第21話 災厄の始まり
「いやぁ〜、毎晩遊び相手が来るから楽しいなぁ!!」
「あの襲撃を遊びって思えるあたり、アタシたちとは次元が違うね。」
「ルビーはモダンが守ってくれるから楽しい!燃やすだけでいいの!」
「たまに俺事燃やすのは勘弁してほしいけどな。」
夏合宿開始から四日目、あれから毎晩モンスターの襲撃にあっている。食料の確保には困らないし、レベル上げにもなるけどちょっとこの量は異常だ。初日の夜は東西南北合わせて1000匹もいなかったけど、三日目の夜には3000匹程度まで増大してしまった。
「まぁそのおかげで、レベル60まで上がったから嬉しいけどな。」
「アタシはそろそろ70になるよ。」
カグラは平民出身だがレベルが高い。平民組はレベルが高くないと入試を突破できないから当然だけど、レンと違ってカグラは物理がゴミな代わりに超魔法特化だ。
「にしても、他の班はどうしてんだろうな?」
「さぁな。俺達のところにはアルフレッドがいるが、アレンとルージュ様んところは平気だろうけど他二班はヤバそうだよな。」
「レンはダンジョン学習以来、急激に強くなってるし心配いらないだろ。怖いのはルターの所だな。ルターも序列一桁でレベルも俺とアレンに次ぐ71で戦闘力はあるが、協調性が皆無だからな…」
ルター=フォルテラン。フォルテラン公爵家という、シシリス侯爵家と同じ三剣の一家の長女である彼女は魔法ではなく【降霊】という不思議な術を扱う。
原作でも強力な味方となっていたが、その性格は、傲岸不遜で極度の負けず嫌い。だが自分より上だと認めた相手には立場を弁える器量のあるキャラ故に、性格を少し良くした原作アルフレッドみたいな感じだ。
「初日に襲ってきたあのボス猿。あのレベルがルターやレンの所に行っていれば確実に被害が出る。ちょっと、偵察にでも行ってこようかな。」
「へぇ?あのアルが他の班の心配〜?」
「なんだよアイリス。俺が他人の心配するのがそんな意外?」
「い〜や?違うけど〜?」
なぜか頬をぷく〜っとさせるアイリスを、はいはいと宥めつつ、アイリスの作った朝食を食べ終える。
「アルフレッドが他の班の偵察にいくなら、アタシも行こうかね。」
「分かった。カグラの他に来たい人いるか?」
「はいはーい!私行きたーい!」
「アイリスが抜けたら拠点襲撃に対応できないから却下だ。ごめんだけど、おとなしくお留守番しててくれ。」
「ぐのぉぉ…」
撃沈するアイリスを放っておいて、俺は立ち上がる。カグラも立ち上がり俺に追従するように自身の赤い宝玉のついた杖を握り歩いてきた。
ログハウスから出て東側。この4日間で唯一探索していない方向に向かって歩き出す。カグラの身体能力数値は本人曰く2000もないらしく、この森を歩くのが大変だから歩くスピードは合わせてくれと言われた。
「なぁアルフレッド、アタシの学園でついちまった二つ名、知ってるかい?」
「二つ名なんてものがあることを初めて知ったんだけど?」
「ちなみにアンタは【魔眼の英雄】だね。アタシは【幽桜の桜姫】、姫ってガラじゃないんだけどね。」
「いや、なんか分かるわ。」
怪しい雰囲気も、世界観に合わせすぎる和服も、チャームポイントの赤いインナーカラーも全部がその二つ名を想起させる。
そんな感じで東方面に歩くこと30分ほどが経つと、俺とカグラは確実な異変に気が付く。
「カグラ…」
「分かってる。異様なほど、静か。いや、静かすぎるってのが正しいかね。」
「急ぐぞ。嫌な予感がする。」
「あひゃっ!?」
ごめんだけど配慮する気はないからな、痛くはないようにしてお姫様抱っこする。そのまま身体強化魔法を発動し、脚に炎風を付与して走る。
魔力探知の範囲を10キロまで広げる。すると約八キロ先、反応がある。それも大量のモンスターと少数の人間の反応だ。
「しっかり掴まってろよ。」
「ひゃ、ひゃい!?」
炎風の爆発のあとに雷を放出して更に速度強化。時速にして300キロを超える速度で八キロ先の反応に迫る。
(かなり近くなってきた。この反応からして白猿ではないな。)
結構なスピードを出していたためすぐに目的地へと到着する。全力で跳躍し木々を上から見下ろすとそこには、見ただけで悍ましい気分になる怪物と、ルターたち一行が争う光景が広がっていた。
「【絶氷の
放つ絶氷によって周囲の人間以外の全てを凍らせる。だが、凍らせた怪物はすぐに氷を破壊して抜け出してしまった。俺はその隙に着地しカグラを下ろす。
「シシリス!?どうしてここに!?」
「ルター。それに答える暇はない。どういう状況だ?」
「見ての通りよ、休憩中にいきなり襲われたの。悔しいけどアイツ、私の攻撃で傷一つつかないわ。」
紺色の腰まで伸びた長い髪と、深い青色のキツイ目が特徴的な少女ルターは降霊を使っているからか、その頭からは二本の黒い角が生えていて両手には三叉槍が収まっている。
そして、ルターが指さして歯を噛みしめる怪物は全身が黒い毛で覆われていて四足歩行の獣。全長が10メートルほどだが、一番気味が悪いのは頭が三つありその頭の全てに夥しい量の目玉がついていることだ。
(ベガに比べたらカナブンくらいだけど、これは強いな。)
俺の原作知識によって出された答え。奴の名前は禁忌獣ケルリアス。レベル90の怪物で、たしか高位の悪魔術師が希少な供物を消費して作り上げる禁忌の魔法生物だ。
これが現れたということは、夏合宿に起きるイベントの始まりである。いや、なんならアレンのほうではすでに異変が起きているかもしれない。
「カグラ、援護を頼む。ルターは傷を癒したら前線に復帰しろ。もう動けないやつはここから西方向にまっすぐ進め、俺の拠点がある。」
「私はもう動けるわよ!!」
「良いから黙って休めルター。今のお前じゃ、すぐに死ぬッッ!!!」
『グァァァァァ!!!!』
ケルリアスは奇妙な叫び声を上げ、全身から黒いオーラを爆発させる。すると周囲に突風が巻き起こり、次の瞬間にはルターの眼の前まで移動しておりその爪を振り落としていた。
「下がってろッて言ったろッッ!!!」
『グァァァァァ!!』
瞬間。全身に雷を迸らせた俺はルターとケルリアスの間に入り込み、白大剣にてガード。その重たすぎる振り落としの一撃を、白大剣に付与した上級炎魔法の爆炎で燃やし、奴を後退させる。
「ッ…!絶対に戻る!!」
ルターはそれだけ言い残して後ろに下がっていく。あいつには自己治癒手段がある。回復までには時間が掛かるだろうがそれくらいは大丈夫だ。
「アルフレッド!受け取りな!」
「カグラ!マジ助かる!!」
後方から飛んでくるのは怪しいピンク色の光を放つ桜の花弁。俺がそれを受け取ると花弁は中に取り込まれピンク色のオーラが俺から発せられるようになる。
「【強化桜花】。一時的にだけどアンタのレベルを五程度上げた!気張りな!!」
カグラの武器はこの【桜】。カグラは作者からのお気に入りキャラ認定をもらっており、このユニークスキル【幽桜の桜姫】は桜を通じて攻撃に防御に治癒に強化など、大抵なんでもできるのだ。
「さて、負けられないな?」
『グァァァァァ!!!!』
身体強化魔法で9000、身体強化スキルで15000まで上げ、魔傑で30000。さらに炎風で速度強化、雷は速度強化に加えて反射神経強化に感電効果追加。重力魔法で重力を軽減し相手の重力を加算、風魔法で空気抵抗を減らす。
それに加えて、5レベル分のパワーアップ。大体一つレベルが上がるだけで身体能力や魔力は本人の才能にもよるが俺の場合1.5倍程度まで増えるため、現状の身体能力は100000以上。魔力に至っては三千万以上だ。
まだ紫宝を使うには速いが、紫宝を使わない現状の最大身体能力まで引き上げたこの状態で奴に挑む。
「推奨討伐レベル90の犬っころ退治、やってやらァ!!!」
『グァァァァァ!!!!!』
白大剣に極炎の威吹が付与され放たれる。ケルリアスの3つの口が開かれ、黒竜のブレスなど比べ物にならない威力の暗黒ブレスが放たれ極炎と衝突する。
開戦の火蓋が切られるに相応しい攻撃のぶつかり合いにて、戦いがスタートした。
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