第22話 禁忌の獣と…


「そんじゃ行くぞッッ!!!」


30000を超えた身体能力によって地を蹴り加速。バチバチと雷を付与した白大剣を凄まじい勢いで奴に向け振り下ろす。


『グァァァァァ!!!!』


「中々重いなァァ!!!」


するとケルリアスも乗ってきて、奴の左前足によるスマッシュと激突。俺の笑みが大きくなる瞬間、奴の左前足からゴキッと音が鳴り力が弱くなる。


「【極炎の威吹イフリート】ォッ!!!」


『グァァァァァ!!!』


弱まった瞬間、爆炎を超える獄炎を白大剣に付与し発射。前方を飲み込み燃やし尽くす炎がケルリアスの体を包み吹き飛ばす。


(今の極炎の威吹で魔力200万くらい持っていかれたなァ。だが、出し惜しみをしてる場合じゃねえな?)


『グァァァァァ!!!!』


その時、ケルリアスの全身から漆黒の触手のようなものが大量に生えてくる。触手は自由自在に伸び縮みして、先端には明らか殺傷力の高さそうな刃がついている。


「おもしれェッ!!!!」


俺は白大剣を亜空間に仕舞い手ぶらになって地を駆ける。すると、俺をホーミングするように無数の触手が飛び出してきた。だが、俺の魔眼で見切れないほどじゃない。手ぶらになって動きやすくなった体でその全てを避け、攻撃の勢いが弱まった所で空に飛び、両手をやつに向けて翳した。


『グァァァァァッッ!!!!!』


「凍てつけよォッ!!!【絶氷の零度アブソリュートゼロ】ォォッ!!!」


奴に向けて絶氷の冷気を叩きつけると、ケルリアスは3つの口を大きく開き、その全てから再び暗黒ブレスを放つ。絶氷とブレスが激突すると相殺しあい、周囲は凍り付き、暗黒の破壊によって地面は抉れる。


『グオォァァッ!!!』


「やべッ!?…」


相殺したなら問題ない。もう一度放つまでと思い再度聖級魔法の発動を準備すると、背後から漆黒触手が俺の背中を切り裂いた。致命傷にはならないが、無視していい傷でもない。


なによりやばいのは、この空中で奴への警戒が一瞬触手に奪われたこと。気付いたときにはもう遅く、奴の3つの首が俺の正面に牙をむき出しにして襲い掛かってきた。


「【護天桜花】!!」


「…ッ!!カグラ!!!!!」


四肢を食い千切られることを覚悟した瞬間、俺の目の前に展開されるのは1枚の人間大に大きい一枚の桜の花びらが出現する。それは俺が今まで見た中で一番硬く、ケルリアスの1秒間に100回は繰り出している噛みつきを全て無傷で防いだ。


(姉様の結界よりも硬いんじゃないか?これ…)


「あんま無茶すんじゃないよアルフレッド!アンタが殺られたらアタシたちまで巻き添えだ!」


「ごめんカグラ。助かった。」


俺は空を蹴りカグラの元へと着地。その時、紫宝のスキルが発動し全回復と身体能力魔力が二倍になる。


『グァァァァァ!!!!!』


その時。ケルリアスの頭部に無数に存在する目玉全てから、視界を埋め尽くすほどの漆黒の光が放たれる。光が止むとそこには、頭が一つだけで、二メートルくらいのミニケルリアスのような漆黒の獣が何十匹も出現していた。


「これはやばいな…」


あまりの数にカグラを守りながら戦うのは不可能だ。カグラを守れたとしても奴は倒せないし、後ろの奴らには確実に死者が出る。


「雑魚共は私が相手する。」


「ルター。戻ったのか。」


「えぇ、アナタばかりに良い所は見せてあげないわ!!だからさっさと行きなさい。」


降霊。死者の魂を自身の身体に落とし死者の力を我がものとする特別なユニークスキル。現在の彼女は頭からモフモフな猫耳が生えていて尻尾まである猫人のような状態のことから、神話の龍英雄【ガングリオン】を降霊しているのだろう。


「助かる!!」


『グァァァァァ!!!!』


ルターへのお礼を告げた瞬間、ケルリアスの触手の数がさらに増えおよそ200本まで増大する。心なしか先程よりもスピードやパワーが上がっており、こうして手ぶらで駆け出して回避するのも時間が掛かれば集中が切れていずれ食らってしまうだろう。


「一か八かって奴だなァァァ!!!!」


俺は叫び、上級の重力魔法にしか出来ない重力反転を行った後に思い切り地を蹴り超上空に跳躍。ここからでも魔眼なら奴を捕らえられる。視界に映るケルリアスは困惑したような表情と殺意を滲ませ空を睨んでいる。


(今まであんま使ったことがない魔法だが、優秀さはピカイチだぜ?)


法則魔法。魔力を大量に消費することで新たなルールを一時的に制定し、範囲内の生物はそのルールに従わなければならなくなる魔法。それに加えて、磁力魔法と重力魔法を掛け合わせる。


ただの火や雷、氷ではあのケルリアスを倒すことは叶わない。恐らく、禁忌で作られた獣故に普通の魔法には耐性があるのだろう。ならば、魔法によって作り出す科学の力で倒してみせよう。


「【法則制定】」


法則魔法を発動。定める法則は『相互回避不能の法則』、俺とケルリアスはこれから1分。互いの攻撃を避けることを禁止とし、打ち合わなければならない。


定められた法則により、ケルリアスは俺の空中位置を把握する。するとケルリアスは魔力を三ツ首に集約させていく。その魔力圧は、先程までのブレスとは格が違うものだ。


「磁力収束、回転。電雷付与に爆収、さらに重力限界収束を撤廃し回転、収束。」


磁力魔法、重力魔法、雷魔法。この3つを組み合わせ俺の3000万を超える魔力をありったけ注ぎ込んで一つの魔法を完成させる。


その時、魔眼とケルリアスの無数にある瞳のうちの一つが見つめ合った。その瞬間、ケルリアスは口を大きく開き、限界まで収束させられた魔力による巨大暗黒ブレスを超上空の俺に向けて放つ。


「猫の手も借りてきな!!!!」


カグラの叫び声が上がると、桜の花びらはケルリアスの周囲をくるくると回転する。するとケルリアスの魔法防御力が著しく下がる。


(ありがとうカグラ。これで、終わらせてやるよッッ!!!!)


「【超電磁重力収束砲ブラックホールレールガン】ッッッッ!!!!!!」


両手を束ね奴に向けてかざす。魔法陣は今まで作ったものの中で一番大きく、そこからはなたれるのは全てを飲み込むブラックホール、それを超速超威力で全てを破壊しながら運ぶ超電磁砲。


ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!という、凄まじい轟音が鳴り響き暗黒ブレスと重力超電磁砲がぶつかる。だが、暗黒ブレスは呆気なくブラックホールへと吸い込まれていき、超電磁砲は止まることなく数百メートル下のケルリアスへと突撃した。

 

「沈め犬っころォォォッッ!!!!!!」


『グァァァァァァァァァァ!!!!!!!』


過去一の悲鳴を上げ、ケルリアスへと衝突する重力超電磁砲。超電磁砲によりケルリアスの肉体は完全に破壊、サイコロステーキのようなきれいな形じゃなくバラバラにされ、そのバラされた肉体はブラックホールに一瞬で吸い込まれ、まるで最初から存在していなかったかのように消滅した。


「まだだぞッッッッ!!!!!」


俺が一安心して魔法を解除して地上に降り立ったその瞬間、ほんの一欠片。数ミリサイズの肉片から一瞬でケルリアスは再生してしまった。それも、俺の真後ろで。そして俺は、あらゆる魔法を解除してしまっていた。


『グァァァァァ!!!!!』


「ぐふァッッ!?!?…」


俺の左胸、心臓を貫くのはケルリアスの触手。とてつもない出血と共に触手は俺の体をずたずたに引き裂き、俺の体は地面へと倒れた。


「アルフレッド!?アンタ、しっかりしなさいな!!」


「シシリス!!お前が死んだら、お前が死んだらァッ!?…」


心臓を貫かれ、致命傷を喰らっても不思議と意識は途絶えず声は聞こえる。必死に治療をしようとしているが、紫宝はすでに先程の背中の傷で使ってしまった。俺の意識はそこで、消えてしまった。


「あ、ある、アルフレッドくん…君が死んだら、私、どうすれば…」


完全にキャラが抜けて、素の少女の姿を晒すカグラ。ルターは敗北を認めたくないが、アルフレッドが死んだことで自分も死ぬことを悟って、どうすんだよ!と言いたいがプライドがそれを許さずに歯を噛み締めている。


『グァァァァァ……』


ケルリアスは不気味な、しかし楽しそうな笑みを浮かべている。触手を空中で弄ばせ、カグラとルターの心を痛めつけている。


「ひっ!?…」


その時、カグラの左腕が触手によって薙がれ空中へ飛ぶ。とてつもない出血とあまりのショックに、カグラは能力を解除してしまう。


誰がどう見ても絶望。絶体絶命という言葉以外この状況を表せる言葉はないだろうという状況に追い込まれている。ルターは恐怖とプライドがせめぎ合い立ち尽くし、カグラは絶望と痛みでなみだを流し蹲る。

 

だが、両者の瞳は依然アルフレッドへと向けられている。彼ならば、まだきっとどうにかしてくれると。彼がこんなもので死ぬわけがないと、そう信じて。


『グァァァァァ!!!!!』

 

「ッッ…!?」


「あ、あぁっ…」


その時、ケルリアスは叫び声を上げ三ツ首に暗黒を集約し始める。カグラとルターの表情は絶望に染まり、あのルターもプライドをへし折られ涙を流した。
















―――――その時、耳飾りは黄金に光り輝く。



「と、まれッ…!!!!!」


アルフレッドは無意識に右手を伸ばした。その魔眼は右目だけ半分開かれていた。発動する魔法はなんでもいい。ただ、あの二人を守るという思いで放たれた魔法は、二人の前方に立ち塞がる虹色の壁。


発射される暗黒ブレス。先程アルフレッドに向かって放たれたブレスよりは遥かに弱いが、そのブレスは虹色の壁にぶつかると、パキパキと音を鳴らしながら徐々に破壊していく。


だが、カグラが立ち上がるにはそれで充分だった。一度死んだと思った男が、手を伸ばした。それだけで、彼女の絶望は希望へと変わる。


「【護天桜花】!!!!!!」


正真正銘。カグラの人生史上一番の出力を持って作られる花弁の防壁。それは、虹色の壁を破壊して彼女たちに進んだ暗黒ブレスを、数秒触れただけで霧散させた。


『グァァァァァ!!!!!!』


ブレスを防がれたことによる驚きと、いつでも殺せると思っていた餌が生き延びたことによる苛立ちでケルリアスは叫びカグラとルターに向け突撃する。カグラは護天桜花をキープし続けるが、奴の突進を受ければ容易に砕かれることはわかっていた。


それでも、もう、涙は流さなかった。最後まで前を向いた。


アルフレッドの決死の時間稼ぎ。絶望を希望に変えたカグラの盾。そして、プライドをへし折られても死を受け入れない少女。


その全てが、一筋の希望となり、一縷の光となり、一等星を呼び寄せる。


彼の、彼女らの、時間稼ぎは決して、無駄ではなかった。 














『…………………』


『ぐ、グオォ…』


その場にいる全生物が動きを停止して、上を見上げた。空に佇むのは、金の毛で全身を覆い、九本もの尻尾を揺れさせる四足歩行の狐の獣。その金色の瞳の向く先は、地面に倒れ、心臓を貫かれながらも、少女らを守ろうとした男。アルフレッド=シシリスへと向けられた。


「ッ…べ、ガ…?」


『……………』


金の鐘から応答はない。金色の獣は体を揺らすと自身の尻尾から一本の毛を落とす。その毛はアルフレッドの体へと舞い降り触れる。すると、アルフレッドが負う全ての傷が癒えてしまった。


『立派であった、小僧。』


金色の獣は地にその脚をつき、禁忌の獣に視線を向ける。そして、言の葉を発した。


『闇の者よ、救いを与えよう。』


ユニークモンスター十体のうち一体。中央大陸において人間の勝利に大貢献した金の鐘を鳴らす狐。


【金鐘のベガ】。希望を照らす守護神が舞い降りた。




















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