第20話 料理人と防衛戦
「あ、アイリス…アンタね…」
「でっかいイノシシさん!!」
「えへへ、照れるねぇ!」
調査から戻るとすでに日は沈んでいて、時刻にしたら七時前後だ。周辺には金鐘のベガ以外になにかヤバいものはおらず、近くに他の班もいなかった。
拠点に戻るとそこには、自信満々に宝剣を担ぎ笑うアイリスと五メートルくらいのデカい猪、ドン引きのカグラと興奮するルビーと地獄絵図だった。
「赤い牙…レグドルを狩ってきたのかアイリス。」
「これレグドルっていうの?まぁまぁ強かったから絶対美味しいと思うんだよね!」
「レグドルは一級のモンスターだからある程度強いのは当たり前だろ、それに、レグドルの肉は皇族や王族の料理に出されるような肉だからな。上手いに決まってる。」
歩く辞書と名付けたいくらいの豆知識王なモダンによる解説。なんともお腹を鳴らされる説明に、全員の心が躍った。
「よっし料理人アイリスに任せなさい!みんなは好きにしてて!!」
「ありがとうアイリス、期待してるよ。」
「ッ!!うん!!」
気合を入れたアイリスは、ルビーが火加減を頑張って調節した炎魔法によって起こされた火を確認すると、レグドルの体を超速剣技でいくつかの肉片に切り分ける。
「そうだ皆。さっき調査についてなんだけど…」
カグラとルビーにも、先程北西の方向に数キロ行った先にベガの存在があることを知らせた。カグラはキャラがすっかり抜けてポカーンとしており、ルビーはキラキラした目を浮かべていた。
「でっかい狐さん!!」
「でっかいけど、おんなじくらい怖い…」
やっぱりカグラはキャラが抜けると、小心者なただの女の子みたいになる。ギャップ萌えというやつが読者に刺さりそうでなにより。
「はいはーい!!みんなできたよ〜!!」
30分ほどが経つと、アイリスの声がキッチンのほうから聞こえてきたので、みんなで大きな机に座る。
そして出てきたのは、もうすんごい美味しそうな匂いをしたステーキたち。その枚数は10な20ではなく、全員から表情が消える。
「あ、アイリス…もしかして、アイツ全部焼いたの…?」
「うん!いっぱい食べて元気出さないとね!」
「「「「………」」」」
机中に並ぶステーキ、カグラを製作の巨大なお皿に皆の視線が奪われるとアイリスはどこか自慢げな表情で、こちらを見つめた。なるほど、これは残したら斬り伏せられるやつだな。
「もうやってやらぁぁ!!!!」
「そうだなアル!食い切るしかねえ!!」
「アタシはできるだけ頑張るよ…」
∇∇∇
「もう…動けん…」
「あはは!作りすぎちゃったね!」
「アンタの胃袋はどうなってるんだい…まったく…」
1時間後、山のように積み重ねられたステーキはすっかり無くなった。代わりに俺含めアイリス以外の全員が撃沈してしまった。アイリスの胃袋はカー○ィなのだろうか。
「でも、味は凄かったぞアイリス。こんな森林でどうすればこんな味の肉を作れるんだ?」
「適当に周辺に生えているハーブとか香辛料とか集めて調合しただけだよ?これでも、料理の腕はうちのシェフより良いんだからね!!」
「そりゃ凄えわ。アイリスがいるから夏合宿のご飯は心配しなくて良さそうだな。」
「えへへ!!任せてくれたまえ!」
アイリスの表情がさらに緩むが、機嫌が良ければ明日のご飯も張り切って作ってくれるだろう。
(ん?魔力探知に反応?)
俺は満腹の体に治癒魔法をかけ立ち上がり、魔力探知に意識を向ける。
「皆、周囲にモンスターの反応。数は…100や200じゃねえな。」
「パックス森林のモンスターでこれだけ群れるってなると、
「ならフォーメーションを組もう。拠点を囲まれてるし南はアイリス、東はモダンとルビー、西はカグラ。一番反応が強い北は俺が担当する。最優先は拠点の防衛だ。」
「「「「了解!」」」」
原作でも、というかバックス森林は中央大陸の中でもトップクラスで広い危険地帯。そりゃ人間がこんな場所で生活してたら襲われる。こんなのはイベントですらない。
「そんじゃ行きますか。」
ログハウスの二階にある非常扉を開け北側に飛び降りる。そこに広がっている光景は、数多の木が薙ぎ倒され、数え切れないくらいたくさんの白猿の大軍だった。20体ほどだろうか?上位種らしき白ゴリラもいて、一番奥には明らかボスらしき、三メートル級の体に窪んだ赤い瞳と、全身に紫色の斑点があるデカい白猿がいた。
(ボス猿はヤバいな。ベガに比べたらアリンコだが、感じる限りだと蜂も上回る。)
レベルにしたら80後半程度はあるんじゃないだろうか。俺以外にコイツを単独で対処できるのはアイリスとアレンくらいだろうな。
「取りあえず、雑魚は一掃してやる。」
『『『『『『ウキキキキ!!!!』』』』』』
嫌な笑い声を白猿共があげると、奴等は獲物を見つけたような表情でこちらに突っ込んでくる。俺は冷静に白大剣を取り出し、身体強化魔法を発動。魔傑も加わり、身体能力はマイナス一万があっても9000ほどにはなった。
加えて、白大剣に魔法陣が集約し周囲にとてつもない冷気が走る。白大剣からは触れただけで全てを凍りつかせてしまうほどの冷気が収束し、光を放っている。
「凍てつけ。【絶氷の
振り上げた白大剣を、魔法の起動とともに振り落とす。すると一瞬、パキッという音が鳴ると俺の前方100メートルほどに、視界を埋め尽くすほどの光が走る。
光が止むとそこには、氷の森が広がっていた。悪意に塗れた白猿も、殺意を剥き出しにした白ゴリラも、なぎ倒された木も、栄養をたっぷり含んだ地面も、全てが凍り付き、残っていたのは俺とボス猿だけだった。
(聖級の氷魔法。これでも奴の右腕しか凍らなかった。まぁこれで仕留められたら逆に呆気ないな。)
「さてさて、魔力が二千万を超えた俺の力。見せてやろう。」
『ウキッ!!』
白猿が地を蹴り空中に飛び上がると、奴の周囲に幾つもの魔法陣が出現し、そこからはただ死を詰め込んだような、漆黒の光線が放たれた。
「俺にわざわざ魔法の撃ち合いを挑めとか馬鹿なんじゃねえか?」
俺も魔法陣を展開。迫りくる光線を走りながら回避して発動する魔法は地水火風四属性を組み合わせた槍の砲撃。
ただ放つだけなら使用魔力は30程度で威力はそこまでだが、一本一本に込められる魔力は1000を超えており当たるだけで大岩など木っ端微塵になるほどの威力だ。
『ウキキ!!』
「逃げるなよ猿、楽しもうぜ?」
ボス猿が放つ黒光線をかき消しながらやつに迫る虹色の槍たちを、ボス猿はアイリスにも迫る神速で走り回避する。だが、槍の放つ方向と数を調整し、奴をとある場所に誘導する。
心臓を狙う虹槍を後方に飛ぶことで回避したボス猿の足元には魔法陣が展開されており、それを踏んだボス猿の全身に使用魔力10000の一億ボルト電流が流れる。
「【極炎の
『ウキキキキ!!!!』
痺れて一瞬動きが止まるボス猿の上空に、すでに俺はいる。左手を奴に向けて翳すと、巨大な赤い魔法陣が出現し、そこからはかつて蜂を葬った極炎の砲撃が発射される。
ボス猿は自身の周りに魔法陣を展開し、黒い水のような液体で全身を覆う。なんとも気味が悪い防御だが、そんなもので聖級魔法は防げない。
黒水を全て蒸発させ、周囲の地面も大気も燃やしながらボス猿へと炎が届く。蒸発した水と土煙によって視界が遮られるが、奴の生体反応が段々静かになるのを感じる。
土煙が晴れる中、俺はトドメを刺そうと再度魔法陣を展開する。発動するのは聖級の雷魔法、これで確実に殺せると思った瞬間。俺の油断を突き刺す一撃が走る。
「ぐっ!?…」
土煙の中から、魔眼ですら捉えきれない速度の黒光線が走り俺の腹部を抉り貫通する。咄嗟に右に避けなけれけば、心臓を貫かれていた。
(魔法の発動を完全に隠すほどの隠密技術…そして、完全な不意打ちで魔眼による見切りをさせなかった…)
流石は猿というべきか、頭が良い。だが俺の右耳には、兄様から受け取り金鐘の一等星から祝福された耳飾りがあるんだよ。
「【紫宝】」
耳飾りが紫色の強い光を発すると、抉り貫かれた腹部は完全に元通りになり血も補充され、消費した魔力も全回復する。そしてステータスを確認すると、身体能力は18000にもなり、魔力に関しては四千万を超えた。
「まぁ、ほぼズルみたいなもんだからごめんな。」
『う、ウキキ…』
土煙が完全に晴れると、全身を火傷させ今にも死にそうなボス猿の姿があった。きっと、最後の一撃だったのだろう。まぁ紫宝を使わなくてもあのくらいなら治癒魔法を使えば問題なかったが、どうせもう夜だし使っても問題なかったからな。
「【雷轟の
ボス猿に向けて放つ聖級の雷魔法。耳を劈くような爆音、視界を埋め尽くすほどの金雷の嵐が周囲の大気も地面も木も、全てを爆砕しボス猿へと到達。ボス猿の全身も、凄まじい電流により完全に爆砕される。
(聖級魔法の威力は凄いな。一発で数十万の魔力を持ってかれるけど、魔天を使って一億にも昇る大量の魔力で放てば文字通り、地図を塗り替えるくらいの威力を出せる。)
「よし。戻るか。」
その時、俺の脳内にレベルアップが告げられる。これでようやく、レベル79だ。
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