収めた。


「いやはやすまぬな小僧共!呼び出しておいてなんだが、実力が本当か確かめたかった!」


「だからいきなり斬りかかっていいのかしら?ライゼル大将軍閣下?」


「ルージュ様ぁ許してくれよ〜。」


刀を収めた大将軍閣下、ライゼル=ウィルフォルトはふざけた態度を取りながら玉座に座るお方の側へと戻る。そして、玉座の御仁は口を開いた。


「アルフレッド、アレン、アイリス、ルージュ。よく来たな、我が国の宝たちよ。」


玉座に座っていたのは、我等がバスター帝国の帝王ジル=バスター。帝王がそんな言葉を口にした瞬間、帝王の姿は髭を蓄えた御仁からケモミミを生やした幼女へと変わる。


「改めて自己紹介をしよう、我はジル=バスター。このように自由自在に姿を変えられるから、姿ではなく声で覚えてほしいものだな。」


幼女から雰囲気と威厳のある低音が奏でられる状況にアレンもアイリスも困惑しているが、帝王はそんなものはお構いなしに玉座から降りて歩いてくる。


「帝王様なにそれ〜!超可愛いです〜!!」


「ふむアイリスよ、我がケモミミ形態の良さが分かるか?ならばこちらはどうだ!」


「わぁ〜!!めっちゃ可愛いです〜!!!」


アイリスがベタ褒めして帝王様の背後に回りケモミミをいじりまくると、次は茜色の狐に變化してしまった。アイリスがそれに便乗しまくるとタヌキや犬など様々な人形動物に変化して遊びまくる。この帝王、もしや威厳などないに等しいな?


「お父様!遊びはここまでにしてください!」


「おっとすまんルージュ。つい興が乗ってしまった。」


「もう!しっかりしてください!」


娘(皇女)に叱られる父(帝王)とはこれいかに。まぁ最終的にオレンジ色の猫耳幼女になり帝王は玉座へと戻り話し始める。


「ごほん。では、お主たちを呼び出した経緯は陽炎から聞いているな?」


「はい。俺達に、イリス神聖国との戦争に協力してほしいということですよね?」


「その通りだ。我々バスター帝国は現在、イリス神聖国と大戦争を繰り広げている。」


ここまではすでに聞いている。原作ではこの戦争にアレンたちが参加することは無かったから原作とはもう乖離しているが、イリス神聖国については山程の情報を持っている。一応、貢献はできるだろう。


「それでお父様、どうしてまだ学生の私たちを兵として起用するんですか?」


「簡単な話、戦力が足りん。こちらの最大戦力はライゼルとラインハルトの二名だが、相手にはライゼルよりワンランク下クラスの強さが7人いる。それに加えて、【悪魔の聖女】。このままでは我が国は敗北し、イリスに取り込まれてしまうだろう。」


ライゼル大将軍と兄様であるラインハルトは、現状ほぼ互角の強さだと言う。そんなライゼルよりワンランク下、つまり帝国でも最強クラスの実力者が相手側には七人。さらに、イリス神聖国の誇る【悪魔の聖女】が加われば、いくら巨大な兵力を持つ帝国でも押し切られてしまう。


(そこで、高等魔法による大規模な殲滅力を持つ俺や一対一では最強クラスのアレン。持久力と速攻力両方を兼ね備えるアイリスと、兵全体に大規模なバフを掛けられるルージュを使うってことか。)


俺たちはレベル80を超えている。さらに言えば各々レベルでは測れないユニークスキルや強力な武具を持っていて、相手側の七人にも対応できる。そりゃ、招集されるわけだ。


「それに小僧諸君。此度の戦で武功を挙げれば学園生にして貴族独立も夢ではないぞ?大量の金に、そうだな。イリス神聖国が所有している【神器】の譲渡すら行うかもしれぬ。」


「その兵隊召集、このアルフレッド=シシリス。受けさせていただきます。」


「アル!?決断が早くない!?」


「そんなにお金が欲しいなら私が上げるのに〜」


アイリスは俺が金目当てだと茶化してくるが、目的は全然違う。


(そうだよ俺はなんで忘れてた?イリス神聖、にはアルフレッドが最強たる由縁、【神器】があるじゃないか。)


神器とは遥か昔、神々が直接世界を支配していた時代に生まれた特別な武具。神からの祝福を受け、普通の武具とは一線を画す性能を発揮し、ものによっては国一つを滅すことすらできてしまう代物。


そしてアルフレッドのユニークスキル、神器の使い手によりアルフレッドはあらゆる神器を扱える。つまり、神器を手に入れることで俺は爆発的に強くなれる。この戦争に参加しない理由など、もうない。


「じゃあ、僕も行くよ。戦争。」


「わったしも〜!敵をバンバン斬り倒してレベル上げるぞ〜!」


「アレンが行くのなら、私も行きますわ。」


三人もどうやらやる気になってくれたみたいだ。その言葉を受け、帝王ジルはにやりと微笑んだ。


「ならば、お主たち四人も戦争に参加させる。部隊配分やどの戦場に送られるかは我とライゼルで決める。」


イリス神聖国は、中央大陸最強の国。ライゼルよりワンランク下とはいえとんでもない実力者が神器を持っているのだ。それが七人、正直俺たちが参加しても五分五分か、やや不利といったところだろう。


「健闘を期待する。」


だが、帝王ジルの表情はすでに、勝ちを確信したような笑みで溢れていた。





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