第24話 憤怒と正義


『それじゃあ早速死んでしまいなさい』


「…………」


僕の顔から、表情というものが消えた。そんな僕になにか死を凝縮したような黒い玉をルシファーとやらが放つ。


だがそんな場所に、僕はもういない。


『ぐぎゃ!?』


『ぐぉぉん!?』


『ぎしゃっ!?!?』


三体の悪魔の首は、もうこの神剣によって切り落とされている。ルシファーは見えなかった…と何か呟いている。


「ごめん。ルージュ。」


意識を失っているルージュに優しく手を翳し、魔法を使う。なんの魔法を使おうとしたかは自分でもわからない。だけど、緑色の光がルージュを包むと失った左足は元に戻った。


『ッ!!』


ルシファーがなにか楽しげな表情をすると、黒い翼をはためかせ二本の巨大な黒腕を虚空から召喚してルージュを掴もうとする。


「触んなよ、ゴミ。」


『ぐはぁっ!?…』


次の瞬間、神剣は黒腕を細切れに切り刻んでおりルシファーの両腕と首も切断している。だがそれだけでは死なないのか、すぐに再生して今度は僕を黒腕で掴む。


「そんなので、捕らえられると?」


『化け物がッ!!!』


僕の全身から、黒いけど白い、邪悪だけど神聖なオーラが爆発すると黒腕は全て爆散する。それどころか、巻き込まれたルシファーも大火傷を負い近くにいたグリムは意識を失った。


『なんなんだよ、お前ェッ!!!!』


「逃がすわけ、ないでしょ。」


僕はこの不思議なオーラを神剣に集約し、切り払い放つ。すると斬撃となったオーラは爆速で逃げようとしたルシファーの肉体を真っ二つに切り刻む。


初めての激怒、いや、憤怒の感情に制御が効かない。だけど今は、この力の使い方がなんとなくわかる。だから、このクソッタレな悪魔を殺すのは簡単だ。


「【憤怒の神炎アンガルタ】」


神剣に、ただならぬ雰囲気の炎が集約する。両腕には憤怒のオーラを、神剣には憤怒の炎を。互いに纏わせ、空を蹴りルシファーへと駆け振り落とす。


『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!????』


憤怒の炎を纏う神剣は、ルシファーの全身を細かく切り刻む。どうやら、いくら悪魔といえどと短期間で何回も殺されると再生に時間が掛かるらしく、肉片のまま地面へ落下する。


「はぁぁぁぁぁ!!!!!」


憤怒の炎が左手から放たれる。それは肉片のまま地面に落ちたルシファーの肉体を焼き焦がし消し炭へと変える。


『くっそ、がぁぁぁ!!!!』


その時、ルシファーは体を無理くり再生して異形の体となった4本の腕で掴みかかってくる。僕は冷静に神剣を振るい、腕を切り落とし再度細切れへと変える。


そこから始まったのは、ただの蹂躙。何回も何十回もルシファーを殺し続けるという作業。僕の怒りは、憎悪は、無力感は、増していくばかり。


(消滅させてやる)


僕の左手に憤怒の炎が集約し、炎拳となる。それは地面にて上半身だけ再生したルシファーへと向けて放たれようとしていた。


だが、それは放たれなかった。


「お前等は、どこまでッッ!!」


『ひひっ!!!!』


ルシファーの左手は、後方で震えて恐怖している1年生100人へと向けられている。そしてそこからは、特大威力の黒い玉が発射された。


その時、体は勝手に動いていた。この覚醒したのか知らないが、不思議なほど速く強く動く体は1年生たちの目の前まで全力で移動しており、自分の背中を盾にして、黒い玉を防いでいた。


「ぐふっ…!?」


「アレン!?なんで!?」


守った一年生たちからは、恐怖と同時に歓喜が舞い起こった。今のが当たっていれば、確実に全員死んでいた。


だが、直撃を受けた僕の背中は完全に抉れていた。どうやら、この黒い攻撃は喰らうと治癒魔法が効かない。だから、治癒ができなかった。


それでも、僕の瞳は奴を睨んでいた。


(僕は一体、なんのために、戦っているんだ…)


漢として、絶対に守ると決め、絶対に離さないと約束したルージュは守れず、悪魔ごときに弄ばれた。

 

英雄として、守らなければならない学生たちに傷を負わせ、今も絶望から解放することができていない。


強者として、絶対に打倒しなければならない敵が目の前にいるのに、倒し切れていない。これほどの力を持っているのに、殺せていない。


一体僕は、なんの為に剣を握っている。何も出来ていないくせに、なぜ、英雄と名乗っている。


(なにが…英雄だ…こんなんじゃ、ルージュを守れない…アルに、追いつけない…!)


僕の瞳からは、涙が流れていた。決して流してはいけない想いの結晶が溢れていた。その時に、彼女は目覚めた。


「あ、れん…」


「ルージュッッ!!!!」


僕は神速の勢いで彼女のもとに駆ける。ルージュを優しく抱きかかえると、彼女は僕に甘く、暴力的なキスして、こう言った。


「ありが、とう…私の、ために、怒って、くれて…私の、ために、泣いて、くれて…」


「…!?、ッッッ!!!」


僕の瞳から涙は止まらなかった。ルシファーは肉体の再生を優先しているからか、手を出してこない。


「でも、もう、だい、じょうぶ。アレン、は、すごく、かっこ、いい、よ…」


そう言って、ルージュは再び意識を失った。僕の瞳からもう、涙は流れない。僕の中で。答えはもう決まった。


「ありがとう。か、僕の方こそ、ありがとうだよ、ルージュ。」


僕の顔には表情が戻り、声音は明るいものに変わる。その瞳に映るのは、怒りの殺意ではなく、純然たる護心の決意。


(英雄としてとか、漢としてとか。そういうのは一旦全部、放っておこう。)


「君の感謝に報いるために、みんなの期待に応えるために、僕は、剣を振るうよ。」


◆◆◆


ユニークスキル【正義】を獲得しました。


◆◆◆ 


「さぁ、勝つよ。そして始めよう。僕の、本当の英雄譚を。」


『ぶっ殺してやる…!!!』


ルシファーの瞳は殺意に塗れていて、体の全再生を終えたようだ。だが、先程何十回も死んだせいか、右腕だけ再生しきれていない。その他にも、粗いところが何箇所もある。


神剣の光は天にも昇り、悪の心を刺す。純粋な正義の心が、僕の心に真の意味で宿った。






―――――――――――――――――――――




ブチギレアレン君の身体能力数値は五十万を超えています。このレベルになると、地を蹴ると地面が爆発してマッハにも到達してしまいますね!

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